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月光の中で眠る貴方に触れたくて※R15~

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 わたくしにかけられたスキルを見事に解明されたザムエル様は、特に〈隷属〉についてなんとか解除出来るように、毎日、仕事の合間に物凄い時間と労力をかけて調べてくださっているようだ。
 一人、大きな部屋で彼の帰りを待つ。小さな体でなくても寂しく感じただろう。


※※※※


 もう一か月ほど前になる。〈呪い〉が自然に解けると聞いた時、嬉しさと、寂しさが同時に生じた。大きな姿に戻れる喜びと、そうなれば彼の側にいられないという悲しみ。
 けれど、大きくなっても側にいてくれと、両手にそっと宝物のようにまるで抱きしめてくれているような彼のまなざしと温もりで涙が溢れた。

「シルヴィア嬢、泣かないでくれ。そうだよな……。俺みたいな恐ろしい男とずっといるなんて嫌だろう……」
「ち、違います……! 恐ろしいなんて思った事ありません。ザムエル様はとても優しいし、カッコいいし、素敵な方です……」
「は? え? いや、俺はカッコいいなど言われた事……」

 どうしてだか、モテモテだろうにご自分を卑下する彼。でも、ご自分の事よりも先ずわたくしの事を考えてくれているのがわかる。

「側に、わたくしなんかがいていいわけないんです……」
「シルヴィア嬢、貴方は素晴らしい女性だ。その、俺は一人暮らしだし、君が行くあてがないのなら、部屋も余っているし……その。君さえ良かったら一緒に暮らしてくれないか? そ、そうだ。君が家事をしたり出迎えてくれたりしてくれると嬉しい」

──ああ、お一人暮らしで不便だったのね……

 彼の言葉に勝手に舞い上がったあと、彼の望みがわかりがっかりして勝手に悲しみにくれてしまった。

「ザムエル様! ありがとうございます。家政婦としてきちんと勤めを果たします!」
「え? いや、家政婦じゃなくて、だな……」

 彼の返事はよく聞こえなかった。家政婦としてでもいいから側にいられるのならいいじゃないと、気持ちを取り戻してにっこり仕事を頑張ろうと意気込んだ。



 体は小さいままだから彼の望む家事ができない。もっぱら彼が全てをしている。彼の動きは伯爵家にいたメイド以上に手際がよく完璧だ。

──家政婦なんていらないでしょうに……。行くあてのないわたくしが気を使わないようにあんな風に仰ってくださったのだわ。

 ますます彼に惹かれていく気持ちを自覚した。

 体のサイズを聞かれた時は恥ずかしかった。〈創造〉で作り出せるのに、彼があんまりにも優しくわたくしの洋服を手づから準備してくれるというので、スリーサイズを暴露した。

「そうか。すぐに数着取り揃えてあげよう。その、頭とか、腕など計りたいのだが触れてもいいか?」
「は、はい」

  メジャーで頭から爪先に至るまで彼が大きな指で計っていく。
  大きく戻った時も計ってわたくしに触れてくれないかな?  なんて、はしたない事を思った。

  さわさわとくすぐるように指が動き、時々ぞわりと変な、初めて経験する感覚が体を走る。

  サイズを計られたあと、真っ赤になっただろう熱い顔を手で覆う

「あ、計測に夢中になってしまい……触れすぎたか。その、す、すまない!」
「いいえ……あの、洋服が出来るのを楽しみにしています」
「ああ。どんな形や色がいいか、色々サンプルを見せるから教えてくれ」

