転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護

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本編

49話 学会の始まり

今日から、学会が開催される。

結局、この2日間は平和で、何も起きなかった。その分、アイリス様は学会発表用のスライド修正や原稿に集中できたけど、嵐の前の静けさのようで、何か不気味だ。

1日目午前は『薬理部門』、犯人側の発表が控えているけど、研究内容が伏せられているせいで、いつあるのかわからない緊張を強いられた状態で、私たちは全員で会場に入る。幼児が周囲に誰もおらず、色んな視線が私に集まるけど、隣にアイリス様がいるせいか、皆は何か納得したかのように、すぐに視線を外してくれた。

ここは100人以上の聴衆が余裕で入れる程の大規模会場、聴衆席は大きな壇を中心に扇状へと広がっていて、どの位置からでも聞き取れるよう、魔道具『スピーカー』が一定間隔で設置されているし、どの位置からでも見えるよう階段上になっている。その中でも、私たちは最下段から3段目、真ん中付近の席へと座る。ここからなら、真っ直ぐ発表内容を聞ける。

1人につき30分(20分発表;10分質疑応答)の内容で、途中10分の休憩が入り、次の発表者へと移る。発表者全員が著名な人物で、アイリス様とも面識があるけど、彼女が言うには……『1人怪しい人物がいるわ。名前はサイモン・ヴァリモンド、26歳の若手研究者。私を常にライバル視しているけど、あの人って正々堂々を好む性格なのよね。何度か助けられたこともあるし、あんな酷いことをする人とは思えないのよ』と言ってたよね。

「そろそろ始まるわ。ユミル、お手洗いで席を外したいときは、私たちに何も言わず、そっと隣にいるケンイチロウと共に、会場を出るように」

「わかりました」

いよいよ、始まる。
どうか、何事も起きませんように!

司会者の女性がマイクを使い、聴衆者たちに挨拶を重ねている間、1人目の発表者が壇上右側に設置されている発表用の高さのある作業台に原稿を置いていき、胸ポケットにマイクを付けて、準備を進めていく。助手の女性が、会場中心付近に設置されている魔道具のもとへ行き、スライドをセットしていく。

司会者の挨拶が終わると、1人目の発表が始まる。

劣化版エリクサーとは全然異なる内容で、私には知識もないのでちんぷんかんぷん。理解できるのは、ある病気の治療薬に繋がる発見をしたことかな。隣にいるケンイチロウさんは、一応聞いているようだけど、理解できているの? レパードは、アイリス様の影の中で待機中だ。


○○○


何事も起こることなく、1人目の発表と質疑応答が終わり、今は2人目のサイモン・ヴァリモンド様の発表後の質疑応答中である。発表内容を聞いたことで、彼は犯人ではないと確定したこともあり、アイリス様は警戒を解き、鋭い質問を投げ入れ、現在注目を浴びている。

「サイモン様、わかりやすい解釈をして頂き、ありがとうございます」

あ、終わったようだ。

「他に、何か質問はありませんか? アイリス様の横にいる小さな可愛い女の子、君はどうかな? ああ、座ったままでいいよ」

なんか、急に話題を振られた!

「(あいつ、意地の悪いことを!)」

アイリス様が、私にマイクを渡してくれた。

「え…と」

やば、内容の殆どが理解不能だったよ。
とりあえず、疑問に思ったことを言ってみよう。
子供の言ったことだし、的外れな意見でも誰も笑わないよね。

「あの…治療薬の開発成功は、大変素晴らしい偉業だと思います。でも、治験の参加人数が8人、治療薬の効果性能が個人によって、大きく変化するため、現在原因を検討中と言ってましたけど、それって治療薬の品質も確認しているのかなと……ええと、製作工程における品質管理に問題はないのかな~って疑問に思いました」

あれ? 皆の視線が怖いよ。
私、何か変なことを言ったかな?

