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解かれた〈隷属〉
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「精神異常をきたすかもしれんが……、過去の犯罪を全て洗いざらい吐く前に死んでもいいと団長から許可は得ている。やれ」
すると、騎士の一人が伯爵のあごを掴み、その目をじっと見出した。瞬く間に伯爵、いやスコルピオンの表情が抜け落ち、目が澱み生気を失った。スキルの内容はわからないが、おそらくは洗脳などといった精神支配系のものだろう。
伯爵夫人は、夫の無事を思い祈るように目を閉じた。
「質問に答えよ。伯爵夫人とシルヴィア嬢にかけたスキルとその内容についてだ。また、現在他にスキルをかけているものはいないのか」
「俺は同時に二人しかスキルを掛ける事ができない。だから、〈隷属〉で支配しているのは伯爵夫人とシルヴィアだけだ。俺に対する絶対服従と、俺に関する全ての事項と、夫人には俺を伯爵本人として公私ともに扱う事、シルヴィアにはスキルで俺の望む全てを作り出す事と、侯爵家に入り乗っ取るために協力する事を命じた。また、他者への秘匿義務を課し、破れば心臓が痛みだし死に至るという制約と誓約を結んだ……」
「そんな事だろうと思っていたが、なんと悪辣な……。で、それは夫人と令嬢に対する誓約と制約だろう? どんな契約も一方だけという事はありえない。お前に対するそれはなんだ?」
「忌々しいが夫人の弱点である伯爵の命の保障と、死を覚悟して二人、もしくは一人が俺の秘密を他者に喋った時、即時に俺の命が奪われるというものだ……。だが、人間は自らが可愛い。痛みにも弱いし死を恐れるからな。絶対にそのような事にはならない」
「……」
口を閉ざしながら二人の会話を聞いていた面々が悲痛な表情をし、伯爵夫人とシルヴィア、そしてスコルピオンを順に見つめる。
「では、事の発端である、シルヴィア嬢が平民である女性との子であり母子で伯爵を脅したなどといった事実はあるのか?」
「ない。そもそもシルヴィアの母は平民ではないからな。没落したとはいえ貴族だった美しい彼女と伯爵の子だ。伯爵はシルヴィアの母と愛し合い、彼女は身を引いて出て行った。俺は、俺に見向きもしない彼女を手に入れた伯爵を憎んだ……。伯爵に三人めの子が産まれてから、奴を監禁して伯爵夫人に〈隷属〉をかけて支配し伯爵家を乗っ取った。顔かたちは、俺の仲間である男のスキルで伯爵そっくりに変えたから周囲に気取られる事はなかった。ただ、その頃には愛する彼女はすでにシルヴィアを産み落とし亡くなった後だった……。俺は彼女を死に至らしめたシルヴィアを引き取り一生〈隷属〉で支配し苦しめたかった」
伯爵夫人が顔を青ざめて手で覆う。シルヴィアもまた、ザムエルの腕の中で、全身を小刻みに震えさせた。
「伯爵の居場所は? 無事なのか?」
「伯爵邸の地下室にいる……。くくく、生活の最低限の世話は、仲間にきちんとさせているさ。ただ、逃げられないように足の骨を粉々に折ってやったがな」
伯爵夫人の体がソファに沈んだ。白い肌が一層青白くなっている。呼吸も浅く意識がないようだ。
「お母様、しっかりなさって!」
「夫人を丁重に別室で休ませ医者の手配を。そして、伯爵邸に監禁されている本物の伯爵を救出せよ」
「はっ!」
「ほかにも余罪がある。なるべく殺さず吐かせろ。だが、その前に……」
ドミニクは、ぎっと殺気を込めて、生ける屍のようになっているスコルピオンを睨みつけた。
「二人の〈隷属〉を解け」
スコルピオンは、ドミニクの命令のままスキルを解除した。ここに至るまでどれほどの年月を要し、様々な人々を傷つけもてあそんできたのか。
すっと胸の痛みがなくなり、シルヴィアは父だと思っていた男を見ていた。心の中がまるで嵐のように荒れ狂う。
こうしてザムエルが抱き留めていなければ目の前で床に膝をつく男に何をしたかわからないほど憎しみと悲しみで支配されたのであった。
「シルヴィア……、大丈夫か?」
愛しい人の声がする。シルヴィアは彼の腕の中、他の存在などいないかのように、彼だけで自分の全てを埋めるようにぎゅっと抱き着いた。そうすれば、あの男や他の色んな事を考えずにすむ。
「ザムエル様、いままで胸の奥で、蛇のように絡みついていたかのような感覚がなくなりました」
「ああ、君の体にあった〈呪い〉も〈隷属〉も完全に無くなっているな。良かった。よく、今まで頑張ったな」
「ザムエル様……」
涙が溢れてザムエルの胸を濡らす。幼子のように彼に撫でられて力を抜いた。
「スコルピオンに関しては、今後騎士団預かりとなる。取り調べの後、命があれば然るべき処罰になるであろう」
ドミニクがそう言うと、糸の切れた操り人形のように、伯爵になりすましていた男──スコルピオンが床に崩れ落ちたのであった。
すると、騎士の一人が伯爵のあごを掴み、その目をじっと見出した。瞬く間に伯爵、いやスコルピオンの表情が抜け落ち、目が澱み生気を失った。スキルの内容はわからないが、おそらくは洗脳などといった精神支配系のものだろう。
伯爵夫人は、夫の無事を思い祈るように目を閉じた。
「質問に答えよ。伯爵夫人とシルヴィア嬢にかけたスキルとその内容についてだ。また、現在他にスキルをかけているものはいないのか」
「俺は同時に二人しかスキルを掛ける事ができない。だから、〈隷属〉で支配しているのは伯爵夫人とシルヴィアだけだ。俺に対する絶対服従と、俺に関する全ての事項と、夫人には俺を伯爵本人として公私ともに扱う事、シルヴィアにはスキルで俺の望む全てを作り出す事と、侯爵家に入り乗っ取るために協力する事を命じた。また、他者への秘匿義務を課し、破れば心臓が痛みだし死に至るという制約と誓約を結んだ……」
「そんな事だろうと思っていたが、なんと悪辣な……。で、それは夫人と令嬢に対する誓約と制約だろう? どんな契約も一方だけという事はありえない。お前に対するそれはなんだ?」
「忌々しいが夫人の弱点である伯爵の命の保障と、死を覚悟して二人、もしくは一人が俺の秘密を他者に喋った時、即時に俺の命が奪われるというものだ……。だが、人間は自らが可愛い。痛みにも弱いし死を恐れるからな。絶対にそのような事にはならない」
「……」
口を閉ざしながら二人の会話を聞いていた面々が悲痛な表情をし、伯爵夫人とシルヴィア、そしてスコルピオンを順に見つめる。
「では、事の発端である、シルヴィア嬢が平民である女性との子であり母子で伯爵を脅したなどといった事実はあるのか?」
「ない。そもそもシルヴィアの母は平民ではないからな。没落したとはいえ貴族だった美しい彼女と伯爵の子だ。伯爵はシルヴィアの母と愛し合い、彼女は身を引いて出て行った。俺は、俺に見向きもしない彼女を手に入れた伯爵を憎んだ……。伯爵に三人めの子が産まれてから、奴を監禁して伯爵夫人に〈隷属〉をかけて支配し伯爵家を乗っ取った。顔かたちは、俺の仲間である男のスキルで伯爵そっくりに変えたから周囲に気取られる事はなかった。ただ、その頃には愛する彼女はすでにシルヴィアを産み落とし亡くなった後だった……。俺は彼女を死に至らしめたシルヴィアを引き取り一生〈隷属〉で支配し苦しめたかった」
伯爵夫人が顔を青ざめて手で覆う。シルヴィアもまた、ザムエルの腕の中で、全身を小刻みに震えさせた。
「伯爵の居場所は? 無事なのか?」
「伯爵邸の地下室にいる……。くくく、生活の最低限の世話は、仲間にきちんとさせているさ。ただ、逃げられないように足の骨を粉々に折ってやったがな」
伯爵夫人の体がソファに沈んだ。白い肌が一層青白くなっている。呼吸も浅く意識がないようだ。
「お母様、しっかりなさって!」
「夫人を丁重に別室で休ませ医者の手配を。そして、伯爵邸に監禁されている本物の伯爵を救出せよ」
「はっ!」
「ほかにも余罪がある。なるべく殺さず吐かせろ。だが、その前に……」
ドミニクは、ぎっと殺気を込めて、生ける屍のようになっているスコルピオンを睨みつけた。
「二人の〈隷属〉を解け」
スコルピオンは、ドミニクの命令のままスキルを解除した。ここに至るまでどれほどの年月を要し、様々な人々を傷つけもてあそんできたのか。
すっと胸の痛みがなくなり、シルヴィアは父だと思っていた男を見ていた。心の中がまるで嵐のように荒れ狂う。
こうしてザムエルが抱き留めていなければ目の前で床に膝をつく男に何をしたかわからないほど憎しみと悲しみで支配されたのであった。
「シルヴィア……、大丈夫か?」
愛しい人の声がする。シルヴィアは彼の腕の中、他の存在などいないかのように、彼だけで自分の全てを埋めるようにぎゅっと抱き着いた。そうすれば、あの男や他の色んな事を考えずにすむ。
「ザムエル様、いままで胸の奥で、蛇のように絡みついていたかのような感覚がなくなりました」
「ああ、君の体にあった〈呪い〉も〈隷属〉も完全に無くなっているな。良かった。よく、今まで頑張ったな」
「ザムエル様……」
涙が溢れてザムエルの胸を濡らす。幼子のように彼に撫でられて力を抜いた。
「スコルピオンに関しては、今後騎士団預かりとなる。取り調べの後、命があれば然るべき処罰になるであろう」
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