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無事でよかった……!

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 道中、事情を説明され、緊張しながらザムエル達に連れられて騎士団の一室に入る。そこには、一か月ぶりに会うカミンスキ侯爵とシモン。そして、シルヴィアの父と義母とゾフィアがすでにソファに座っていた。
 予めシルヴィアの無事を聞いていたのだろう。扉から入って来た彼女の姿を見てほっと安堵のため息を吐く面々。

「おねえさまっ!」

 目に涙をいっぱいにためてゾフィアがシルヴィアに飛びついた。痩せた頬に軽くなった体。きっと、今日までほとんど眠れず食事もまともに取れていなかったに違いない。
 
  抱きしめた腕に当たる肋骨が服越しにも浮き出ているのが分かり、シルヴィアはゾフィアの心労がいかほどのものだったのかと思うと涙が溢れ出た。

「ゾフィア……、こんなに痩せて。今まで隠れていてごめんなさい……。わたくしがいなくなれば、シモン様とゾフィアが結婚して幸せになれるかと思っていたの……。わたくしの考えが浅はかだったわ……」
「いいえ、いいえ……。わたくしは、お姉様がご無事でこうしていらっしゃるだけで……。良かった、良かった……!」

 姉妹の抱き合う姿に、部屋にいる数名が瞳をうるうるとさせて鼻をすすっている。

「シルヴィア……。よくぞ無事で……。すまない……、すまなかった……。君にはなんと償えば……」

 シモンが立ち上がり、二人の近くにくると両膝をついて深く頭を下げ、額を床につけた。

「シモン様! あの事は事故なのです。わざとスキルを発動させたわけでもありませんでしょうし、あの時の状況では仕方ありませんわ……。ただ、あの時にわたくしに仰った言葉は……。う……、わたくしの母が……。はぁはぁ……へいみ…………、シモン様をだまし…………、あぁ、胸が、いたい……はぁ、はぁ……」
「シルヴィア! しゃべるな。分かっている。すでに調べはすんでいるみたいし、彼ももうある程度の事情を知っているらしい。君が伝える必要なんてないんだ」
「くるし……、ザムエル様……」
「ああ、俺だ。落ち着いて……。黙って……」

 突然顔が真っ青になり、胸を押さえて苦しそうに息を荒げ始めたシルヴィアの姿に周囲が目を見張る。

「ザムエルさま……、ザムエル様……」
「シルヴィア……大丈夫だ……」

 縋るように頼りない手をザムエルに伸ばす彼女を、ぎゅっと抱き留めてゆっくりソファに座らせる。勿論、ザムエルの膝にのせた状態である。ザムエルは苦しむシルヴィアを抱きしめて背を撫でた。

「あの、お二人のご関係は……?」

 ゾフィアは、緊迫した空気の中、ザムエルたち以外の全員が気になっている問いをする。

「ああ、ゾフィア嬢。初めまして、俺の名はザムエル・ヴァインベルクという。シルヴィアの夫だ」

「えええええ!」

「正確には未来の夫だがな」

 ゾフィアはじめ、全員の目と口が丸くなる。特にシモンとゾフィアは、シルヴィアの周囲に男の影など一切無かったことを知っているため、この一か月の間に何が起こったのかと驚愕して口をパクパク開け閉めした。

「シルヴィア! なんだ、その男は? わしは許さんぞ! シモン殿という立派な婚約者がありながらお前と言う奴は……! 殿、お前が消えてしまって生死が不明だったために、まだシモン殿との婚約は継続されているんだ! つまり、婚約者がいるお前は不貞を犯したことになるんだぞ! 恥を知れ!」

 我に返ったマリシュ伯爵が声を荒げた。唾をその口からまき散らしてシルヴィアに指を指しながら激高している。

 そこに、パンパンと大きく手を打つ音が響いた。

「さて、お集りの皆さま。〈呪い〉のスキル発動から始まった一連の騒動について一つずつ解決していこうではありませんか」

 部屋にいる人々の耳に、よく通る声を出したのは、満面の笑顔のドミニクだった。


※※※※



「その前に、シルヴィア嬢、君は一切何も言わなくていい。些細な言葉がいつ何時制約に抵触するかわからないからね。君に何かがあれば弟がどうなるかわからないし」

 シルヴィアはまだじくりじくり痛む胸を押さえながら頷いた。

「シルヴィア嬢が一切公言しなければ、スキルで縛られた制約と誓約は無効状態になるからな。伯爵、まずは貴方を捕縛させていただこう」

「な? 貴様ら何を! わしを誰だと思っている!」

 伯爵は、突然背後の屈強な騎士に腕を背に回され、ザムエルに〈緊縛〉されて身動きできなくなった。

「ずっと追っていた相手がこんな所にいるとはな。〈隷属のスコルピオン〉よくも長い間隠れおおせていたものだ。貴様の犯罪は過去数十年にも及ぶ。被害者が口にできず、表ざたにならないため今まで取り逃がしていたが……。本物の伯爵はすでに始末したのか? ん?」
「何の事だ!」
「シルヴィア嬢だけでなく、伯爵夫人にも〈隷属〉がかかっていることはすでに把握済みだ。夫人、〈隷属〉を解くには、術者の死か、解呪が必要なのだが……。少々手荒な術をこいつにかけるがご容赦願いたい」


「待って下さい! その男に何かがあれば主人の命が……! う……、うぅ……」

「伯爵夫人、落ち着いてください」
「お母様!」
「お義母様!」

 ドミニクが言った通り、伯爵夫人にも〈隷属〉のスキルがかけられていたようだ。突然苦しみだした夫人の背をゾフィアが必死に擦り続けた。

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