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4巻

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 1話 転移トラップの試験運用


 私――シャーロット・エルバランは、クロイス姫の主導するジストニス王国のクーデターに関わっている。
 先日、私は偵察部隊を反乱軍に寝返らせるべく、魔鬼族の少年アッシュさんと、彼の奴隷となった少女リリヤさんを貧民街に残し、ダークエルフのアトカさんとともに、彼らがいるケルビウム大森林へ向かった。
 そこで私は新生ネーベリックに変身し、偵察部隊三人と戦い、彼らの心情を聞き出すことに成功。戦闘後、アトカさんが彼らを説得し、無事に寝返らせることができた。今後彼らには、クロイス姫の放ったスパイでも入り込めない王城最深部に潜入し、各地に点在する魔導兵器の製造場所を突き止めてもらう。彼らにとってかなり危険な任務だけど、頑張がんばってほしい。
 クーデターの準備も、着々と整いつつある。精霊様のおかげもあって、ケルビウム大森林にいる種族たちは、ネーベリックが討伐されたことを完全に理解した。彼ら同士は、既に一致団結している。でも、まだクロイス姫を信用しきれていない。
 また、クーデターを成功させるには、種族進化計画の全貌ぜんぼうを知らないといけないし、極力平民たちに被害を与えない方法も考えなければならない。
 私なりに考えた方法はあるんだけど、そのためには前にダンジョンで拾った『転移トラップ』がきちんと発動してくれないと困る。だから今日、私とアトカさんが実験体となって、私たちのいるケルビウム大森林内のダークエルフの村から、王都の貧民街に一気に転移できるかを試そうと思っている――


 現在、私とアトカさんは村の外れにいる。そして、ザンギフさんやロカさん、ヘカテさん、タウリム族長など大勢の村人が、転移に巻き込まれないよう、効果範囲から離れたところで、私たちを見守っている。

「アトカさん、全ての準備が整いました。先程、私が『転移トラップ』の核に魔力を充填じゅうてんし、ここの地面にめました。もう一対の『転移トラップ』は、事前に貧民街にめてあります。後は……トラップの真上に乗るだけです。心の準備はいいですか?」

『転移トラップ』の使用方法は、村人たちにも説明済みだ。このアイテムがクーデターに使用可能かを確認するには、転移でここと貧民街を往復しないといけない。まずは、片道を試すのだ。
 トラップの内部には強力な魔石が入っている。この魔石自体が強力な空間属性を帯びているから、充填じゅうてんの際は無属性の魔力を注入するだけでいい。注入された魔力は魔石に入ることで、空間属性へ置換されるのだ。無属性というのは、全ての人々が持つ属性であるため、村人たちで協力すれば、トラップを発動させるのに必要な魔力量200も余裕で確保できる。

「シャーロット、ほんと~に大丈夫だろうな?」

 歴戦の猛者もさともいえるアトカさんも、さすがに不安がっている。私としても初の試みなので正直怖いんだけど、私がそれを顔に出してしまうと、アトカさんだけでなく、周囲の人も不安にさせてしまう。だから……

「大丈夫、上手く転移できると思います(多分)。『構造解析』スキルを信用してください」

 多分は心の中に収めておく。

「皆さん、私たちは一旦、王都貧民街に戻りますね。あちらで状況を確認したら、また戻ってきます」
「アトカ、シャーロット、かなり不安だが気をつけてな。必ず帰ってこいよ」

 タウリム族長、フラグを立てるような言い方はやめてほしい。

「アトカさん、行きましょう」
「行くしかねえな。頼む……機能してくれ!!」

 私とアトカさんは天に祈りつつ、トラップがまっている地面に足をつけた。すると、景色が一瞬で切り替わり、慣れ親しんだ貧民街に立っていた。

「……嘘だろ」

 アトカさんが周囲を見渡す。この場所は、クロイス姫の住む建物の真裏に位置し、四方が建物の壁に囲まれているため、太陽の光が当たりにくい。昼でも薄暗く、十畳ほどの広さしかないため、子供たちも狭い壁の隙間すきまってまで、ここに来ようとはしない。

