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番外 ショーリと1
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ショーリは、ヴィトリアの人化の姿を確かめるやいなや、リクガメ国王に彼女との婚姻の許可を申し出た。乙女であるリアは、この国ではビィノよりもあがめられている。ビィノの容姿に、相性がリアとは我が国の王子との結婚こそふさわしいと、ショーリではなく、彼の兄たちのいずれかが彼女の夫候補として名が連なった。
しかしながら、乙女たちは魔力が無の状態であり、キングペンギンの姿をしているヴィクトリア王女が、果たして容姿や名前が偶然一致するからといって、リクガメ獣人との子が成せるのかどうかも疑わしい。少子高齢化はペンギンたちだけでなく、リクガメたちも同じである。ガニアンからの強い推薦や、王位継承権をなくしたショーリであれば、その子を時代の王子の妻にしたほうがよいと、彼の願いはかなえられた。
「ショーリお兄様は、本当にわたくしでよかったの?」
「ああ。言葉に語弊があるかもしれないが、君が小さなころから俺の側にいてもいい女の子はリアちゃんだけだって思っていた」
ショーリとヴィクトリアは、リクガメ国の王妃に招かれ茶会に参加している。王妃とお茶を嗜むのは嬉しいことであるが、ヴィクトリアの心は穏やかではない。なぜなら、そこかしこで、ヴィクトリアよりも妖艶な美女や、愛らしいリクガメの女性たちが、軒並みショーリへ秋波を送っていたからである。
気に入った男が既婚者であろうとも気にしない女性はどこにでもいる。ましてや、ショーリはまだ婚約者候補という微妙な立場だ。自分こそ彼にふさわしいと思う女性だらけなのである。
そんな中、ヴィクトリアの目の前でショーリにわざとらしくふらついてすがりつこうとする不埒ものもいた。
「あ、めまいが……」
「おっと、危ない」
目のあたりに手を当ててショーリめがけて倒れてくる。それを見たショーリは、そうつぶやきながら、さっと彼女から離れてヴィクトリアの腰を支えたのである。
「え? は? きゃあ!」
「リアちゃん、危なかったね。ケガはない?」
「わたくしは別に。それよりもあの方が……」
当然のように倒れる自分を支えてくれると確信していた女性は、ショーリが自分をさっとよけ、あまつさえ、ヴィクトリアに見えないように少し体を押されて倒されるなど思ってもいない。彼の体に添えようとした手は宙を泳ぎ、バランスを崩した体は地に倒れこむ。
「……」
人化した姿よりも、リクガメの姿のほうがダメージが少ない。一瞬でリクガメに変身した彼女は、ものの見事にひっくりかえり、腹と手足を空に向けてバタバタしてしまっていた。
「まあ、大変。大丈夫ですか?」
ヴィクトリアは、さっきまでショーリに手を出そうとしていてモヤモヤしていたというのに、ひっくり返りたくても返れない哀れな彼女を助けた。
「…………『ひどいわ、ショーリ様。王妃様、みっともない姿をお見せして申し訳ございません。ですが、私、ショーリ様に押されたんです!』」
女性は驚きつつも、自分に目もくれようともしない男よりも、ドレスが汚れるのも構わずさっそうと助けてくれた蹴落とそうとした彼女の自愛あふれる行為に胸が高鳴り、さきほどまでの自分を恥じ入るかのように顔を両手で覆った。
「ごめんなさい。なんと言っているのかわからないわ。痛いところはありませんか?」
「……彼女は、リアちゃんにありがとうって言っているんだよ。騎士に送らせよう。痛いところはなさそうだが、年のため医師に診てもらってから帰宅するといい」
ヴィクトリア以外のリクガメたちは、ショーリの行動がばっちり見えていた。彼に近づこうものなら、王族の目の前であってもひどい目にあわされることを理解し、ヴィクトリアがいなければどうなるかわからないと青ざめる。ひっくり返った女性に、猛獣の前でうかつに手足を出さなければかじられることもあるまいに、と王妃は口元でつぶやいた。
