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間幕
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ヴィクトリアが滞在する部屋に現れたのは、すらりとした体躯の青年だった。彼女と同年代に見える。切れ長の目は鋭いものの、口元には笑みを浮かべているためか、優しい印象を醸し出していた。
「やあ、はじめまして。私はこの国の宰相の息子で、父の補佐官をしています。この度、王女様の世話係として抜擢されました。アルルカンといいます。どうぞ、気軽にアルとお呼びください。王女様、今後ともお見知り置きを」
そう言うと、長い脚をゆっくり動かし、ヴィクトリアの前で片膝をつく。そして、彼女の手を取ると、指先に軽くキスをした。
「え、あ、あの……。よ、よろしくお願いします! 私のことは、ととと、トリーと呼んでください!」
洗練された格好良い青年に、指先にキスをされるなど、産まれて初めての彼女は、首から上を真っ赤にして、慌てて手を引っ込める。その初心な姿に、アルルカンは不敵な笑みを浮かべた。
「突然のことで、右も左もおわかりにならないでしょう。ヴィクトリア嬢がここを去った今、少しずつ覚えていってくだされば良いのです。部屋に閉じこもりもよくありません。トリー様、外出許可は得ておりますし、案内がてら、私と散策いたしませんか?」
「いいんですか? ありがとうございます。是非! おじいちゃん、おばあちゃんも行こう」
「わしらは、疲れておるからここで休ませてもらうよ。宰相閣下の息子さんならわしらも安心じゃ。アルルカン殿、トリーをお願いします」
ヴィクトリアの祖父母は、ひょっとするとアルルカンがトリーの夫候補としてここに来たのかと、胸を高鳴らせ、ふたりきりにした方が良いと考えた。
満面の笑顔のふたりに見送られ、トリーは花が咲き乱れる庭に足を運ぶ。
「わぁ、きれい。流石王宮ですね。うちではこんな見事な花なんて見られません」
「王たちの魔力で保護されておりますからね。トリー様も、王譲りの魔力をお持ちでしょう。どうぞ、手を」
アルルカンは、地に落ちた、虫食いのある花を手に取る。すると、彼の手に触れた瞬間、萎れかかっていた花があっという間に虫食いもなくみずみずしいガイラルデイアに変化した。
「ガイラルデイア……きれいですね」
「私も父も、その花と同じく一致団結し、あなたに協力することを誓います。やっとこの王宮に本物の王女様が帰ってこられたのです。その瞬間に居合わせたのは、私にとてつもない幸福をもたらしました。トリー様、私はあなたのことをもっと知りたいと思っています」
「あの、アルルカン様……」
「実は、父だけでなく、王からも私がトリー様の側で見守るよう厳命されております。どうぞ、アルと」
宰相は、ヴィクトリアを見つけてここに来ることができるように尽力してくれた。その息子さんなのだ。最初から全幅の信頼をおいている。更に、王である父がそのように言ったということは、眼の前にいる洗練された好青年は、おそらく自分の夫として眼の前にいるのだと疑う余地はないと彼女は思った。
「アル……こちらこそ、よろしくお願いします」
アルルカンの手によって、ガイラルデイアの鮮やかな赤が、彼女の髪を彩る。恥ずかしさのあまり、うつむいた彼女の赤い首筋や耳を見て、彼がどのような表情をしていたのかなど、ヴィクトリアは知るよしもなかった。
「やあ、はじめまして。私はこの国の宰相の息子で、父の補佐官をしています。この度、王女様の世話係として抜擢されました。アルルカンといいます。どうぞ、気軽にアルとお呼びください。王女様、今後ともお見知り置きを」
そう言うと、長い脚をゆっくり動かし、ヴィクトリアの前で片膝をつく。そして、彼女の手を取ると、指先に軽くキスをした。
「え、あ、あの……。よ、よろしくお願いします! 私のことは、ととと、トリーと呼んでください!」
洗練された格好良い青年に、指先にキスをされるなど、産まれて初めての彼女は、首から上を真っ赤にして、慌てて手を引っ込める。その初心な姿に、アルルカンは不敵な笑みを浮かべた。
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「いいんですか? ありがとうございます。是非! おじいちゃん、おばあちゃんも行こう」
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ヴィクトリアの祖父母は、ひょっとするとアルルカンがトリーの夫候補としてここに来たのかと、胸を高鳴らせ、ふたりきりにした方が良いと考えた。
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「わぁ、きれい。流石王宮ですね。うちではこんな見事な花なんて見られません」
「王たちの魔力で保護されておりますからね。トリー様も、王譲りの魔力をお持ちでしょう。どうぞ、手を」
アルルカンは、地に落ちた、虫食いのある花を手に取る。すると、彼の手に触れた瞬間、萎れかかっていた花があっという間に虫食いもなくみずみずしいガイラルデイアに変化した。
「ガイラルデイア……きれいですね」
「私も父も、その花と同じく一致団結し、あなたに協力することを誓います。やっとこの王宮に本物の王女様が帰ってこられたのです。その瞬間に居合わせたのは、私にとてつもない幸福をもたらしました。トリー様、私はあなたのことをもっと知りたいと思っています」
「あの、アルルカン様……」
「実は、父だけでなく、王からも私がトリー様の側で見守るよう厳命されております。どうぞ、アルと」
宰相は、ヴィクトリアを見つけてここに来ることができるように尽力してくれた。その息子さんなのだ。最初から全幅の信頼をおいている。更に、王である父がそのように言ったということは、眼の前にいる洗練された好青年は、おそらく自分の夫として眼の前にいるのだと疑う余地はないと彼女は思った。
「アル……こちらこそ、よろしくお願いします」
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