「成功しましたね」

 私がそう言うと、アトカさんが微笑ほほえんだ。

「……ああ、これが長距離転移か。シャーロットの魔法でも八時間近く必要としたのに、ほんの一瞬で戻ってこられるとはな」

 この『転移トラップ』は、間違いなく長距離転移魔法の一種だ。このトラップを利用すれば、ケルビウム大森林にいる人たちを瞬時に王都へ転移させられる。

「『転移トラップ』、使えますね」
「これを利用すれば、クロイスの求めるクーデターができるぞ!!」

 その後、私たちはクロイス姫とイミアさんのいる部屋へとおもむき、偵察部隊の三人を反乱軍へ寝返らせたことを報告した。それと同時に、先程の『転移トラップ』の件も伝えた。予想通り、二人ともこの結果に大口を開けるほど驚いてくれた。そして、こちらから再度転移できるかをイミアさんと試したところ、問題なくダークエルフの村に行くことができた。
 こうして、『転移トラップ』の試験運用は大成功に終わった。
 私たちはクーデターを成功させるための必要材料を、一つ入手したのだ。



 2話 『魔石融合』と『エンチャント』


 私がケルビウム大森林で任務を遂行すいこうしている間、アッシュさんとリリヤさんは貧民街で、『強くなるにはどうしたらいいのか?』と、悩んでいたそうだ。しかし、二人はイミアさんに相談したことで、自分なりの目標を見つけたようで、食事以外の時間は全て基礎訓練に費やしているらしい。
 私は今後のことを相談したくて、アッシュさんの部屋を訪ねると、そこにはリリヤさんもいて、『魔力循環』や『魔力操作』の基礎訓練をおこなっていた。

「訓練、お疲れ様です。シャーロット、ただ今帰還しました!! 任務も無事終えましたし、ダンジョンで入手した『転移トラップ』も、地上で使用可能であることがわかりました」
「えっ!! てことは、『転移トラップ』で戻ってきたの!?」
「アッシュさん、その通りです!! 八時間の道程を一瞬で戻れたのです。クーデターに向けて、一歩前進しましたよ。これで、次の課題に移れます」
「「次の課題?」」

 二人して、首をコテンと傾げたよ。

「魔導具盗難事件のことです。アッシュさんはこの件で指名手配されているため、貧民街から出られません。リリヤさんは指名手配こそされていませんが、アッシュさんの奴隷どれいでもあるので、下手に外に出てしまうと、騎士団に拘束こうそくされる危険性があります」

 騎士団はアッシュさんを確保するべく、彼の過去を調べているだろう。奴隷どれい商人のモレルさんの屋敷におもむき、アッシュさんがリリヤさんを購入した事実も突き止めていると思う。
 奴隷どれいと主人は見えない鎖で繋がっているから、いつでもどこでも連絡をとれる。この事実は世間一般に知られていることなので、騎士団はそこを利用して、リリヤさんを見つけ次第、適当な理由をつけて確保するはずだ。
 だから、不用意に外へ出ることはできない。でも二人が強くなりたいのであれば、訓練だけでなく、実戦経験も積まないといけない。解決策については、既に考えている。あとは、実行するのみだ。

「そうか。僕たちを変異させるための幻惑魔法『幻夢』が使えるようになる魔導具を作るんだね」
「でも……シャーロット、あせることないよ? 帰ってきたばかりだし、疲れているでしょ?」
「リリヤさん、ご心配は無用です。睡眠すいみんはバッチリとりましたし、一瞬で帰ってこられました。疲労は皆無かいむなのです」

 体力、精神力ともに充実している。魔導具はいつでも作成可能なのだ。二人は私の言った意味を理解したのか、苦笑いだ。

「シャーロットには、驚かされるばかりだ。実はね、君がいない間、僕たちなりに強くなる方法を模索していたんだ。リリヤは『鬼神変化』を使いこなすため、基礎訓練や『風読み』『狙撃』スキルの習得に励んでいる。僕は、称号『努力家』を利用して、今以上に訓練をする。レベルアップ時の能力の上昇が通常の一・五倍増しになる称号の副次効果。これは、ステータスレベルが上がるだけで起こるものじゃなかった。訓練を続けると、ステータスレベルが上がらなくても、能力値自体が少し上がるんだけど、この際にも適用されることがわかったんだ」