そんな彼の行動に、王妃は苦笑しつつ、女性たちの身の安全のためにも、ふたりの結婚を急がせたほうがいいと判断し茶会を終了させた。
ショーリは、ほどなくしてズィークとともにヴィクトリアの夫になった。結婚前にズィークとヴィクトリアは愛を確かめ合っているため、挙式を終えた初夜はショーリと過ごすことになっていた。
しかしながら、乙女たちは魔力が無の状態であり、キングペンギンの姿をしているヴィクトリア王女が、果たして容姿や名前が偶然一致するからといって、リクガメ獣人との子が成せるのかどうかも疑わしい。少子高齢化はペンギンたちだけでなく、リクガメたちも同じである。ガニアンからの強い推薦や、王位継承権をなくしたショーリであれば、その子を時代の王子の妻にしたほうがよいと、彼の願いはかなえられた。
「ショーリお兄様は、本当にわたくしでよかったの?」
「ああ。言葉に語弊があるかもしれないが、君が小さなころから俺の側にいてもいい女の子はリアちゃんだけだって思っていた」
ショーリとヴィクトリアは、リクガメ国の王妃に招かれ茶会に参加している。王妃とお茶を嗜むのは嬉しいことであるが、ヴィクトリアの心は穏やかではない。なぜなら、そこかしこで、ヴィクトリアよりも妖艶な美女や、愛らしいリクガメの女性たちが、軒並みショーリへ秋波を送っていたからである。
気に入った男が既婚者であろうとも気にしない女性はどこにでもいる。ましてや、ショーリはまだ婚約者候補という微妙な立場だ。自分こそ彼にふさわしいと思う女性だらけなのである。
そんな中、ヴィクトリアの目の前でショーリにわざとらしくふらついてすがりつこうとする不埒ものもいた。
「あ、めまいが……」
「おっと、危ない」
目のあたりに手を当ててショーリめがけて倒れてくる。それを見たショーリは、そうつぶやきながら、さっと彼女から離れてヴィクトリアの腰を支えたのである。
「え? は? きゃあ!」
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「わたくしは別に。それよりもあの方が……」
当然のように倒れる自分を支えてくれると確信していた女性は、ショーリが自分をさっとよけ、あまつさえ、ヴィクトリアに見えないように少し体を押されて倒されるなど思ってもいない。彼の体に添えようとした手は宙を泳ぎ、バランスを崩した体は地に倒れこむ。
「……」
人化した姿よりも、リクガメの姿のほうがダメージが少ない。一瞬でリクガメに変身した彼女は、ものの見事にひっくりかえり、腹と手足を空に向けてバタバタしてしまっていた。
「まあ、大変。大丈夫ですか?」
ヴィクトリアは、さっきまでショーリに手を出そうとしていてモヤモヤしていたというのに、ひっくり返りたくても返れない哀れな彼女を助けた。
「…………『ひどいわ、ショーリ様。王妃様、みっともない姿をお見せして申し訳ございません。ですが、私、ショーリ様に押されたんです!』」
女性は驚きつつも、自分に目もくれようともしない男よりも、ドレスが汚れるのも構わずさっそうと助けてくれた蹴落とそうとした彼女の自愛あふれる行為に胸が高鳴り、さきほどまでの自分を恥じ入るかのように顔を両手で覆った。
「ごめんなさい。なんと言っているのかわからないわ。痛いところはありませんか?」
「……彼女は、リアちゃんにありがとうって言っているんだよ。騎士に送らせよう。痛いところはなさそうだが、年のため医師に診てもらってから帰宅するといい」
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そんな彼の行動に、王妃は苦笑しつつ、女性たちの身の安全のためにも、ふたりの結婚を急がせたほうがいいと判断し茶会を終了させた。
ショーリは、ほどなくしてズィークとともにヴィクトリアの夫になった。結婚前にズィークとヴィクトリアは愛を確かめ合っているため、挙式を終えた初夜はショーリと過ごすことになっていた。
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