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 翌日、ヴィクトリアが目が覚めると、心配そうにハの字に眉を下げた両親とガニアンがいた。

「リア、目が覚めたかい? おはよう」
「リア、まぁまぁなんてこと。目の周りがむくんでしまっているわ。暖かいタオルを当てましょうね」
「リア、今日もかわいいね。お水飲むかい?」

「リア、陛下たちはリアを心配して、夜半過ぎからずっとこちらにおられたんだよ」
「ぴ? 『ほんとに?』」
「本当さ。リアちゃんには、陛下たちがぐっすり眠ったように見える?」
「ぴーぴ『ううん……あの、心配かけて、ごめんなさい……』」

 いつもと同じように、自分の名を呼んで優しい言葉をくれる家族に、昨日のことが嘘か夢だったかに思えた。だが、ヴィクトリアと名乗る母と兄にそっくりな女性が来たのは現実。

「あんなことがあったんだ。家族なのだから心配するのは当たり前だ。これまで、お父様が厳しく、お前の悪口をいう宰相たちを放置していたせいで、悲しい思いをさせたね。お前はれっきとした娘なのだから、安心していい」
「そうよ、リア。あなたは普段、悪口をいう相手をかばったり、何があっても私たちに何も言わないんだから。こういう時はお母様たちに甘えてちょうだい」
「リア、誰が何と言おうとも、リアは僕の妹だから」

「ぴ、ぴ……ぴぃ……『みんな、ありが、と……でも……』」

 ヴィクトリアは、自分の羽を優しくなでる彼らを、じっと見つめる。聞きたいけれど、聞きたくないと思いながら、勇気を出して彼女のことを聞いた。

「ぴ? ぴ? 『あ、あの、あの子は?』」

「あの子のことは、気にしなくていい。姿かたちが似ているからといって、我らの娘だなどありえない話だ。といっても、リアは気にするだろうな。すぐに追い出したいが、調査が終わるまでそうもいかない。どうするか」

「そのことなのですが……」

 ズィークとショーリは、話し合った結果を話し出した。その内容に、ヴィクトリアは、ここを離れるのも悲しいが、状況が落ち着くまで、ふたりの言う通り宰相はじめいろんな人が自分のことをあれこれ言うだろうと目が潤む。

 結局、彼女の心の平穏のためにショーリの領地に旅行をすることになった。

「リア、離れたとしても、お前は我々の娘だ。リクガメ国の人々も、きちんとお前を王女として迎え入れると約束してくれている。行く先はショーリ殿の領地だがな。いいかい? 立派な王女として旅行を楽しんでおいで」
「リア、お母様は、この国どころか王宮から出たことがないあなたのことが心配でならないわ。どうか無事で帰ってきてちょうだい」
「リア、なるべく早く解決していておくよ。おみやげはお前の笑顔だ。ショーリ、ガニアン、リアのことを頼んだ」

 ヴィクトリアがリクガメ国に行くことについて、ほとんどの者は心配そうに見ている。しかしながら、とうとうまがいものが身の程をわきまえて出ていくのだ、とほくそ笑む人々が一部いる。その一部の人々がいることが悲しく辛く感じるのだった。

「ぴ『……いってきます』」

 CRF1100Lを運転するのは持ち主であるショーリ。その後ろに、キングペンギンの雛状態のヴィクトリアが乗り、羽で彼の脇をつかむ。

「ぷ、くくく。リア、後ろに乗りたいのはわかる。わかる、ケド。羽が短すぎてショーリの脇をくすぐっているぞ。それに、足が……足が、シートからちょっとしか出てない……か、かわいすぎる。ははは」
「ぴぷぅ……『わ、わたくしだって、無理だろうなって思ってたし。でも、一応乗っただけだし。そんなに笑わなくてもいいじゃない』」

 ショーリの後ろにある大きなシートに、雛の彼女がおしりをつける。すると、ちょこんと乗っかるだけで、足がまったく下に降りない。ほぼまっすぐにシートから少しだけはみ出るだけの状態で、なんとも言えない全体像になった。
 彼女を心配してはらはら見守る観衆から、こんな時に不謹慎だと思いながらも姫様もおっちょこちょいだなと小さな笑みがこぼれる。

「リアちゃん、後ろに乗ってくれるのは嬉しい。一応、俺のバイクは、後ろに乗る人が滑りにくいようにフラットなシートだし、長距離でも疲れない。ただ、ガニアンのいう通り、後ろに乗るのはほんの少し早いみたいだね」
「リア、ほら。おとなしく僕のサイドカーに乗って。そのうち、どちらのバイクでも後ろに乗れるんだから」
「ぴぅ『はぁい』」

 外は極寒。ひとつ間違えれば、もうひとりのヴィクトリアの両親のようになる。そんな中、はじめての外界の中を、バイクが二台走り去っていった。

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