 確かに称号『努力家』を利用すれば、アッシュさんは効率的に強くなっていくね。でも、なぜだろうか? どこか浮かない顔をしている。

「ただ……この方法で訓練を続けると、いずれ能力が限界値に達してしまう。だから、僕は『環境適応』や『鬼神変化』のようなスキルか称号を習得して、魔鬼族の限界値を超えたいと思っている!!」

 能力の限界突破……か。人間の場合、ステータスレベル15以下の状態で、『魔力循環』『魔力操作』『魔力感知』の三つのスキルをレベル5以上に上げられれば、限界値250を突破することが可能となる。ただし、これは限界突破するための手段の一つであって、これ以外にもあると、精霊様は言っていた。

「アッシュさん、何か突破口は見つかりましたか?」
「あくまで僕なりの仮説だけど、自分の命をかけるほどの戦いをしないと、限界を突破できないと思うんだ。とはいえ、なんの確証もない状態で命をかけて戦うのは、あまりにも無謀すぎる。だから、その条件を知っている人を探し出したい。それで、ふと思ったのがトキワ・ミカイツさ。彼に会えれば、何かヒントをもらえるかもしれない。彼を探し出すためにも、幻夢が使えるようになる魔導具が必要だ。シャーロット、僕たちも魔導具作りを手伝うよ!!」

 トキワ・ミカイツか。Aランク冒険者でもある彼ならば、限界突破の方法を知っているかもね。アッシュさんもリリヤさんも、やる気に満ちあふれている。早速、魔導具の作成に取りかかろう。必要な材料は、光属性の魔石とミスリルのくずの二点。私は、二つの材料を床に置いた。

「とりあえず、幻惑魔法『幻夢』を、ダンジョンで入手した光属性の魔石に付与できるか試してみます」

 私の装備している『変異の指輪』は、一つの幻を光属性の魔石に付与させた魔導具だ。幻夢の簡易版がこうして利用されているのだから、幻夢自体も付与可能なはずだ。

「理論上可能だと思う。この方法は『エンチャント』と呼ばれるスキルで、属性魔石に同じ属性の魔法を付与することができる。僕の持ってる魔導具も、対応する属性魔石にヒールやファイヤーボールをエンチャントしたものだ。図書館の本で知ったことだけど、『エンチャント』については、まだ完全に解明されていない。理論上、スキルレベルが上がれば、強力な魔法を高ランクの属性魔石に付与できるはずなんだけど、なぜか上手くいかない。魔法と魔物の持つ魔石には相性があり、たとえ同じ属性でも、相性が合わないと付与できないというのが、現在の仮説だよ。リリヤは何か知ってる?」
「ううん、全然知らない」

 リリヤさんを見ると、首を横に振った。さすがに、スキル『エンチャント』のことは知らないようだ。私自身、精霊様に質問したことがないので、『エンチャント』に関する知識はなく、習得もしていない。

「私には『構造解析』もありますから、私たちだけでも頑張がんばりましょう。Dランクの光属性の魔石なら、売らずに残しておいたものが多少あります。これで試しましょう」

 成功率を上げるため、自分の身体に光属性を付与した。そして、光属性の魔石に幻惑魔法『幻夢』のエンチャントを試みる。イメージを明確にするためにも、ここは――

「エンチャント『幻夢』」

 言葉をつむぎ、魔法を魔石に向けて唱えた瞬間、魔石が光った。成功かと思いきや……魔石が真っ二つに割れてしまった。

「あ、失敗だね。一瞬上手くいったと思ったのに……」
「リリヤ、初めての試みなんだから、失敗はあって当然だよ」

 失敗の原因を探ろうか。構造解析すると――


 壊れた魔石(ランク:D 属性:光 耐久度:0)
 幻惑魔法『幻夢』と魔石との相性が悪く、ランクも低いため付与に耐えきれなかった。
 幻夢を付与するには、最低でもCランク以上の光属性の魔石が必要である。