  お互いに照れながら言い合う時間が、居心地が少し悪くて、でも、もっと続いて欲しい

  彼が、プライベートルームに入れてくれた。そこには、学生時代から集めているというコレクションがたくさんあった。

「これから君も住むから言うが……。その、フィギュアの収集が趣味なんだ。この趣味が役に立つ日が来るとは思わなかった」
「まあ、なんて見事な……とても素晴らしいフィギュアたちですわ。とても大切になさっているのがわかります」
「大の男が恥ずかしいだろう?」
「いいえ、恥ずかしいなどとは思いませんわ。弟もフィギュアが大好きなんです。一緒によく遊んだんですよ?」
「そうなのか?」
「はい。あ、あの右上のフィギュア、弟が欲しがっているシリーズのものです。とても希少ですごく高いからってなかなか集められなくてしょんぼりしていて……」
「そうか、あれは今は亡き名人の作でコレクターが血眼になって探しているんだ」
「まあ、そんな貴重なものだったんですね……わたくしと妹は知らなかったからお人形さん遊びのように触ってしまっていたんです。弟が乱暴に扱わないでと怒って……ふふふ」

  二人と仲良く遊んだ日々を思い出して話す。

「あ、わたくしったら……こんな話、つまらないですよね」
「いや、仲の良い弟妹だったんだね」
「はい、とても優しくって自慢の二人なんです」

  彼と過ごす時間は、今までには考えられないほど幸せで。

──ザムエル様、好きです……

 優しい彼に言えない言葉を、何度も何度も心の中で繰り返し伝えた。



※※※※




 今は彼のベッドにいる。ヘッドボードに備え付けられたベッドから降りて彼の枕元に立った。すやすやと眠る目にそっと触れる。

──優しい、強くて逞しくて。なんでもできて頼れる人。自分は全く女性に見向きもされないし、今は彼女がいないと言っていたけれどモテるだろう。だって、こんなに素敵な人、周りが放っておかないわ。いずれ、別れるその日が来るまで側にいていいかな?

 彼が愛しくて、赤い瞳で見つめられたいと願う。

 窓から明るい月光がさしこむ。今日は数十年に一度の月が大きく明るく月が一番大きく丸く輝く日だ。曇りだったが晴れたのだろうか。

 眩しいくらいの月光に包まれると、彼の顔がどんどん小さくなった。

 少し肌に痛みを感じたのは、小さな服が破れたからだろう。

「シルヴィアじょう……?」

 気配を察したのか、目を開けた彼と視線をあわせる。さらっとした自分の銀の髪が、上から彼の頬をくすぐる。

──え? わたくし、大きくなってる……?

「これは、俺の願望が見せた夢か……ああ、幸せだ。シルヴィア、愛している」
「……!」

 ぐっと体を彼に引き寄せられる。シーツ一枚で隔てられた体を、彼に乗り上げるような形で逞しい腕に抱かれた。
  自分の体が小さく思えるほど
 ぐっと盛り上がった胸元は硬いけれど、ほどよく柔らかさもある。がっしりした硬い腕はまるで彼が作る鉄格子のようだ。

 むせ返るような男としての彼の香りにくらくらしてしまう。

 初めて男性に抱き締められ身がこわばるけれど、少し肌が寒く感じて温いかれの肌を感じるように胸に頬を当てそっと目を閉じた。

  力が抜けたとき、頭と剥き出しの背中を優しく撫でられる。

「シルヴィア……、俺とずっといてくれ……。好きだ……、愛している」

 寝ぼけている彼の言葉は、嘘か幻か本心か。

──そんなことはどうでもいい


「ザムエル様……好き……。わたくしもお慕いしております……」

 ぎゅっと下から抱き締められる。苦しいくらいの力。囲まれて身動きがとれない。いや、このまま捕えていて欲しい。

  背中の大きな手が腰に来た時、よりいっそう腕に力が込められた。

 お腹に硬いものが当てられ、ぐいぐいそれをわたくしに知らしめるようにつき出される。

──これが男のかたの……

 大きな彼に見合った、逞しく硬く大きなそれの正体を悟ると全身に火がついたみたいに、かっと熱くなった。恥ずかしくていたたまれなくなる。
 それ以上に、わたくしを求めてくれているのが嬉しくて……

 うっとり彼の体というベッドに、心ごと体を預けた。
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