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受け入れるもの、変わるもの
時は金なり。
しおりを挟む社長室は一番奥、敷地の上座にあたる位置にあり、人気はない。厚木が社内をうろうろしていたら、目立つうえに、重役と厚木のバトルを新人社員が見たらビビり散らかす。職場環境が悪いと言われるのは困る。地下に社長室を作ってもらってもいいくらいだ。
そして、最近はもう一つ。
社長室前でのそのそしている巨体。まるで餌を探す熊である。
危険だが声をかける。
「蘭さん」
「笠井さん」
「どうしたのですか、早く中に入られては?」
「厚木さんが…」
「社長がどうかしましたか」
「厚木さんが嫌で出てきました間違えてこっちに…」
これである。
『痴話喧嘩は社外で!』
社長室に貼り紙をしようと心に留めておく。
笠井は実力至上主義思考なので、まあ、結果さえ出してくれれば合間で何をしていようと気にしない。しかし、周りはそうではない。日本の企業は基本年功序列型であり、大変風紀を重んじる。この会社もだ。厚木など見る人が見たら、存在するだけで煩わしいだろう。
「とりあえず、中に入りましょう」
吉継を社長室に入れる。
厚木は、吉継の後ろに笠井の姿を見留めても気にしない。
「吉継、仮眠室に入ってろ」
「うぅ…」
吉継は不満そうで、なかなか動かない。
笠井は、蛇と蛙の膠着状態のようになっている厚木と吉継を交互に見た。
この二人は、パートナーなのに全然足並みが揃っていない。
どう見ても両想いだというのに、ちょっといい感じになったかと思うとすぐ拗れる。
せめてどちらかにもう少し柔軟性があれば…とお節介にも思っている笠井だ。
厚木は、人に合わせるという脳のある部分を、母の肚で授かったと同時に返納しているうえに、最近わかったことだが、吉継もかなりの自由人である。
笠井から見れば二人とも、社会不適合者にリーチがかかっているのだ。
この二人を見ているとダイナミクス持ちは変わり者しかなれないのかとすら思うくらいだ。とんだ風評被害だが。
厚木に仕事をしてもらうため、笠井は口を開いた。
「私は、ダイナミクス属性を持っていませんのでよくわかりませんが、味方につくなら蘭さんと決めています」
「笠井さん」
「蘭さん、社長の能力はお金を生み出すことだけです。それ以外は全く希望がありません。早く見限って好い人を見つけることをお勧めいたします。蘭さんがその気なら私がお手伝いいたしますよ」
さすがにちょっとムッとした表情を見せた厚木も、信頼している第一秘書の言葉である。言い返すことはしない。
吉継は、「い、嫌です」と言って首を横に振り、「厚木さんが、下…変な服を着ろっていうけど無理だっただけです…」と、言い訳をしだした。
「社長…?」
何をしているのだこの二人は。別に知りたくなかった笠井は、熊に声をかけたのを後悔し始めていた。厚木に仕事をさせたいだけなのに…。
「俺のダイナミクス属性が安定して、仕事のモチベーションが上がる。何が悪い」
居直る厚木に、むぅと口を尖らせる吉継。カオスすぎる。
「社長、プレイの基本は合意です。まさか無理矢理パートナー関係を強いているとか…?」
笠井は気になっていたことをここぞとばかりに聞いた。
が。
「そんなわけあるか」
「違います」
シンクロが笠井の癇に障った。
じゃあつべこべ言わず仕事してくださいよ!
「じゃあつべこべ言わず仕事してくださいよ!」
笠井も頭の中と口がシンクロしていたことは、笠井しか知らない。
吉継がぴゃっと肩を竦め、慌てて仮眠室に走っていく。
厚木は慣れたもので一切動じない。「ふん」と鼻を鳴らして仕事を始める。これはこれで腹立たしいもので。
後日、笠井は厚木に会議資料のコピーと仕分けをさせて溜飲を下げた。
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