「ひ…品質管理と言いますと?」

「みんな、スキルを使って、色んなものを製作していますけど、調薬となると、話は別です。原料の保管方法次第で、完成後の品質だって違ってきます。調薬時の温度・湿度などの反応条件、些細な違いで変化は起こりうるもの。全ての工程を100%完璧なバリデーションで、薬を作り上げているのかなと」

サイモン様の顔が、引き攣っています。
私、そんな変な質問をしたかな?

「貴重な質問をありがとうございます。治療薬に関しては、スキル《鑑定》で全て品質Sで使用していますので問題ありませんよ」

私は、その言葉を聞いて絶句する。

「鑑定って、S・A・B・C・Dの5段階で表示されると聞いています。数値で例えるなら、MAXが100とすると、Dが1~20、Cが21~40、Bが41~60、Aが61~80、Sが81~100。鑑定でSと評価されても、Aに近いSもあれば、100%を超える最高品質のSもあるはずです。治験をするのなら、8人全員に100に限りなく近いものを使用して検討しないと、差が生じた際に、原因を絞れなくなってしまいます」

質問途中でサイモン様の顔色を窺うと、ハッとしたような表情に変化していて、何か考え込んでいる。

「全く同じ品質…Sを数値に例えれば、確かに差が…過去にSで完治させても、数年後に再発したのは…まさか…」

「私としては、品質Sと鑑定された物を、スキルに頼らず成分分析して厳選し、最高品質の物だけで再治験すれば、原因も絞れるんじゃないかと…」

え、なに? なんで、全員が私を凝視しているの? 
アイリス様も、ギョッとした目で私を見ているよ。なんで? 
サイモン様も驚愕な表情となって考え込む。

「そうか…それだ…素晴らしい…実に、素晴らしい意見だ!」

え、素晴らしい意見?
これって馬鹿にされている……という感じじゃない。

「皆さん、彼女の言う通りです!」

周囲にいる人たちも、何やらヒソヒソと話し合い、互いが納得したかのように頷いている。

「我々はスキルの効果と説明内容に頼り過ぎていた! 過去に、品質Sの治療薬を用いて治療しても、再発することが稀にありました。彼女の言った意見は、常識を覆すものだが納得できる! 今後は、スキル《鑑定》ばかりに頼ることなく、薬効のきちんとしたデータをとって、安定して生産可能な最高品質の治療薬を製作していきましょう! 君、名前は?」

「え…ユミル…です」

「ユミル、薬の本質を教えてくれてありがとう。君のおかげで、我々の分野はまた一つ進歩した!」

いや、大袈裟では!?
サミュエルさんが拍手すると、皆が一斉に立ち上がって拍手していく。
これって、スタンディングオベーション!
当たり前の話をしただけで、何故こんな事に!?


○○○


拍手が収まり、10分の休憩時間となる。
皆興奮しているのか、スキル《鑑定》の話題で盛り上がっている。

私の胸はドキドキしており、《これって揶揄われているだけでは?》と今でも思ってしまう。不安になって、アイリス様を見る。

「あなたの意見って、毎回人の心を射つわね」
「当たり前のことを言っただけなんですけど?」
「それは、前世での話でしょ?」
「はい」

「前世がどういった世界かわからないけど、この世界では、神の作ったスキルによる評価が全てなのよ。神が嘘つくわけないもの」

「それはわかりますけど、評価自体が文字形式で大雑把なのに、それを誰も疑問に思わないなんて…」

「私もそうだけど、全国民がスキルに慣れ親しんでいるせいで、誰も気づけなかったのよ。……ふふ、そしてユミル、助かったわ」
「助かった?」

どう言う意味?

「あなたのおかげで、私の見落としていた点がわかったの。お父様、念の為、主催者の方々に、医者もしくは治療術師を手配しておくよう言ってくれませんか?」

「任せなさい。次かその次で、何かが起こる可能性が高いからね」

マーカスさんが急足で、席を離れていく。
アイリス様の見落としていた点って、何だろう?

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