 なるほど、スキル『エンチャント』自体は上手く機能したけど、魔石が幻夢に耐えきれなかったのか。しかも、光属性の魔石であっても、やっぱり相性の良し悪しがあるんだね。

「アッシュさん、リリヤさん、失敗した原因は二つあります。一つ目、この魔石と幻夢の相性が悪い。二つ目、幻夢を付与するには、最低でもCランク以上の魔石が必要です」
「Cランク以上だって!?」
「でも、Cランクの魔石を持ってないよ……どうする?」

 さて、困った。Cランク以上の魔石は、ここにはない。私たちの冒険者ランクはCだから、Cのダンジョンに行けば入手できるかもしれないけど、手間がかかる。それに、相性の問題もある。なんでもいいわけではない。

「仕方ありませんね。ダンジョンに行くのも面倒なので、奥の手を使いましょう」
「「奥の手!?」」

 こうなることは想定済みだ。アッシュさんの身につけている魔導具の魔石のランクは、全てがCだった。つまり、初級魔法であっても、付与するにはC以上の魔石が必要だと思っていたのだ。そのことを二人に説明すると――

「なるほど、それで奥の手というのは?」
「それは、スキル『魔石融合』です」

 アッシュさんもリリヤさんも、驚きのあまりか、目を見開いている。

「アッシュ、魔石の融合って『エンチャント』よりも高度な技術が必要だよね?」
「そりゃあそうだよ。二つの魔石を融合させる……そんな技術は学園でも習っていないし、聞いたことがない」

 かと思えば、二人とも意外に冷静だ。

「これまでのダンジョンで入手した魔石を一つ一つ丹念に構造解析したとき、偶然この技術を知りました。融合させることで、魔石のランクを一段階引き上げることが可能となります。ただ、融合させるための条件が、まだ完全にわかっていません。現状、私が知り得たことは、二つの魔石が『無傷』『同じ属性』『同じ魔物』であれば可能、ということです。また融合の際、自分の魔力を魔石に流しますので、『エンチャント』の際の『相性』という問題を克服できるかもしれません。私自身が試していないので、ここで実験しますね」

 おそらく、かなりの高等技術が必要になると思う。私は条件の揃った魔石をマジックバッグから二つ取り出す。その、親指の第一関節部分と同じくらいの大きさのDランク魔石を両手に一つずつ持った。ここからは、『構造解析』を同時使用だ。

「まず、私自身に光属性を付与し、二つの魔石に魔力を同時に少しずつ送り込みます。このとき、私自身の身体を経由させることで、互いの魔石が共鳴し合います。二つの魔石が同時に光り出したところで、魔力供給を遮断するのですが、少しでも過剰かじょうに送ってしまうと、魔石が端微塵ぱみじんになるので注意してください。その後、共鳴し合った魔石同士をゆっくり近づけていくと、自然に融合します」

 二つの魔石が共鳴し合い、同時に光っているとき、魔石が軟化する。この状態になっているときに限り、融合が可能となる。実際、私が試験的におこなった二つの魔石は、一つの魔石へと見事に融合し、ほんの少し大きくなった。


「融合させた後も油断しないように。この魔石の光が消えるまで、身体の属性付与は消さないでください。……魔石が安定しましたね。これで終了です」
《スキル『魔石融合 Lv3』、スキル『エンチャント Lv3』を習得しました》

 よし、成功!! 二つのスキルを習得できた!! この魔石の性能はどうかな?


 融合魔石(ランク:C 属性:光 耐久度:999 作成者:シャーロット)
 シャーロットの魔力によって造られた光属性の融合魔石。初級魔法や中級魔法の一部をこの魔石に付与することが可能。
 なお、融合魔石の耐久度に関しては、作成者のスキルレベルによって大きく変化するので、注意すること。


「げげ!?」
「シャーロット、どうかしたの?」

 ここにきて、大きな欠点が発覚したよ。
 魔導具を使用する場合、気をつけないといけないのが、魔石の耐久度だ。耐久度が0になると、魔石が割れて、魔導具自体も使用不可となる。今回は私が作ったものを使用すれば問題ないのだけど……
 私が頓狂とんきょうな声を出したせいで、リリヤさんが心配している。アッシュさんは融合魔石をじっと見つめ、私の声に気づいていない。すごい集中力だ。

「うーん、融合魔石自体はCランクで、魔法の付与も可能なんですが、耐久度に難ありですね。作成者のスキルレベルによって、大きく変化します。ちなみに、この魔石の耐久度は999です」
「999……それって最高数値のような……私たちが作った場合、もっと低くなるよね?」
「はい、そうなりますね」

 まさか、こんなデメリットがあるとはね。さて、アッシュさんとリリヤさんはどうするかな?

