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判明した二つのスキル

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 彼女をカバンに入れて周囲から隠し、カバンを大事に揺らさないよう運ぶ。

 昨日張り込んでいたターゲットは、違う部署のいけすかない奴が捕まえたらしい。英雄気取りで笑うイケメンのそいつは、相変わらずモテモテで女性に朝っぱらから囲まれていた。

「よう、ザムエル。昨日は残念だったな。今回の手柄は俺が貰っちまって悪かったなあ」

 ニヤニヤする顔と、俺を出し抜けたと鼻高々な態度にいらっとくる。
  だが、今日の俺はいつもより気持ちが上向きだ。そいつの事を考えるよりも、朝食の時に洋服を作るため彼女のサイズを聞いたとき、真っ赤になった彼女が愛らしかったと思い出してしまい、幸せを感じてにやけてしまうのを堪える。

「ああ、お前が捕まえたんだってな。〈爆裂のマルチン〉一級テロリストの逮捕、おめでとう」
「お? なんだか機嫌がいいな? お前どうしたっていうんだよ」
「普段通りだが? それより仕事が立て込んでいるんだ。これで失礼する」

 今日は早く執務室兼研究室にいきたいので常ならそいつと嫌味の応酬をするのだが、それだけ言うと足早に立ち去った。

 執務室は俺一人で自由に使える空間だ。他者がここに入るには俺の許可が絶対にいる。カバンにいてもらった彼女をそっと机に下ろした。


「シルヴィア嬢、移動中大丈夫だったか?  気分は?」
「はい、ザムエル様がずっとお守り下さったお陰でこの通り元気です」

  かなり揺れたはずなのに笑顔でそう言う彼女がいじらしくてまたもや心臓が跳ねた。


「そうか、じゃあ、目を閉じてリラックスして……」
「はい」

  机の上に、持ってきたフィギュア用の応接セットを並べた。
  ちょこんとソファに座る彼女がかわいすぎる。

  スキルを探るために手をかざす俺を見上げるように向き目を閉じるまつげは影を作るほど長い。小さな鼻が愛らしくちょこんと乗っていて、ピンクの唇はほんの少し開いている。

─キスをせがんでいるようだ。って何を考えている!

 すーはーすーはー

  呼吸をゆっくりして気を落ち着かせる。彼女の全身をくまなく調べると、一つは信じられない事に〈隷属〉だった。より強固に従わせるために誓約と制約がなされているようで厄介そうだ。

  おそらく、このスキルのせいで彼女は何も言えなかったのだろう。これはかけた本人に解かせるのがベストだが。

──波動が彼女に近しいな。これを掛けたのは身内か?

 やはり家名すら言いたがらない、というより言えないのか、どうしたものか途方にくれる……

 もう一つは〈呪い〉か。たしかどこかの貴族がこれを代々受け継いでいたが、まさかそこの関係者か?

  〈呪い〉は、おどろおどろしい名前のスキルだが、これはお粗末なもので初めて幼児が使ったレベルだ。しばらくすれば自然に解除されそうだ。
  無理やり解くより時を待つほうがいいだろう。

「シルヴィア嬢、一つは自然に解ける。おそらく人形のように小さくするだけで、かけ方もお粗末だからその姿も数日で元に戻ると思われる」

「本当ですか?  よかった!」

  彼女の喜ぶ笑みに微笑み返す。

 ──少々残念だ。このまま小さければ、俺と離れられないままなのに。
といっても、小さな姿のままがいいとは思ってないぞ?

「ただ、俺の見立てが間違いなければもう一つは〈隷属〉か?  これは相手の命令以外の事項に関しては害はないが、解くには本人によるスキル解除が必要かもしれない。他者が無理にしようとすると君の体と命が危ないように術式が細かく肉体に絡み付いている」
「誓約と制約ですね……」
「相手を教えてくれないか?俺が解くように伝えて解かせてみせる。そもそもこれは犯罪行為だ」
「言えません……」
「ああ、この件に関してはどんな些細な事も打ち明けようとする事自体が危ないのか? ならば無理に言わなくていい。だが、かけたのは身内だろう?」

  かたくなに言わないが、最後の質問に体がびくりと揺れた。やはり推測は正しいようだ。
  おそらくは両親のどちらかにかけられたのだろう。複雑そうな彼女の感情や境遇を思うと、気の毒で胸がまた変になる。

「とりあえず、呪いの解除ができるならそれで十分ですわ。そうなったらいつまでもご迷惑をおかけするわけにはまいりませんし、出ていきますね」
「え……」
「いつまでもご厄介になるわけには……。体さえ元に戻れば、なんとかなります」
「あてはあるのか?」
「いいえ……」
「なら、なら……。俺のところで暮らせばいい」
「え?」

  彼女が出ていくと言った時に、心臓がこれまでよりも、誰かに握られたかのように痛んだ。

──どこにも、行かないで欲しい。

「ずっと、俺の家にいるといい」

  驚愕で目を見開く彼女を見つめながら、そっと彼女を抱き寄せるように両手で彼女を持ち上げたのだった。

 
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