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本編
54話 学会発表、成功なるか?
アイリス様たちが帰って来たのは、夕飯開始時刻の40分前だった。私たちは、マーカス様たち4人と1匹のいる部屋へと移動する。
「アイリス様、お疲れ様です。……すっごく、ご機嫌ですね」
「わかる? 騎士様たちに、全てを暴露したの。全てを…ね」
顔に艶があって、終始ニコニコしていたら、誰だって何かあったなと察してしまう。しかも、この言い方から察するに、騎士様に尋問された時も、何かしたんだなと思ってしまう。
「私は何者かの手により、研究データが盗難されたことを明かした。学会の発表内容を見て、窃盗者がワイナリー伯爵様と確信し、その場で治験を施すと聞いた時から、暴走事故の懸念を考えた。そして、その懸念は当たってしまったので、もしもの時のために用意しておいた万能薬を使い、患者を治療した。ざっとこんな感じで話し、最後に余計な一言を追加しておいたわ」
「何を言ったんですか?」
自分から余計な一言と言うくらいだから、人を逆撫でする内容だと思う。
「『あの方は、表向き皆から尊敬されていますけど、裏では《名誉欲に拘る古き英雄》と呼ばれ、自分に見合う研究内容があれば、若手、ベテランに関係なく、研究データを根こそぎ盗むかもしれない程の強い名誉欲の持ち主と、周囲からも噂されています。本人は隠しているつもりでも、バレバレなんですよね。私はそんな彼に全てを盗まれたので、仕返しをしたいと思い、この会場で起きた事故を利用して口で振り回したら、致命的なことをポロッと言うんじゃないかと思い実行したのです。そうしたら、本当に言うのですから驚きです。歳には、誰も勝てませんね。英雄、墜つですね』だったかな?」
うわあ~えげつないよ、アイリス様。話に出てきた噂というのは作り話だと思うけど、言葉の節々に、伯爵様を馬鹿にしている感じが伝わってくる。
「面白いのはここからよ。騎士様たちが詰所に戻り、私の言葉を一語一句間違えず、伯爵様に伝えたら、黙秘を続けていた人が顔を真っ赤にして、感情を制御できなくなり、今まで行ってきた悪行をペラペラと大声で語り出したのよ。その中には、私のように全てを盗まれて、自殺した人もいたそうよ。これぞ、嘘から出た真ってやつね」
研究者って怖いな。日本でも研究の捏造問題で色々と騒がれる事もあるけど、この世界でも、以前から日常茶飯事に起きていることなんだね。
「自殺者まで出ているとなると、ワイナリー伯爵様は、もう研究の世界に戻ってこれないですよね?」
「彼の言った内容が真実なのかを裏付け調査で確認し、全て事実だった場合は、貴族位の剥奪だけでは済まされない。最悪、死刑になるでしょうね。まあ、私からすれば自業自得よ。勝手に、自滅すればいい。ユミルの捕縛した二人組、姿こそ見ていないけど、多分邸でメイドとして働いていた元協力者でしょうね。そいつらに関しては後回しよ。大事なのは、明日の発表。絶対に、成功させる」
そうだった。
アイリス様にとって、明日こそが正念場。
明日発表予定の《魔石のリサイクル機構》、魔石というのは多種多様で、あらゆる分野で利用されていることもあり、今後この機構が確立されれば、様々な魔道具に適用可能となる。当初は、リサイクル可能な空魔石のことを蓄魔電池と名付けたけど、皆と相談したことで、この名前自体を廃止し、あくまで空魔石の再利用が可能であることを強く押し出す形で説明していく方針になった。問題は、どれだけの人々が協力してくれるかだね。
気になる点があるとすれば、突発的に生じる《事故》だろう。
再利用自体、誰もやっていないので、どんな事故が起こるのか、私とアイリス様で色々と考えたけど、こればかりは事故が起こらないとわからない。前日に、発表者があんな事故を起こしたのだから、皆尻込みしないか心配だ。
○○○
今日、アイリス様が3番手で学会発表を行う。
