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胸が熱く、心臓が痛いほど強く鼓動を打つ。これはなんだ?
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「くちゅんっ!」
シルヴィアは、ハンカチ一枚を体に巻き付けていた。その下には何も身につけていない。肌寒くなってきているため、ぶるりと身震いをしたあと小さくくしゃみをした。
「ああ、シルヴィア嬢……そのハンカチのような服では寒いだろう? 足なども汚れている。風呂に入れて綺麗にしてあげよう」
「え? あ、あの……?」
ザムエルには、他意なく、小さなフィギュアを綺麗にして温めるという目的しかなかった。だが、シルヴィアにしてみれば、自身は18の乙女であり、男性に肌を見せ、あまつさえ風呂に入れられるなどありえない。
「遠慮するな。着替えは沢山あるし心配しなくていい」
「は? 着替え? え? きゃぁ!」
そっと、大きな手がシルヴィアの体を抱きしめて手のひらの上に座らせる。
「じっとしているんだ」
「は、はい……」
シルヴィアの視界は、床まで相当な高さだ。そっとザムエルの温かく大きな手の平に体を預ける。皺を小さな手で掴もうとするがなかなかつかめず、ゆっくりなるべく振動しないように歩いてくれているとはいえ、怖くなり、ぺたんと寝転んだ。
「ああ、恐ろしいか?」
ザムエルは、自分が女性に怖がられてしまう事を思い出す。これまでシルヴィアの表情が、怖がるどころか尊敬のまなざしで笑ってくれていたので、すっかり失念していたがやはり彼女も自分を怖がっているのかと気持ちが落ち込んだ。
「あの、高くて……。その、わたくし、高い所が苦手で……。ザムエル様、宜しければ両手で守っていただけませんか?」
「あ、ああ。高所が怖かったのか。わかった」
高所恐怖症で身を固くしていただけのシルヴィアをそっと両手で包み込むようにして、さらに慎重に歩いて行く。自分を怖がっていない事が分かり、先ほど落ち込んだ気分が急上昇した。やがてバスルームにたどりつくと、湯船に魔法でやや温かい温度のお湯を張る。
「シルヴィア嬢、さあ」
そう言った段階で、ふと、ザムエルは小さなシルヴィアがこの湯船という彼女にとって巨大な浴槽に浸かれない事に気付いた。慌てて洗面器に湯を移し入れてみるものの、それすら彼女には高い。
「ザムエル様、床に降ろしていただけますか?」
「ああ。だが……。危ないから入れてやろう」
「いいえ! じ、自分でできますわ。それに、その……」
ザムエルは、自分で出来ると言い切ったあと、モジモジと歯切れが悪くなり真っ赤になるシルヴィアの姿を見てドキドキ胸が高鳴った。
「かわいい……」
思わず口にしたその言葉を聞いて、シルヴィアの顔が赤く染まる。
「えっと……、あ、ありがとうございます?」
「あ、いや。その……。違うんだ。いや、かわいいというのは本当なのだが……。その、どうやって一人で?」
「あの、ザムエル様は男性ですのでお手伝いくださるお気持ちは嬉しいのですが……。あの、えっと……恥ずかしいです……」
真っ赤な顔を両手で覆い下を向く。彼女の首から背中にかけて、ハンカチから見える白い肌がとても美しい。
「あ、ああ、そ、そうだな。小さくなっているとはいえ、じゅ、じゅうはちの、じょせい、だったな……。すまない。だがどうやって湯に? それに石鹸などは?」
ザムエルは、完全にフィギュアとして彼女を認識していたが、恥ずかしがり俯くシルヴィアが18の色香を放つ魅力的な女性だという事に、ようやく頭が追いついた。
「あの、ザムエル様はわたくしにスキルがあると見抜かれていますよね? それに、今後も出来れば保護していただきたいのでお伝えしますが……。その、保護をお願いするのは流石に図々しいですか?」
「いや、君が良ければずっといればいい。仕事ばかりで一人暮らしだ。遠慮しなくていい」
「まあ、……。なんてお優しいの? ふふふ、ザムエル様がとても素敵な方で良かったですわ……。ありがとうございます」
「素敵だなどと……」
照れて嬉しそうにしているシルヴィアのなんと愛らしい事か。先ほどから心臓は痛いほどドンドンとまるで打楽器を叩きつけてリズムを奏でているかのようだ。
「見ていてくださいませね?」
そういうと、シルヴィアは手をかざし、洗面器の縁に向かい、階段を作り出した。さらに、フィギュアの大きさに合わせた洗い場や洗面器、タオルなどがどんどん何もない空間から現れる。
「……、シルヴィア嬢、君は……」
「これがわたくしのスキル〈創造〉ですわ。原理を知り、想像できる全ての物質を作り出す事ができます……。ただ、魔力が少なく大したものはつくれません……。ですが、実はこのスキルは知られれば騒動になると言われていますし、事情がありずっと隠しておりましたの。スキルを持つことを見抜かれたザムエル様には、打ち明ける事ができるようですわ」
「ちょっと待ってくれないか……。原理を知り、想像できる全ての物質を? それは、まるで……」
「はい、神の手と呼ばれるスキルの一つです……」