「リリヤ、自分たちのものは、極力自分たちで作ろう。耐久度の問題があるけど、ステータスで確認していけば、最悪の事態は防げる。それに、シャーロットが編み出してくれたスキル『魔石融合』、この技術は『魔力循環』『魔力感知』『魔力操作』、どれをおろそかにしても絶対に失敗する。僕たちの訓練にもなる」

 アッシュさん……一度見ただけで、技術の真髄しんずいを理解したんだ。

「あ、そうか。二つの魔石に魔力を同時に送り込み、同時に光らせ、融合させる。これって、かなり高度だ。……うん、やってみる」

 リリヤさんも必要な技術力の高さを理解したようだ。

「シャーロット、ありがとう。『魔石融合』と『エンチャント』のやり方はわかった。『エンチャント』の方は、僕の持つ魔導具『ヒールの指輪』を利用して、習得を試みるよ」

 二人ともやる気になっているようだし、『魔石融合』と『エンチャント』に関しては、アッシュさんたちに任せよう。ただ、魔鬼族の魔法が封印されている以上、私が二人の融合魔石に幻夢を付与しないといけない。

「わかりました。練習用の魔石と、本番用の光属性のDランク魔石をここに置いておきます。融合可能な魔石同士の組み合わせは……こんなところですね。ここから先は、自分たちで頑張がんばってください」

 アッシュさんもリリヤさんも、今自分がすべきことを見定めたことで、完全に悩みは吹っ切れたようだ。あとは二人に任せよう。


         ○○○


 私はクロイス姫の部屋に行き、彼女とアトカさん、イミアさんに先程の技術を教えた。『エンチャント』に関しては、既にジストニス王国で知られていたこともあり、三人ともさほど驚かなかった。でも、『魔石融合』の方はハーモニック大陸のどの国にも伝わっていない新技術であったらしく、三人ともさっきから考え込んでいる。何か、問題でもあるのだろうか?

「『魔石融合』……これは脅威きょういですね。エルギス側に知られれば、間違いなく軍事利用されます。シャーロット、私たちに未知なる技術を教えてくれるのは非常にありがたいことなのですが、その技術が敵側に知られると、戦争が激化する危険性もあります。未知なる技術を誰かに習得させたい場合、必ず私たちに相談してください」

 あ……しまった、戦争か。クロイス姫の言う通りだ。

「シャーロット、スキル『魔石融合』のことは、以後、誰にもしゃべるな」
「そうね。エルギスたちは、人間やエルフなどの奴隷どれいを利用して、魔導具を作成しているわ。魔石融合の技術が知られたら、奴隷どれいたちがさらに酷い環境にさらされるでしょう」

 アトカさんもイミアさんも、私を軽くにらんでいる。どうして、そのことに気づかなかった!? 王城の解析結果のことも考慮したら……とにかくそっちも報告しよう。

「申し訳ありません……以後……誰にも話しません。それに……もう一つの解析結果を考慮すると、私もその思いが強くなりました」
「「「もう一つ?」」」
「王城の解析結果です」
「「「あ!?」」」

 忘れてたの? 王城にある魔導兵器の解析結果をまとめると――


 解析結果
 1)魔導銃×586
 2)魔榴弾×569
 3)魔導ライフル×438
 4)魔導バズーカ×267
 5)ロケットランチャー×143
 6)魔導戦車×2
 7)魔導兵器製作工場×1


 こんな感じだ。三人に解析結果をまとめた書類を提出する。誰がどんな兵器を携帯しているのかまではわからないけど、魔導兵器がどこに保管されているのかに関してはわかった。ただし、この結果はあくまで現時点でのことだ。当然、時間が経つにつれて、兵器の個数も保管場所も変化するだろう。

