16 / 26
11
しおりを挟む
雷を伴う雪が、容赦なくヴィクトリアたちを襲う。しかしながら、バイクに施された安全装置を、操縦するふたりが魔力でコントロールし、彼らを包みこむ空間はそよ風ひとつない。
「リアちゃん、もうすぐ俺の国だ。ペンギン国ほど栄えてはいないが、あちらより温暖でね。のんびりした気風の国民がそろっているから、君を傷つける者はいない。だから、安心していいからね」
「僕も、領地と王宮しか知らないから、とても楽しみです。野菜が豊富なんですよね」
「ぴ『わたくし、リクガメ国のことを勉強したことがあるわ。見たことがない物がたくさんあって、行きたかったの。ショーリお兄さま、ありがとう』」
一歩間違えれば、冗談ではすまないほどのブリザードが彼らを一瞬で凍り付かせ粉々になるだろう。途中大アザラシに遭遇するというハプニングがあったものの、興味なさそうに一瞥されただけに終わった。もしも、彼らが空腹状態であったのなら、まっさきに、ヴィクトリアが狙われたに違いない。
数時間でたどり着いたリクガメ国。凸凹した土がむき出しとはいえ、乗り物に酔うような衝撃もなく、案内された王宮で、リクガメの王たちと挨拶を交わす。
「おお、ヴィクトリア王女、我が国にようこそ。なんとも愛らしい。ショーリがペンギン王国から、なかなか帰ってこないはずだ。色々大変だったようだが、なに、心配などせず、暫くの間ショーリに与えられた領地で過ごされよ」
「ぴーぴ『温かい心遣いに感謝致します。わたくしのほうこそ、ショーリ様にとても良くしていただいておりました。この度は、わたくしとズィークの滞在を快く引き受けてくださり、感謝いたします』」
「ヴィクトリア姫、ショーリの領地で過ごす予定だったようですが、生憎ここからそちらまでの気候が、最近思わしくありません。これまで以上の暴風が吹き荒れているわ。ペンギン国の王から、大事な姫を預かったのです。予定が変更になりますが、ここで過ごしていただきますね」
「ぴぴ『王妃様の、細やかなお気遣いに、とても嬉しく思います。ご迷惑をおかけしますが、お言葉に甘えてそちらで過ごさせていただこうと思います』」
リクガメ国の王妃も、彼女の凛とした言動にたいそう気に入ったようだ。ショーリの領地に行くには、さらに極寒の中を旅しなければならない。リスクが0とは言えないため、母国が落ち着くまで、王宮で暮らせるよう手配してくれていた。
ヴィクトリア一行は、王宮の離れにある屋敷に案内され、そこで過ごすことになった。
ペンギン国よりも、リクガメに適した国土の気温は高い。雛のもふもふっとした羽毛に包まれたヴィクトリアにとっては、汗が出るほどの暑さだ。
数日過ごすうちに、予想されていた時期よりも早く換羽が始まった。
「ぴーぃ『ああ、また抜けたのね……。ずたぼろでみっともないわ』」
「リア、みっともなくなんかないよ。とってもきれいだ。それに、すべすべでまるでたまごのようだ」
「リアちゃんが大人になったら、どんなペンギンの女性よりも美しいに決まっている。幼いリアちゃんも魅力的だったけれど、大人の女性になったリアちゃんは、皆を魅了するだろうな。それまでの間の、今の生え変わりの時期も、もちろん素敵だよ」
ところどころ抜け落ちた茶色の羽毛が、まるで脱毛のように見えて不格好に感じる。
だが、雛のころの羽毛が抜け落ちたそこには、艶やかな大人のペンギンの羽が見え隠れし、輝くそれを見たズィークやショーリは、みっともないどころかチラ見せのような彼女の新たな魅力に思えて、落ち込む彼女を心の底から美しいと褒めたたえた。
そんなふたりの美辞麗句を、四六時中耳にタコができるほど聞き、照れてどうしていいのかわからず、うろうろする様子は、リクガメ国の人々の心を和ませた。
ヴィクトリアは、儀式をせずとも体が成人に向かっていることに複雑な思いを抱く。それは、人化する日がもうすぐだということだ。彼女の不安の通り、人化した姿が、家族の誰にも似ていなかったらと思うとぶるりと体が震えた。
リクガメ国で平穏に暮らしていたある日、ヴィクトリアがふと眠りから覚める。朝日が昇り、世界に光と温度を与える瞬間、彼女の全身をも照らした。
そして、ほぼ抜け落ちた茶色の羽毛ではなく、キングペンギンの姿の彼女の全身を輝かせたかと思うと、その姿がみるみる変化していったのである。
「リアちゃん、もうすぐ俺の国だ。ペンギン国ほど栄えてはいないが、あちらより温暖でね。のんびりした気風の国民がそろっているから、君を傷つける者はいない。だから、安心していいからね」
「僕も、領地と王宮しか知らないから、とても楽しみです。野菜が豊富なんですよね」