私は1番前の席で1番手、2番手の発表を聞いたけど、新規魔道具の内容だったこともあり、内容も面白かった。この席に座るまで、私は2人組の不審者を発見したことで、色んな人々に声をかけられ、昨日の品質の質問の件もあって、いっぱい感謝された。品質評価がランクSの物品を販売しても、時折クレームが入ってくる。問題はその発生頻度、製作者や製造日が同一であっても、クレームなしの時もあれば、ランクAに近いクレーム数の時もある。この謎が、私の意見により解消された。私からすれば、製品の品質を一文字だけで表すこと自体が不自然極まりないので、普通に言っただけなのに、あそこまで感謝されるなんてね。
「ユミル、アイリスが出てきたよ」
私が考え事をしていると、トーイがアイリス様の発表が始まることを教えてくれた。その姿は堂々としており、皆の視線にたじろぎもしていない。アイリス様の後方に、《空魔石、リサイクル機構の構築》というタイトルが表示されると、周囲が少し賑やかになる。
「皆様、ご出席して頂き、誠にありがとうございます。私は、ポーションの研究をする上で、常日頃から魔道具にお世話になっています。魔道具を行使する上で、必要なのは魔力供給源となる魔石です」
いよいよ始まった。
「この魔石内の魔力を全て使用した場合、このように白い空魔石へと変化し、強度も大幅に低下します。その後は、握り潰して粉々にしてからゴミ箱へ入れ、後に焼却処分されます。魔道具には、新しい魔石をセットして、これまで通り使用していく。これが、現在のサイクルです」
アイリス様は、言葉通りに実演していき、最後は語気を強める。
魔石は、魔道具を作動させるためのエネルギー源。
魔石の取得方法は、2つある。
① 地上やダンジョンにいる魔物たちを討伐し、魔石を摘出する。
② 大地に埋没している魔物の化石を掘り出して、そこから魔石を採掘する。
現在、世界人口は増えつつある。今の段階では、①と②だけで賄えているけど、新規魔道具がどんどん開発され、需要が高まっていることを考慮すると、いずれ供給量を上回る可能性がある。アイリス様は、その部分を重点的に丁寧に説明していく。
「このサイクルだけでは、いずれ破綻する可能性が高い。だから、私はここに新たなサイクル、《空魔石再充填法》を取り入れたい」
ここからが、正念場だ。
「こちらの白い空魔石を見てください。こちらは、ランクEのゴブリンメイジから得られたもので、風の属性を持っており、既に役目を果たし終えています。この魔石が割れないよう、私の風属性の魔力をここに少しずつ充填していくと……」
アイリス様は魔石を割らないよう、細心の注意を払い、魔力を充填していくと、魔石の色が白から薄緑へと変わっていく。この時点で、聴衆者たちからどよめきが起こる。
「このように、色が変化していきます。そして…」
アイリス様が魔石を経由して、風魔法を放つと、そよ風がホール全体に吹いていく。
「魔力を使い切ると、このように白へと戻ります。これが何を指すのか、一目瞭然です。従来魔石は使い捨てとされてきましたが、充填させ再稼働させることが可能なんです!」
どよめきの音量が、大きくなっていく。現時点だと、充填方法がこれしかないから、再充填が成功して良かったよ。
「今回、私の発表内容は諸事情もあり、これのみですが、この再充填が何を為すのか、皆様ならば理解してくれると思います。そして、現状抱えている懸念事項の一つを、今払拭させましょう。この空魔石への再充填法について、私は特許を申請しません!」
誰かが大声で、《なんだって!》と叫び、そこからどよめきが更に増す。
「何故申請しないのか、答えは簡単です。この発見は、様々な分野に新たな刺激を与えますが、特許を申請すれば、一部の人々が特許料の関係で、この研究に着手しにくくなってしまうからです。また、ポーションと違い、魔道具や魔石などに関わる私の知識は、素人同然。私は現時点でわかる成果を全て公表しますので、皆様にはこの新規分野を次々と開拓してほしいのです! 私1人の力ではなく、皆で力を分け合い、この新規分野を発展させていきましょう! 以上で、発表を終わらせて頂きます」
アイリス様、言い切ったよ。ホール全体がシーンと静かになるけど、誰かがパチパチと拍手すると、そこから次々と拍手が鳴り響いていき、遂には聴衆者全員が立ち上がる。皆が、アイリス様の成果を認めてくれた証拠だ。