「この書類に記載されている順番で武器が強くなっていきます。この中で最も強力な兵器は、魔導戦車です」
「エルギス……王城の地下も工場を建設していたのか。俺たちの知らない兵器が、いくつもある。確か、ロケットランチャーがAランクに大打撃を与える兵器だったな。魔導戦車は、その上かよ。ビルクの野郎、どうやってこれだけの技術を……」
「妙ね。魔導兵器が強力になるほど、数も少なくなっている。何か、理由があるのかしら?」

 それに関しては、魔導兵器の解析結果に、答えが記載されていた。

「理由はわかっています。魔導兵器の核には、強力な火属性と雷属性の魔石が組み込まれているんです。魔導銃と魔榴弾にはDランク、魔導ライフルにはCランク、魔導バズーカにはBランク、ロケットランチャーにはAランク、魔導戦車にはSランクとなります」

 威力が上がるほど、強力な魔石が必要となる。Bランク以上となると、そう簡単に入手できない。

「おいおい、Sランクの魔石だと……Sランクを殺せる奴なんて……いたな」
「ええ、一人いるわ。トキワ・ミカイツよ。彼なら可能よ」

 トキワ・ミカイツ、私たちの敵となるのかな? 彼が真相を知った上で、どちらの味方につくのか。それ次第で、クーデターの展開は大きく変化するだろう。
 クロイス姫は一枚一枚、書類を丁寧にゆっくり見ている。

「王城内だけでこれだけの数となると、王都にも相当数存在するはず。やはり……当初の予定通り、王都でもどこに保管されているのかを把握はあくしておくべきですね。そして、この報告書を見て確信しました。スキル『魔石融合』だけは、封印した方がいいでしょう」
「クロイスの意見に賛成だ。アッシュとリリヤには、俺からも伝えておく」
「クロイス姫の意見に賛成ね。このスキル、危険すぎるわ」

 ……今になってやむ。私は、『魔石融合』を使用すれば、目的の魔導具を開発でき、アッシュさんとリリヤさんも外に出られる、と浮かれてしまい、スキルの危険性について考えなかった。これが露見すれば、最悪アッシュさんとリリヤさんが戦争に利用される。これから先、スキル『魔石融合』の習得方法を話してはいけない。私からも二人に言っておこう。秘密厳守だ!! 私自身が、戦争を悪化させる技術を開発してどうする!!

「本当に申し訳ありません。今後、新規技術とされるスキルや魔法を使用する場合、必ずクロイス姫たちにお知らせします」

 私自身が強くなり、なんでもできるようになったから、増長していたのかな?

「シャーロット、失敗は誰にでもあります」
「きつい言い方になったが、お前には感謝しているんだ。一つの失敗でクヨクヨするな」
「そうよ。この失敗をかてに、次から気をつければいいのよ」

 クロイス姫、アトカさん、イミアさんに慰められた。三人とも、ありがとうございます。

「とにかく……だ。王城の魔導兵器備蓄数に関してはわかったが、これ以上は踏み込めん。王城以外の魔導兵器の製作拠点に関しては、偵察部隊の三人が王城に到着次第、調査に取りかかってくれる。王都の兵器の保管場所は、スパイを使おう。今後、魔導兵器関係は、彼らに期待するしかない」

 アトカさんが話題を切り替えてくれた。そうだ、失敗は誰にでもある。いつまでも、引きずってはいけない。頭を切り替えよう!!

「俺たちは『種族進化計画』について調査するぞ。明日、俺はシャーロットを連れて、研究所跡に忍び込む」

 え……ついに種族進化計画に踏み込むの!?

「ちょっと、それなら私も行くわよ」
「イミアはクロイスの護衛と、アッシュとリリヤのフォローを頼む」

 クロイス姫の護衛は必要だ。アッシュさんとリリヤさんは、『魔石融合』の習得に専念している。二人へのフォローも要る。

「はあ~仕方ないか。アトカ、シャーロット、頼んだわよ」

 名誉挽回ばんかいのチャンスだ!! なんらかの成果を挙げたい!!

「任せてください!! 研究所跡だから、研究に関する紙の断片でも残っていれば、『構造解析』で情報を探し出せるはずです」

 研究所跡か、どんな機材を使って研究をしていたのかな? 多分、機材自体も壊れているだろうけど、ほんの少しくらいは残っていてほしい。

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