ザムエルは、望んでも手に入らないそのスキルを、か弱い力を持たなさそうなシルヴィアが持つ事を知ると、目を見開き、まじまじと彼女を見続けたのであった。
シルヴィアは、ハンカチ一枚を体に巻き付けていた。その下には何も身につけていない。肌寒くなってきているため、ぶるりと身震いをしたあと小さくくしゃみをした。
「ああ、シルヴィア嬢……そのハンカチのような服では寒いだろう? 足なども汚れている。風呂に入れて綺麗にしてあげよう」
「え? あ、あの……?」
ザムエルには、他意なく、小さなフィギュアを綺麗にして温めるという目的しかなかった。だが、シルヴィアにしてみれば、自身は18の乙女であり、男性に肌を見せ、あまつさえ風呂に入れられるなどありえない。
「遠慮するな。着替えは沢山あるし心配しなくていい」
「は? 着替え? え? きゃぁ!」
そっと、大きな手がシルヴィアの体を抱きしめて手のひらの上に座らせる。
「じっとしているんだ」
「は、はい……」
シルヴィアの視界は、床まで相当な高さだ。そっとザムエルの温かく大きな手の平に体を預ける。皺を小さな手で掴もうとするがなかなかつかめず、ゆっくりなるべく振動しないように歩いてくれているとはいえ、怖くなり、ぺたんと寝転んだ。
「ああ、恐ろしいか?」
ザムエルは、自分が女性に怖がられてしまう事を思い出す。これまでシルヴィアの表情が、怖がるどころか尊敬のまなざしで笑ってくれていたので、すっかり失念していたがやはり彼女も自分を怖がっているのかと気持ちが落ち込んだ。
「あの、高くて……。その、わたくし、高い所が苦手で……。ザムエル様、宜しければ両手で守っていただけませんか?」
「あ、ああ。高所が怖かったのか。わかった」
高所恐怖症で身を固くしていただけのシルヴィアをそっと両手で包み込むようにして、さらに慎重に歩いて行く。自分を怖がっていない事が分かり、先ほど落ち込んだ気分が急上昇した。やがてバスルームにたどりつくと、湯船に魔法でやや温かい温度のお湯を張る。
「シルヴィア嬢、さあ」
そう言った段階で、ふと、ザムエルは小さなシルヴィアがこの湯船という彼女にとって巨大な浴槽に浸かれない事に気付いた。慌てて洗面器に湯を移し入れてみるものの、それすら彼女には高い。
「ザムエル様、床に降ろしていただけますか?」
「ああ。だが……。危ないから入れてやろう」
「いいえ! じ、自分でできますわ。それに、その……」
ザムエルは、自分で出来ると言い切ったあと、モジモジと歯切れが悪くなり真っ赤になるシルヴィアの姿を見てドキドキ胸が高鳴った。
「かわいい……」
思わず口にしたその言葉を聞いて、シルヴィアの顔が赤く染まる。
「えっと……、あ、ありがとうございます?」
「あ、いや。その……。違うんだ。いや、かわいいというのは本当なのだが……。その、どうやって一人で?」
「あの、ザムエル様は男性ですのでお手伝いくださるお気持ちは嬉しいのですが……。あの、えっと……恥ずかしいです……」
真っ赤な顔を両手で覆い下を向く。彼女の首から背中にかけて、ハンカチから見える白い肌がとても美しい。
「あ、ああ、そ、そうだな。小さくなっているとはいえ、じゅ、じゅうはちの、じょせい、だったな……。すまない。だがどうやって湯に? それに石鹸などは?」
ザムエルは、完全にフィギュアとして彼女を認識していたが、恥ずかしがり俯くシルヴィアが18の色香を放つ魅力的な女性だという事に、ようやく頭が追いついた。
「あの、ザムエル様はわたくしにスキルがあると見抜かれていますよね? それに、今後も出来れば保護していただきたいのでお伝えしますが……。その、保護をお願いするのは流石に図々しいですか?」
「いや、君が良ければずっといればいい。仕事ばかりで一人暮らしだ。遠慮しなくていい」
「まあ、……。なんてお優しいの? ふふふ、ザムエル様がとても素敵な方で良かったですわ……。ありがとうございます」
「素敵だなどと……」
照れて嬉しそうにしているシルヴィアのなんと愛らしい事か。先ほどから心臓は痛いほどドンドンとまるで打楽器を叩きつけてリズムを奏でているかのようだ。
「見ていてくださいませね?」
そういうと、シルヴィアは手をかざし、洗面器の縁に向かい、階段を作り出した。さらに、フィギュアの大きさに合わせた洗い場や洗面器、タオルなどがどんどん何もない空間から現れる。
「……、シルヴィア嬢、君は……」
「これがわたくしのスキル〈創造〉ですわ。原理を知り、想像できる全ての物質を作り出す事ができます……。ただ、魔力が少なく大したものはつくれません……。ですが、実はこのスキルは知られれば騒動になると言われていますし、事情がありずっと隠しておりましたの。スキルを持つことを見抜かれたザムエル様には、打ち明ける事ができるようですわ」
「ちょっと待ってくれないか……。原理を知り、想像できる全ての物質を? それは、まるで……」
「はい、神の手と呼ばれるスキルの一つです……」
ザムエルは、望んでも手に入らないそのスキルを、か弱い力を持たなさそうなシルヴィアが持つ事を知ると、目を見開き、まじまじと彼女を見続けたのであった。
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