【完結】平民として慎ましやかに生きようとするあいつと僕の関係。〜平民シリーズ③ライリー編〜

華抹茶

文字の大きさ
6 / 34

5 その目はオッドアイ

しおりを挟む



そして翌日。午前中に学園の寮を出て街に出た。

ヴィンセントは街にも出た事がなかったらしく連れ出すことにした。そしたらきょろきょろと物珍しそうに周りを見てる。相変わらずの無表情だけど。

「楽しい?」

「…おそらく。初めて見るからでしょうか。少し…これはなんていうのでしょう。」

「たぶん、『ワクワクしてる』、じゃない?」

「ワクワク…。」

ぼそりと呟いて考えてる。

「僕も初めて見るものや知らない事を知った時とか、楽しいし嬉しいしワクワクする。」

「そうなのですね。これが『ワクワクする』。」

こうやって一つ一つ知っていけば、きっと感情豊かな顔になる。そんな気がする。

そうなってくれたらヴィンセントはもっと変わるだろうし、自分の存在が不幸を撒き散らすなんて言わなくなるはずだ。そうなってほしい。


軽く昼食を食べてから転移門へ向かった。


「これが転移門。知ってはいましたがここへ来るのも見るのも初めてです。」

「これもワクワクする?」

「はい。ワクワク、してます。」

あ、また少し笑った。

やっぱり綺麗だなって思う。うん。そうやって笑った方がずっといい。

僕も少し嬉しくなって、ヴィンセントと一緒に転移門を潜ってソルズへと戻ってきた。


「ただいま~!」

「えっ!? は!? ライリー!?」

あ、良かった。父さんも母さんも家に居た。

「ライリー、なんでここにっ!? 学園はっ!?」

「うん。数日休むことにした。そんで紹介するね。彼はヴィンセント・トルバート侯爵……もう侯爵令息じゃないんだっけ。」

「はい。私はもう平民となりましたし、トルバート家とは縁が切れています。…初めまして。ヴィンセントと申します。」

「…はい、初めまして。ライリーの母のエレンです。よろしく?」

母さん、どういうこと?って顔してる。


リビングに集まって事情を説明した。ヴィンセントが婚約破棄宣言された所に居合わせたこと。気になって友達になった事。ヴィンセントが勘当されて学園を出た事。


「はぁ~…。この世界は婚約破棄騒動が流行ってるのか?それに勘当されて平民になったとか。他人事だとは思えない…。」

母さんがため息ついて頭を抱えてしまった。境遇は似てるよね。国外追放になっていないだけで。

「それで行く当ても頼る人もいないっていうから連れてきた。家に住まわせてあげてもいいよね?」

「え、ライリー様?」

家に行くとは言ったけど、住まわせるなんて言ってないしな。

「…部屋は余ってるから問題はないけど。それよりもライリー、そういう事は事前にちゃんと言え。俺たちもヴィンセント君もびっくりするだろうが。」

「あ、あの。私は他へ行きますので。」

「はい却下。これからどうするか考えてるの?生きていくのに何が必要でどうしなきゃいけないか、わかってる?」

「それは…。」

わかってないよな。今まで碌に外へ出たことないんだから。これから何をしなきゃいけないとか、どうやって生活するとか。

「とりあえずヴィンセント君。家は大丈夫だからここに住んだらいいよ。それに俺と境遇が似てて放っとけないし。ライアスもそれでいいよな?」

父さんも問題ないって言ってる。でもヴィンセントは何とかして断ろうとする。

「あの…私は左右の目の色が違いますし気味が悪いと言われます。そんな私が居てはご迷惑になりますので…。」

「あ、それ思ったんだけど目の色が違うって珍しいよな。オッドアイなんて初めて見た。」

「え?」

オッド…なに?母さん、こんな目の事知ってたの?

