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雷を伴う雪が、容赦なくヴィクトリアたちを襲う。しかしながら、バイクに施された安全装置を、操縦するふたりが魔力でコントロールし、彼らを包みこむ空間はそよ風ひとつない。
「リアちゃん、もうすぐ俺の国だ。ペンギン国ほど栄えてはいないが、あちらより温暖でね。のんびりした気風の国民がそろっているから、君を傷つける者はいない。だから、安心していいからね」
「僕も、領地と王宮しか知らないから、とても楽しみです。野菜が豊富なんですよね」
「ぴ『わたくし、リクガメ国のことを勉強したことがあるわ。見たことがない物がたくさんあって、行きたかったの。ショーリお兄さま、ありがとう』」
一歩間違えれば、冗談ではすまないほどのブリザードが彼らを一瞬で凍り付かせ粉々になるだろう。途中大アザラシに遭遇するというハプニングがあったものの、興味なさそうに一瞥されただけに終わった。もしも、彼らが空腹状態であったのなら、まっさきに、ヴィクトリアが狙われたに違いない。
数時間でたどり着いたリクガメ国。凸凹した土がむき出しとはいえ、乗り物に酔うような衝撃もなく、案内された王宮で、リクガメの王たちと挨拶を交わす。
「おお、ヴィクトリア王女、我が国にようこそ。なんとも愛らしい。ショーリがペンギン王国から、なかなか帰ってこないはずだ。色々大変だったようだが、なに、心配などせず、暫くの間ショーリに与えられた領地で過ごされよ」
「ぴーぴ『温かい心遣いに感謝致します。わたくしのほうこそ、ショーリ様にとても良くしていただいておりました。この度は、わたくしとズィークの滞在を快く引き受けてくださり、感謝いたします』」
「ヴィクトリア姫、ショーリの領地で過ごす予定だったようですが、生憎ここからそちらまでの気候が、最近思わしくありません。これまで以上の暴風が吹き荒れているわ。ペンギン国の王から、大事な姫を預かったのです。予定が変更になりますが、ここで過ごしていただきますね」
「ぴぴ『王妃様の、細やかなお気遣いに、とても嬉しく思います。ご迷惑をおかけしますが、お言葉に甘えてそちらで過ごさせていただこうと思います』」
リクガメ国の王妃も、彼女の凛とした言動にたいそう気に入ったようだ。ショーリの領地に行くには、さらに極寒の中を旅しなければならない。リスクが0とは言えないため、母国が落ち着くまで、王宮で暮らせるよう手配してくれていた。
ヴィクトリア一行は、王宮の離れにある屋敷に案内され、そこで過ごすことになった。
ペンギン国よりも、リクガメに適した国土の気温は高い。雛のもふもふっとした羽毛に包まれたヴィクトリアにとっては、汗が出るほどの暑さだ。
数日過ごすうちに、予想されていた時期よりも早く換羽が始まった。
「ぴーぃ『ああ、また抜けたのね……。ずたぼろでみっともないわ』」
「リア、みっともなくなんかないよ。とってもきれいだ。それに、すべすべでまるでたまごのようだ」
「リアちゃんが大人になったら、どんなペンギンの女性よりも美しいに決まっている。幼いリアちゃんも魅力的だったけれど、大人の女性になったリアちゃんは、皆を魅了するだろうな。それまでの間の、今の生え変わりの時期も、もちろん素敵だよ」
ところどころ抜け落ちた茶色の羽毛が、まるで脱毛のように見えて不格好に感じる。
だが、雛のころの羽毛が抜け落ちたそこには、艶やかな大人のペンギンの羽が見え隠れし、輝くそれを見たズィークやショーリは、みっともないどころかチラ見せのような彼女の新たな魅力に思えて、落ち込む彼女を心の底から美しいと褒めたたえた。
そんなふたりの美辞麗句を、四六時中耳にタコができるほど聞き、照れてどうしていいのかわからず、うろうろする様子は、リクガメ国の人々の心を和ませた。
ヴィクトリアは、儀式をせずとも体が成人に向かっていることに複雑な思いを抱く。それは、人化する日がもうすぐだということだ。彼女の不安の通り、人化した姿が、家族の誰にも似ていなかったらと思うとぶるりと体が震えた。
リクガメ国で平穏に暮らしていたある日、ヴィクトリアがふと眠りから覚める。朝日が昇り、世界に光と温度を与える瞬間、彼女の全身をも照らした。