良かった、学会発表は大成功だよ。アイリス様にとって、まだ忙しい日々は続くけど、彼女は新たな1歩を踏み出せたんだ。私も、応援していこう。
「アイリス様、お疲れ様です。……すっごく、ご機嫌ですね」
「わかる? 騎士様たちに、全てを暴露したの。全てを…ね」
顔に艶があって、終始ニコニコしていたら、誰だって何かあったなと察してしまう。しかも、この言い方から察するに、騎士様に尋問された時も、何かしたんだなと思ってしまう。
「私は何者かの手により、研究データが盗難されたことを明かした。学会の発表内容を見て、窃盗者がワイナリー伯爵様と確信し、その場で治験を施すと聞いた時から、暴走事故の懸念を考えた。そして、その懸念は当たってしまったので、もしもの時のために用意しておいた万能薬を使い、患者を治療した。ざっとこんな感じで話し、最後に余計な一言を追加しておいたわ」
「何を言ったんですか?」
自分から余計な一言と言うくらいだから、人を逆撫でする内容だと思う。
「『あの方は、表向き皆から尊敬されていますけど、裏では《名誉欲に拘る古き英雄》と呼ばれ、自分に見合う研究内容があれば、若手、ベテランに関係なく、研究データを根こそぎ盗むかもしれない程の強い名誉欲の持ち主と、周囲からも噂されています。本人は隠しているつもりでも、バレバレなんですよね。私はそんな彼に全てを盗まれたので、仕返しをしたいと思い、この会場で起きた事故を利用して口で振り回したら、致命的なことをポロッと言うんじゃないかと思い実行したのです。そうしたら、本当に言うのですから驚きです。歳には、誰も勝てませんね。英雄、墜つですね』だったかな?」
うわあ~えげつないよ、アイリス様。話に出てきた噂というのは作り話だと思うけど、言葉の節々に、伯爵様を馬鹿にしている感じが伝わってくる。
「面白いのはここからよ。騎士様たちが詰所に戻り、私の言葉を一語一句間違えず、伯爵様に伝えたら、黙秘を続けていた人が顔を真っ赤にして、感情を制御できなくなり、今まで行ってきた悪行をペラペラと大声で語り出したのよ。その中には、私のように全てを盗まれて、自殺した人もいたそうよ。これぞ、嘘から出た真ってやつね」
研究者って怖いな。日本でも研究の捏造問題で色々と騒がれる事もあるけど、この世界でも、以前から日常茶飯事に起きていることなんだね。
「自殺者まで出ているとなると、ワイナリー伯爵様は、もう研究の世界に戻ってこれないですよね?」
「彼の言った内容が真実なのかを裏付け調査で確認し、全て事実だった場合は、貴族位の剥奪だけでは済まされない。最悪、死刑になるでしょうね。まあ、私からすれば自業自得よ。勝手に、自滅すればいい。ユミルの捕縛した二人組、姿こそ見ていないけど、多分邸でメイドとして働いていた元協力者でしょうね。そいつらに関しては後回しよ。大事なのは、明日の発表。絶対に、成功させる」
そうだった。
アイリス様にとって、明日こそが正念場。
明日発表予定の《魔石のリサイクル機構》、魔石というのは多種多様で、あらゆる分野で利用されていることもあり、今後この機構が確立されれば、様々な魔道具に適用可能となる。当初は、リサイクル可能な空魔石のことを蓄魔電池と名付けたけど、皆と相談したことで、この名前自体を廃止し、あくまで空魔石の再利用が可能であることを強く押し出す形で説明していく方針になった。問題は、どれだけの人々が協力してくれるかだね。
気になる点があるとすれば、突発的に生じる《事故》だろう。
再利用自体、誰もやっていないので、どんな事故が起こるのか、私とアイリス様で色々と考えたけど、こればかりは事故が起こらないとわからない。前日に、発表者があんな事故を起こしたのだから、皆尻込みしないか心配だ。
○○○
今日、アイリス様が3番手で学会発表を行う。
私は1番前の席で1番手、2番手の発表を聞いたけど、新規魔道具の内容だったこともあり、内容も面白かった。この席に座るまで、私は2人組の不審者を発見したことで、色んな人々に声をかけられ、昨日の品質の質問の件もあって、いっぱい感謝された。品質評価がランクSの物品を販売しても、時折クレームが入ってくる。問題はその発生頻度、製作者や製造日が同一であっても、クレームなしの時もあれば、ランクAに近いクレーム数の時もある。この謎が、私の意見により解消された。私からすれば、製品の品質を一文字だけで表すこと自体が不自然極まりないので、普通に言っただけなのに、あそこまで感謝されるなんてね。
「ユミル、アイリスが出てきたよ」
私が考え事をしていると、トーイがアイリス様の発表が始まることを教えてくれた。その姿は堂々としており、皆の視線にたじろぎもしていない。アイリス様の後方に、《空魔石、リサイクル機構の構築》というタイトルが表示されると、周囲が少し賑やかになる。
「皆様、ご出席して頂き、誠にありがとうございます。私は、ポーションの研究をする上で、常日頃から魔道具にお世話になっています。魔道具を行使する上で、必要なのは魔力供給源となる魔石です」
いよいよ始まった。
「この魔石内の魔力を全て使用した場合、このように白い空魔石へと変化し、強度も大幅に低下します。その後は、握り潰して粉々にしてからゴミ箱へ入れ、後に焼却処分されます。魔道具には、新しい魔石をセットして、これまで通り使用していく。これが、現在のサイクルです」
アイリス様は、言葉通りに実演していき、最後は語気を強める。
魔石は、魔道具を作動させるためのエネルギー源。
魔石の取得方法は、2つある。
① 地上やダンジョンにいる魔物たちを討伐し、魔石を摘出する。
② 大地に埋没している魔物の化石を掘り出して、そこから魔石を採掘する。
現在、世界人口は増えつつある。今の段階では、①と②だけで賄えているけど、新規魔道具がどんどん開発され、需要が高まっていることを考慮すると、いずれ供給量を上回る可能性がある。アイリス様は、その部分を重点的に丁寧に説明していく。
「このサイクルだけでは、いずれ破綻する可能性が高い。だから、私はここに新たなサイクル、《空魔石再充填法》を取り入れたい」
ここからが、正念場だ。
「こちらの白い空魔石を見てください。こちらは、ランクEのゴブリンメイジから得られたもので、風の属性を持っており、既に役目を果たし終えています。この魔石が割れないよう、私の風属性の魔力をここに少しずつ充填していくと……」
アイリス様は魔石を割らないよう、細心の注意を払い、魔力を充填していくと、魔石の色が白から薄緑へと変わっていく。この時点で、聴衆者たちからどよめきが起こる。
「このように、色が変化していきます。そして…」
アイリス様が魔石を経由して、風魔法を放つと、そよ風がホール全体に吹いていく。
「魔力を使い切ると、このように白へと戻ります。これが何を指すのか、一目瞭然です。従来魔石は使い捨てとされてきましたが、充填させ再稼働させることが可能なんです!」
どよめきの音量が、大きくなっていく。現時点だと、充填方法がこれしかないから、再充填が成功して良かったよ。
「今回、私の発表内容は諸事情もあり、これのみですが、この再充填が何を為すのか、皆様ならば理解してくれると思います。そして、現状抱えている懸念事項の一つを、今払拭させましょう。この空魔石への再充填法について、私は特許を申請しません!」
誰かが大声で、《なんだって!》と叫び、そこからどよめきが更に増す。
「何故申請しないのか、答えは簡単です。この発見は、様々な分野に新たな刺激を与えますが、特許を申請すれば、一部の人々が特許料の関係で、この研究に着手しにくくなってしまうからです。また、ポーションと違い、魔道具や魔石などに関わる私の知識は、素人同然。私は現時点でわかる成果を全て公表しますので、皆様にはこの新規分野を次々と開拓してほしいのです! 私1人の力ではなく、皆で力を分け合い、この新規分野を発展させていきましょう! 以上で、発表を終わらせて頂きます」
アイリス様、言い切ったよ。ホール全体がシーンと静かになるけど、誰かがパチパチと拍手すると、そこから次々と拍手が鳴り響いていき、遂には聴衆者全員が立ち上がる。皆が、アイリス様の成果を認めてくれた証拠だ。
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