「ぴ『わたくし、リクガメ国のことを勉強したことがあるわ。見たことがない物がたくさんあって、行きたかったの。ショーリお兄さま、ありがとう』」
一歩間違えれば、冗談ではすまないほどのブリザードが彼らを一瞬で凍り付かせ粉々になるだろう。途中大アザラシに遭遇するというハプニングがあったものの、興味なさそうに一瞥されただけに終わった。もしも、彼らが空腹状態であったのなら、まっさきに、ヴィクトリアが狙われたに違いない。
数時間でたどり着いたリクガメ国。凸凹した土がむき出しとはいえ、乗り物に酔うような衝撃もなく、案内された王宮で、リクガメの王たちと挨拶を交わす。
「おお、ヴィクトリア王女、我が国にようこそ。なんとも愛らしい。ショーリがペンギン王国から、なかなか帰ってこないはずだ。色々大変だったようだが、なに、心配などせず、暫くの間ショーリに与えられた領地で過ごされよ」
「ぴーぴ『温かい心遣いに感謝致します。わたくしのほうこそ、ショーリ様にとても良くしていただいておりました。この度は、わたくしとズィークの滞在を快く引き受けてくださり、感謝いたします』」
「ヴィクトリア姫、ショーリの領地で過ごす予定だったようですが、生憎ここからそちらまでの気候が、最近思わしくありません。これまで以上の暴風が吹き荒れているわ。ペンギン国の王から、大事な姫を預かったのです。予定が変更になりますが、ここで過ごしていただきますね」
「ぴぴ『王妃様の、細やかなお気遣いに、とても嬉しく思います。ご迷惑をおかけしますが、お言葉に甘えてそちらで過ごさせていただこうと思います』」
リクガメ国の王妃も、彼女の凛とした言動にたいそう気に入ったようだ。ショーリの領地に行くには、さらに極寒の中を旅しなければならない。リスクが0とは言えないため、母国が落ち着くまで、王宮で暮らせるよう手配してくれていた。
ヴィクトリア一行は、王宮の離れにある屋敷に案内され、そこで過ごすことになった。
ペンギン国よりも、リクガメに適した国土の気温は高い。雛のもふもふっとした羽毛に包まれたヴィクトリアにとっては、汗が出るほどの暑さだ。
数日過ごすうちに、予想されていた時期よりも早く換羽が始まった。
「ぴーぃ『ああ、また抜けたのね……。ずたぼろでみっともないわ』」
「リア、みっともなくなんかないよ。とってもきれいだ。それに、すべすべでまるでたまごのようだ」
「リアちゃんが大人になったら、どんなペンギンの女性よりも美しいに決まっている。幼いリアちゃんも魅力的だったけれど、大人の女性になったリアちゃんは、皆を魅了するだろうな。それまでの間の、今の生え変わりの時期も、もちろん素敵だよ」
ところどころ抜け落ちた茶色の羽毛が、まるで脱毛のように見えて不格好に感じる。
だが、雛のころの羽毛が抜け落ちたそこには、艶やかな大人のペンギンの羽が見え隠れし、輝くそれを見たズィークやショーリは、みっともないどころかチラ見せのような彼女の新たな魅力に思えて、落ち込む彼女を心の底から美しいと褒めたたえた。
そんなふたりの美辞麗句を、四六時中耳にタコができるほど聞き、照れてどうしていいのかわからず、うろうろする様子は、リクガメ国の人々の心を和ませた。
ヴィクトリアは、儀式をせずとも体が成人に向かっていることに複雑な思いを抱く。それは、人化する日がもうすぐだということだ。彼女の不安の通り、人化した姿が、家族の誰にも似ていなかったらと思うとぶるりと体が震えた。
リクガメ国で平穏に暮らしていたある日、ヴィクトリアがふと眠りから覚める。朝日が昇り、世界に光と温度を与える瞬間、彼女の全身をも照らした。
そして、ほぼ抜け落ちた茶色の羽毛ではなく、キングペンギンの姿の彼女の全身を輝かせたかと思うと、その姿がみるみる変化していったのである。
0
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
聖女は秘密の皇帝に抱かれる
アルケミスト
恋愛
神が皇帝を定める国、バラッハ帝国。
『次期皇帝は国の紋章を背負う者』という神託を得た聖女候補ツェリルは昔見た、腰に痣を持つ男を探し始める。
行き着いたのは権力を忌み嫌う皇太子、ドゥラコン、
痣を確かめたいと頼むが「俺は身も心も重ねる女にしか肌を見せない」と迫られる。
戸惑うツェリルだが、彼を『その気』にさせるため、寝室で、浴場で、淫らな逢瀬を重ねることになる。
快楽に溺れてはだめ。
そう思いつつも、いつまでも服を脱がない彼に焦れたある日、別の人間の腰に痣を見つけて……。
果たして次期皇帝は誰なのか?
ツェリルは無事聖女になることはできるのか?
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる