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初めまして、お義兄様
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神の手ともいえる〈創造〉のスキル持ちである訳ありの女性を、誰にも言わずに家で保護をしていた事を告白した。
──くそっ! きっと〈隷属〉の制約のためにシモンとかいうクソガキの事も言えなかったに違いない……。婚約者であるシルヴィアは侯爵家に連れ去られてしまうだろう。…………こうなったら、俺が彼女を守り切って見せる。今更、俺の嫁を奪い返されてたまるか!
俺は兄に言っても差しさわりのない内容だけを説明しながらも逃亡ルートや方法、行く先を綿密に計画立てていた。
兄は呆れつつも、彼女の命を守るための緊急措置だったという事もあり小言を言われただけですんだ。
「ふむ……。事情は分かった。言いたい事、聞きたい事は山のようにあるが……。とりあえずお前の家に行くぞ!」
兄が家に一緒に来てしまえばシルヴィアと逃亡できないではないか。
「俺が、責任をもって連れて来るから兄上はここで待っててくれ……」
「ダメだ。お前、まだ隠している事があるな? 最近、お前に女が出来たって専らの噂だったが、恐らくは彼女がその人だろう? ややこしい事情があるだろうが、独身のまま枯れていく予定だった弟に彼女が出来たなんて。なあに、うちの嫁になる子だ。あのな、うちだってカミンスキ侯爵家に負けないくらいの家柄なんだぞ? 父上も母上も、なんとかしてくれるって!」
──くそ、体力自慢の騎士のくせに、こういう時は勘がするどすぎる。だが、俺とシルヴィアを守ってくれるというのか? 下手をすればカミンスキ侯爵家と全面的に敵対関係になるというのに。
「……だって、婚約者って……。カミンスキ侯爵は代々、国の重鎮だし……。俺たちのために家を巻き込めない」
「詳しい話は関係者が揃ってからだ。恐らくお前の心配するような事態にはならないさ。あのな、そのまま二人で逃げようとか企んでいるのが見え見えだ。いいか、早まるなよ? お兄さまたちが、ちゃあんと、お前の望むようにしてやるから。たまには家族を信用しろ!」
「……分かった」
「あーもう、公私混同も甚だしいが仕方あるまい。ほら、さっさと行くぞー」
俺よりも一回りも大柄な兄に引っ張られるように家に向かった。
※※※※
「ザムエル様、おかえりなさいませ!」
シルヴィアが、俺の帰りを笑顔で出迎えてくれる。小走りにくる俺のシャツ一枚の裾が跳ねあがり、白く細い太ももが半分以上見えた。揺れる胸はぽわんぽわんと跳ねて今すぐむしゃむりつきたくなる。
「ぐあああ!」
俺は、後ろにいた兄の存在を思い出し、〈緊縛〉のスキルをかけた。悲鳴をあげて床に寝そべった所を蹴りあげて廊下に出す。一瞬でも、誰をも魅了する色っぽい彼女の姿を見ただろうか? もしそうなら目玉をえぐりとって記憶を消去しないといけない。
「ザムエル様? 先ほどの方はどなた?」
「ああ、単なるどこにでもいる兄だ。シルヴィアのその姿を見せるわけにはいかないからな。不埒な男は追い出したから安心してくれ」
「え? え? お兄様ですか?」
「ああ、忘れて良いぞ」
「良くないよな! なんて弟だ! いきなりこんな仕打ちをするなんて、兄は悲しいぞ!」
「まあ、ザムエル様。あの……、お兄様が……」
「気にしなくていい。それよりも、シルヴィア大変な事になったんだ」
「気にしてくれ! お前なあ! 兄にこんな仕打ちをするなんて、彼女が呆れてフラれちまっても知らねーぞ!」
「……ちっ。取り敢えず〈緊縛〉を解くから、シルヴィアの準備が出来るまで目を閉じて耳と鼻と口を塞いでいてくれ」
「死ぬよな? それ!」
シルヴィアは、二人のやりとりを目を丸くして見ていたが、楽しく仲の良さそうなやりとりに朗らかにころころと笑い出した。
「ふふふ、ザムエル様ったら……。ご兄弟の仲がよろしいのね?」
「ああ。ふざけた兄ですまない」
「ふざけてんのはお前だろ!」
「クスクス。ザムエル様のお兄様、初めまして、シルヴィアと申します」
シルヴィアのその言葉で、兄弟の楽しいやりとりは休戦となる。
ホテル内にあるブティックの店員を呼び寄せてシルヴィアに似合うよう全身コーディネートさせた。
メイクを施され、清楚なレディになったシルヴィアに何度目かのひとめぼれをしたザムエルは鼻の下がのびっぱなしだ。
「シルヴィア……。綺麗だ」
「まあ、ザムエル様ったら……。恥ずかしいですわ。変じゃありません?」
「この世の誰よりも美しい」
ザムエルは、シルヴィアの細い腰に大きな手を当ててじっと見下ろす。褒めちぎられて頬を染めるシルヴィアの、桃色に塗られた柔らかそうな唇がぷるんと彼を誘う。そっとザムエルがキスをしようと顔を近づけた。
「あのな、いちゃいちゃは後にしてくれ。シルヴィア嬢、改めまして。ドミニク・ヴァインベルクだ。王宮騎士団の副団長をまかされている。俺たちの父の事は知っているかな?」
「はい、お父様は全ての騎士団を束ねる素晴らしい方だとか。お兄様のご高名もかねがね……。ザムエル様のお兄様にお会いできて光栄です」
「お義兄さまと言ってくれてもいいぞ? ザムエルから聞いた。我がヴァインベルク家は君を歓迎する。この女っ気ひとつなかった弟の妻になってくれるなんて……。頼りない所もある弟だがどうか末永く側にいてやってほしい」
「頼りないだなんて。ザムエル様はとても素敵な、素晴らしい紳士です。こちらこそ、よろしくお願いいたします、お義兄様」
「おー、うちには母と俺の妻以外、女性がいないからこそばゆいな! きっと両親も妻も君を可愛がるぞ」
「まあ……、嬉しいですわ」
頬に手を当てて照れながら微笑むシルヴィアの体がすっぽりとザムエルに抱き留められた。
「兄上、あまりシルヴィアを見ないでくれ」
「なんと……。女に見向きもしなかった奴がえらい変わりようだ。ははは、安心したよ!」
──くそっ! きっと〈隷属〉の制約のためにシモンとかいうクソガキの事も言えなかったに違いない……。婚約者であるシルヴィアは侯爵家に連れ去られてしまうだろう。…………こうなったら、俺が彼女を守り切って見せる。今更、俺の嫁を奪い返されてたまるか!
俺は兄に言っても差しさわりのない内容だけを説明しながらも逃亡ルートや方法、行く先を綿密に計画立てていた。
兄は呆れつつも、彼女の命を守るための緊急措置だったという事もあり小言を言われただけですんだ。
「ふむ……。事情は分かった。言いたい事、聞きたい事は山のようにあるが……。とりあえずお前の家に行くぞ!」
兄が家に一緒に来てしまえばシルヴィアと逃亡できないではないか。
「俺が、責任をもって連れて来るから兄上はここで待っててくれ……」
「ダメだ。お前、まだ隠している事があるな? 最近、お前に女が出来たって専らの噂だったが、恐らくは彼女がその人だろう? ややこしい事情があるだろうが、独身のまま枯れていく予定だった弟に彼女が出来たなんて。なあに、うちの嫁になる子だ。あのな、うちだってカミンスキ侯爵家に負けないくらいの家柄なんだぞ? 父上も母上も、なんとかしてくれるって!」
──くそ、体力自慢の騎士のくせに、こういう時は勘がするどすぎる。だが、俺とシルヴィアを守ってくれるというのか? 下手をすればカミンスキ侯爵家と全面的に敵対関係になるというのに。
「……だって、婚約者って……。カミンスキ侯爵は代々、国の重鎮だし……。俺たちのために家を巻き込めない」
「詳しい話は関係者が揃ってからだ。恐らくお前の心配するような事態にはならないさ。あのな、そのまま二人で逃げようとか企んでいるのが見え見えだ。いいか、早まるなよ? お兄さまたちが、ちゃあんと、お前の望むようにしてやるから。たまには家族を信用しろ!」