そして、ほぼ抜け落ちた茶色の羽毛ではなく、キングペンギンの姿の彼女の全身を輝かせたかと思うと、その姿がみるみる変化していったのである。
「リアちゃん、もうすぐ俺の国だ。ペンギン国ほど栄えてはいないが、あちらより温暖でね。のんびりした気風の国民がそろっているから、君を傷つける者はいない。だから、安心していいからね」
「僕も、領地と王宮しか知らないから、とても楽しみです。野菜が豊富なんですよね」
「ぴ『わたくし、リクガメ国のことを勉強したことがあるわ。見たことがない物がたくさんあって、行きたかったの。ショーリお兄さま、ありがとう』」
一歩間違えれば、冗談ではすまないほどのブリザードが彼らを一瞬で凍り付かせ粉々になるだろう。途中大アザラシに遭遇するというハプニングがあったものの、興味なさそうに一瞥されただけに終わった。もしも、彼らが空腹状態であったのなら、まっさきに、ヴィクトリアが狙われたに違いない。
数時間でたどり着いたリクガメ国。凸凹した土がむき出しとはいえ、乗り物に酔うような衝撃もなく、案内された王宮で、リクガメの王たちと挨拶を交わす。
「おお、ヴィクトリア王女、我が国にようこそ。なんとも愛らしい。ショーリがペンギン王国から、なかなか帰ってこないはずだ。色々大変だったようだが、なに、心配などせず、暫くの間ショーリに与えられた領地で過ごされよ」
「ぴーぴ『温かい心遣いに感謝致します。わたくしのほうこそ、ショーリ様にとても良くしていただいておりました。この度は、わたくしとズィークの滞在を快く引き受けてくださり、感謝いたします』」
「ヴィクトリア姫、ショーリの領地で過ごす予定だったようですが、生憎ここからそちらまでの気候が、最近思わしくありません。これまで以上の暴風が吹き荒れているわ。ペンギン国の王から、大事な姫を預かったのです。予定が変更になりますが、ここで過ごしていただきますね」
「ぴぴ『王妃様の、細やかなお気遣いに、とても嬉しく思います。ご迷惑をおかけしますが、お言葉に甘えてそちらで過ごさせていただこうと思います』」
リクガメ国の王妃も、彼女の凛とした言動にたいそう気に入ったようだ。ショーリの領地に行くには、さらに極寒の中を旅しなければならない。リスクが0とは言えないため、母国が落ち着くまで、王宮で暮らせるよう手配してくれていた。
ヴィクトリア一行は、王宮の離れにある屋敷に案内され、そこで過ごすことになった。
ペンギン国よりも、リクガメに適した国土の気温は高い。雛のもふもふっとした羽毛に包まれたヴィクトリアにとっては、汗が出るほどの暑さだ。
数日過ごすうちに、予想されていた時期よりも早く換羽が始まった。
「ぴーぃ『ああ、また抜けたのね……。ずたぼろでみっともないわ』」
「リア、みっともなくなんかないよ。とってもきれいだ。それに、すべすべでまるでたまごのようだ」
「リアちゃんが大人になったら、どんなペンギンの女性よりも美しいに決まっている。幼いリアちゃんも魅力的だったけれど、大人の女性になったリアちゃんは、皆を魅了するだろうな。それまでの間の、今の生え変わりの時期も、もちろん素敵だよ」
ところどころ抜け落ちた茶色の羽毛が、まるで脱毛のように見えて不格好に感じる。
だが、雛のころの羽毛が抜け落ちたそこには、艶やかな大人のペンギンの羽が見え隠れし、輝くそれを見たズィークやショーリは、みっともないどころかチラ見せのような彼女の新たな魅力に思えて、落ち込む彼女を心の底から美しいと褒めたたえた。
そんなふたりの美辞麗句を、四六時中耳にタコができるほど聞き、照れてどうしていいのかわからず、うろうろする様子は、リクガメ国の人々の心を和ませた。
ヴィクトリアは、儀式をせずとも体が成人に向かっていることに複雑な思いを抱く。それは、人化する日がもうすぐだということだ。彼女の不安の通り、人化した姿が、家族の誰にも似ていなかったらと思うとぶるりと体が震えた。
リクガメ国で平穏に暮らしていたある日、ヴィクトリアがふと眠りから覚める。朝日が昇り、世界に光と温度を与える瞬間、彼女の全身をも照らした。
そして、ほぼ抜け落ちた茶色の羽毛ではなく、キングペンギンの姿の彼女の全身を輝かせたかと思うと、その姿がみるみる変化していったのである。
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