「オッドアイ。左右の目の色が違う事をそう言うんだけど、あんまり知られてないのか。っていうかこの世界じゃオッドアイって言葉が無いのか?」

「エレン、俺も初めて聞きました。それに俺もそのような目の持ち主は初めて見ましたよ。」


母さんすげぇ。昔からそうだけど、なんでこんな皆が知らない事知ってんだよ。

「あの…気持ち悪く、ないのでしょうか。」

「ん?なんで?気持ち悪いどころか綺麗じゃん。」

さすが母さん。皆が不快に思ってるのを綺麗だって即言い切った。

「綺麗…?ですが今までそんな事は一度も言われたことありませんでしたし、気味が悪いと…。」

「う~ん。多分知らないからじゃないか?珍しい現象だし。ライアスは?ライアスも初めて見たんだろ?どう思う?」

「俺も特に気持ち悪いとは思いません。何というか、神秘的だと思いました。」

うん。やっぱり父さんと母さんだ。
ヴィンセントのやつ、初めてこんな事言われて呆然としてる。ははっ、家に居たらコイツあっという間に感情豊かになりそうだな。

「ま、とりあえず部屋準備しなきゃだな。急に言われて何も出来てないし。」

「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。」

「ん?ヴィンセント君は気にしなくていいよ。ライリーのせいだから。ってことでライリー、お前がちゃんと準備しろよ。」

「かしこまりましたよ、お母様。」


僕は空いてる一室をヴィンセントの部屋にするべく掃除をし始めた。

「じゃあヴィンセントも一緒にやろう。お前の部屋だしな。」

2人で掃除すればあっという間に終わった。元々そんなに汚れてないしな。

「それにしてもライリー様の家ってとても大きいのですね。この部屋も、侯爵家での私の部屋よりも広いです。こんな良い部屋を与えられて良いのでしょうか。」

え。今までどんな部屋にいたの。確かに大きな家だけど、平民としてみればって話で貴族の屋敷とは比べ物にならないはず。

「あのさ。言いにくいかもしれないけど話してほしい。…侯爵家ではどんな感じで生活してたの?」


話すかどうか迷っていたけど、ポツリポツリと話してくれた。その内容に僕は驚いた。

まともな生活じゃなかったんだろうとは思ってたけどここまでだったとは…。

今までずっと1人で食事してきたとか、母親に産まなければ良かったと言われたり、食事もたまに抜かれていたとか、硬い棒で叩かれて死にかけたとか…。他にも色々酷いことされて。

こんな中で今まで生活してきたのかよ。そんなの無表情になったり感情がわからないとか、こんなふうになるに決まってるっ!

ヴィンセントの家族はクソだろっ!自分の子供だぞ!? 目の色が違うってだけでこんな事…信じられない。コイツは何一つ悪いところなんてないじゃないか。全部、全部周りの勝手なこじつけでコイツを傷つけてきたんだ。

胸が苦しくなってヴィンセントを抱きしめた。

「ライリー様?」

「今まで頑張ったな。もう大丈夫。大丈夫だから。ヴィンセントは自由だ。何にも縛られず自分のしたいように、やりたいように生きていいんだよ。言いたい事も言えばいい。我慢しなくていい。誰もヴィンセントを否定しないから。」

「…私は、自由?」

「そう、自由。誰かの言いなりになる必要も、従う必要もない。ヴィンセントの意思で決めていいんだ。お前の人生だ。お前が決めていいんだよ。」

もし僕がヴィンセントのような生活をしていたらどうなっていただろう。考えるだけで怖い。

ヴィンセントは感情を抑えることで、自分の心を守っていたんだ。壊れないように。死んでしまわないように。

ヴィンセントは強いやつだ。たった1人でこんな酷い事から耐えてきたんだ。今まで、1人で。

もうあんなクソな家族も、クソな婚約者もいなくなった。僕も、僕の家族もヴィンセントを傷つけることなんてしない。ここで傷ついた心を癒してもらおう。そしていっぱい感情を爆発させるんだ。

僕はそんなヴィンセントを見たい。

「ライリー様…。」

「辛かったな。お前は強いよ。強いやつだよ。僕はヴィンセントを尊敬する。凄いよ、本当に。」

抱きしめていた体を離して頭を撫でてやる。するとヴィンセントの目から涙が一筋流れ落ちた。

「? これは?」

「涙。悲しい時や辛い時、苦しい時や痛い時なんか涙が出る。でも嬉しい時も出るんだ。…ヴィンセントはどっち?その涙はどっちだと思う?」

「…わかりません。でもたぶん、両方。嬉しいのと悲しい?」

「うん。それでいい。間違ってないよ。…泣きたい時はいっぱい泣いていいんだ。恥ずかしいことなんかじゃない。泣いていいんだよ。」

僕はまたヴィンセントを抱きしめた。するとヴィンセントも抱きしめ返してきて、少しずつ泣き始めた。やがて「うわぁぁぁ!」と声を上げて泣いた。

今ヴィンセントの感情は爆発してるんだ。溜めて溜めて溜め込んできた感情が。

そう。そうやって吐き出していいんだよ。全部吐き出して空っぽになるまで吐き出して。


ヴィンセントの傷ついた心の慟哭が、僕の心を揺さぶってくる。


僕はそのままヴィンセントが落ち着くまでずっと抱きしめていた。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...