「……分かった」
「あーもう、公私混同も甚だしいが仕方あるまい。ほら、さっさと行くぞー」
俺よりも一回りも大柄な兄に引っ張られるように家に向かった。
※※※※
「ザムエル様、おかえりなさいませ!」
シルヴィアが、俺の帰りを笑顔で出迎えてくれる。小走りにくる俺のシャツ一枚の裾が跳ねあがり、白く細い太ももが半分以上見えた。揺れる胸はぽわんぽわんと跳ねて今すぐむしゃむりつきたくなる。
「ぐあああ!」
俺は、後ろにいた兄の存在を思い出し、〈緊縛〉のスキルをかけた。悲鳴をあげて床に寝そべった所を蹴りあげて廊下に出す。一瞬でも、誰をも魅了する色っぽい彼女の姿を見ただろうか? もしそうなら目玉をえぐりとって記憶を消去しないといけない。
「ザムエル様? 先ほどの方はどなた?」
「ああ、単なるどこにでもいる兄だ。シルヴィアのその姿を見せるわけにはいかないからな。不埒な男は追い出したから安心してくれ」
「え? え? お兄様ですか?」
「ああ、忘れて良いぞ」
「良くないよな! なんて弟だ! いきなりこんな仕打ちをするなんて、兄は悲しいぞ!」
「まあ、ザムエル様。あの……、お兄様が……」
「気にしなくていい。それよりも、シルヴィア大変な事になったんだ」
「気にしてくれ! お前なあ! 兄にこんな仕打ちをするなんて、彼女が呆れてフラれちまっても知らねーぞ!」
「……ちっ。取り敢えず〈緊縛〉を解くから、シルヴィアの準備が出来るまで目を閉じて耳と鼻と口を塞いでいてくれ」
「死ぬよな? それ!」
シルヴィアは、二人のやりとりを目を丸くして見ていたが、楽しく仲の良さそうなやりとりに朗らかにころころと笑い出した。
「ふふふ、ザムエル様ったら……。ご兄弟の仲がよろしいのね?」
「ああ。ふざけた兄ですまない」
「ふざけてんのはお前だろ!」
「クスクス。ザムエル様のお兄様、初めまして、シルヴィアと申します」
シルヴィアのその言葉で、兄弟の楽しいやりとりは休戦となる。
ホテル内にあるブティックの店員を呼び寄せてシルヴィアに似合うよう全身コーディネートさせた。
メイクを施され、清楚なレディになったシルヴィアに何度目かのひとめぼれをしたザムエルは鼻の下がのびっぱなしだ。
「シルヴィア……。綺麗だ」
「まあ、ザムエル様ったら……。恥ずかしいですわ。変じゃありません?」
「この世の誰よりも美しい」
ザムエルは、シルヴィアの細い腰に大きな手を当ててじっと見下ろす。褒めちぎられて頬を染めるシルヴィアの、桃色に塗られた柔らかそうな唇がぷるんと彼を誘う。そっとザムエルがキスをしようと顔を近づけた。
「あのな、いちゃいちゃは後にしてくれ。シルヴィア嬢、改めまして。ドミニク・ヴァインベルクだ。王宮騎士団の副団長をまかされている。俺たちの父の事は知っているかな?」
「はい、お父様は全ての騎士団を束ねる素晴らしい方だとか。お兄様のご高名もかねがね……。ザムエル様のお兄様にお会いできて光栄です」
「お義兄さまと言ってくれてもいいぞ? ザムエルから聞いた。我がヴァインベルク家は君を歓迎する。この女っ気ひとつなかった弟の妻になってくれるなんて……。頼りない所もある弟だがどうか末永く側にいてやってほしい」
「頼りないだなんて。ザムエル様はとても素敵な、素晴らしい紳士です。こちらこそ、よろしくお願いいたします、お義兄様」
「おー、うちには母と俺の妻以外、女性がいないからこそばゆいな! きっと両親も妻も君を可愛がるぞ」
「まあ……、嬉しいですわ」
頬に手を当てて照れながら微笑むシルヴィアの体がすっぽりとザムエルに抱き留められた。
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