転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護

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本編

46話 王都内での奇妙な噂  *アイリス視点

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私とお父様は、ゴドウィン公爵様の馬車へと乗り込んだ。馬車は目的地を決めていないまま、ゆっくりと動き出す。公爵様とは学会繋がりで、これまで何度も話したことのあるお方だから、研究を盗んだ犯人とは考えにくい。だからこそ、どうして駅に待っていたのかが気になるわ。私たちの対面に座る公爵様は、何やら考え込んでいるけど、何を言われるのかしら?

「マーカス、来て早々すまんな」

お父様と公爵様は、私が生まれる前からのお知り合いで、タウセントの街長になって以降も、大火災や交易などの影響もあって、その親密度もかなり増しているし、私やティアナ姉様に王都のスイーツ有名店の一番人気のケーキ類をお土産として渡してくれる程の気さくなお方、そんな人が私たちに何をもたらしてくれるのだろう?

「それは構いませんが、一体どうしたのです?」

公爵様は、複雑な面持ちになっているわ。

「今、奇妙な噂が学会仲間の中で広がりつつある」
「噂ですか?」

「そうだ。【あの神童アイリスがポーションの研究に失敗、今年開催される学会では、捏造されたものを発表するだろう】というものだ」

やられた!!
私が出席することも考慮して、犯人たちは先手を打っていたんだわ。
お父様の気配が変わった。

「ほう…研究に失敗し、発表内容を捏造ですか?」

「君たちから送付された研究内容については、審査する我々も常軌を逸する程の成果だと思っている。これが事実であれば、我が国だけでなく、他国からも注目を浴びるだろう。私はその真偽を確認するため、ここへ来た」

主催者側であるゴドウィン公爵様が犯人と思えないけど、どう答えるのが正解かしら?

「噂の出所も気になるところですが、質問にお答えしましょう。今回発表する研究に、嘘偽りはありません。また、ポーションの研究に関しては、噂通りです」

お父様、そこをどう誤魔化すのかしら?
噂通りと聞いた公爵様の雰囲気が変わったわ。

「詳しく聞いても?」

「無論、構いません。アイリスはポーション研究の集大成として、ある治療薬の開発に取り掛かり、見事完成させたと思ったのですが、アイリス自身がその薬に対する重大な欠陥を発見したのです。その欠陥を無くすには、時間が少な過ぎた。それ故、急遽予備の研究へとシフトしたのです。噂の内容を聞いた限り、どうやらスパイが、私の街に潜り込んでいるようですね」

研究機材や資料の盗難を伏せて、欠陥へと置き換えた!? そうか、その言葉だと失敗になるけど、私自身の評価はそこまで低下しないわ。お父様は、盗難のことを告げない選択を取るのね。

「なるほど、理解した。何者かがアイリス嬢の評価を著しく低下させるべく、今回の発表内容は捏造されたものと広めたわけか」

主催者側は、今回発表する内容をある程度把握している。犯人との関係性が不明な以上、送付した資料以上の情報を与えるつもりはない。ゴドウィン公爵様は、今回発表される全ての内容を把握しているはず。彼に劣化版エリクサーのことを尋ねれば、犯人もすぐに判明するけど、お父様はそれを聞こうともしない。公爵様に、これ以上の不信感を与えさせないための配慮なのかもしれないわね。

「犯人共が、我々の予備の研究をどこまで把握しているのか不明です。これは我々にとっても賭けになるでしょうから、奴らに気取られないよう、入念な準備を進めていきます」

ユミルの提案したものを皆に受け入れてもらうには、本来複数の治験対象者が必要となるけど、今回の学会では披露しない。成功すれば、私の評価は大きく上がる。でも、研究期間が短いこともあって、どんな副作用が起こるのか皆目わからない。そんな状態で、治験なんてできるわけがない。それに、犯人側が何を仕掛けてくるのかわからない以上、こちらも大きく動けない。

「その情報を信じていいんだな?」

「ええ、学会発表が終われば、全てをお話しします。今の時点では、どこにスパイが潜んでいるのかわかりませんので。下手にお話しすると、ゴドウィン公爵様にも影響が及ぶかもしれませんので」

お父様、それは公爵様に対して不敬になるのでは?
ハラハラしながらも公爵様を見ると、怒っているような感じを見受けなかった。

「そうか…何やら厄介事に巻き込まれているようだな。研究者という職業柄、認められた者には、そういった事象は日常茶飯事と聞く。マーカス、アイリス嬢を守りきれよ」

「はい」

明後日の学会で、犯人が誰かわかる。その周囲にあの2人もいるはずだけど、多分すれ違っても気づけない。あの2人は私たちに対して、自分に繋がるものを全て処分していたもの。

犯人が誰なのか判明しても、証拠がない以上、相手を告発することもできない。犯人たちは、この学会で最高の実績と栄誉をもらえるだろうし、私の内容を聞いても驚愕するだけで終わるだろう。私にとって、信用できる人間はごく僅かしかいないけど、今の研究を続けていく以上、共同研究者となる人々と多大な協力関係を築かないといけない。その過程で、また研究を全て盗まれるなんて恥を犯したくないから、人を見る目、観察眼を養っておきたいわね。

「ゴドウィン様、私は今回の学会で色々と騒がせると思いますが、必ず成功させてみせます」

一波乱起こるだろうけど、私は自分の出来うる限りのことをやるだけよ。ユミル、カイトさん、トーイ、リアテイル様、お姉様、お母様、使用人たちが私のために一生懸命になって動いてくれた。その思いを無駄にしないわ。

「アイリス嬢……どうやら、しばらく見ない間に、君は成長したようだ。今は、君の気概を信じよう。頑張りなさい。私からの用件は以上、ここから先はあなた方だけで挑みなさい。朗報を期待している」

「はい!!」

失敗は許されない。
今日と明日で、準備を進めておきましょう。

ゴドウィン公爵様は、私たちを宿泊先のホテルまで送迎してくれた。お別れの挨拶を済ませホテルに入ると、ユミルたちはまだ到着していないので、一旦窓際の休憩フロアのソファーで待つことにした。

「お父様」
「なんだい?」
「さっきの失敗の件ですが…」

お父様の話を聞いて、一つの策を思いついたけど、それはやるべきじゃない。

「多分、あの方々にお願いすれば、発表中にすり替えることも可能かもしれませんが、実行しないで下さいね」

「そうか、君も思いついてしまったんだね。無論、やらないさ。治験に関わってくる患者の人たちは無関係なのだから」

それ聞いてホッとする。もし、カーバンクルの力を使えば、劣化版エリクサーの材料をすり替えることも可能だけど、そんな事をしたら、命をかけて治験に付き合ってくれている患者の人たちが死ぬ可能性があるもの。

それは、絶対にやってはいけない行為。
このまま何もすることなく、犯人側に発表させればいい。

スキル『鑑定』で劣化版エリクサーと表示された以上、私の研究は成功している。それだけは、自信を持って言える。

なのに……何か変。
お父様の言った重大な欠陥、これを聞いて奇妙な胸騒ぎを感じる。
漠然と感じる不安が、私の心を覆う。
まさか、本当に何か見落としているとか?
ううん、そんはずはない。

「大成功を収めたのなら、私は素直に相手を賞賛します」
「そうしてあげなさい」

犯人と同じような姑息な真似はしない。
ユミルを悲しませるような行為をしてたまるもんですか!
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