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ラッテ視点 ※におわせ程度です

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少し時系列が戻ります。





「ねえ、そろそろ行かないと、アイツとの時間に遅刻しちゃう」

「……待たせておけよ。計画のためとはいえ、お前を別の男とデートさせるなんてなぁ」

「ん……。でも、やろうって言い出したのはあなたなんだから」

 私は、恋人とベッドで汗ばんでいた。今日は、先日ひっかけた貴族のぼっちゃんとのデートだ。待ち合わせの時間まであと5分の時点で、ふらりと彼がやってきて、そのまま押し倒された。愛するこの人といたくて、口では拒みながらも彼のなすがまま快楽にふけっているため、とっくに待ち合わせの時間は過ぎている。

「ああ、おかげで店の売り上げNo1になった。ククク。お前に商品も全部わたっているし、大儲けさ! これで、俺はあと少しで、業界や顧客からの信頼と自分の店を持てる資金を手に入れる事ができる」

「ふふふ、おめでとうエスプレッツ。私もあなたの夢がかなって嬉しいわ」

「ところで、あんなダサイ根暗そうなやつの腕を組まなくてもいいだろ? お前がにっこり微笑めば財布と顔がいくらでも緩むチョロいやつなんだから。お前が誰のモンか体で覚えておけ」

「ひょっとして、ヤキモチ? なんかちょっと嬉しいな」

「ばーか。あとはウェディングドレス一式、店が公爵令嬢の婚約のために揃えた一大事業だったんだが、アホ王子の婚約破棄のせいでおじゃんになって、返品になったあれを売りつけさえすれば……俺は隣国の支店第一号の支配人として抜擢される。なんせ、いくばくかの金は貰ったらしいが、ケチがついたドレスだ。店に出して売ろうとしても、縁起が悪いから誰にも売れねぇ……王族の式で着るという宣伝も潰えて、支配人も頭を抱えているからなー」

「ドレスには罪はないのにね。でも、アイツ、そんなお金あるのかな? 半額セール品になったとはいえ、ちょっとした領地の半年分の予算くらいなんでしょ?」

「ローンくませりゃいいだろ。今んとこ、アクセサリーをいくつも現金でぽんっと支払ってるんだ。なんせ貴族なんだぜ? 遊んでいても金は腐るほどあるに決まってる」

「んー、アイツは遊んでなさそうだけどねー」

「お前、別の男の事を心配してんのか? まさか……」

「ふふふ、そんなのありえないわよぉ。私はエスプレッツだけ」

「ラッテ、次の計画が終わったらアイツとは縁を切るぞ」

「うん。もう、あんな不細工でつまらない大男なんて、あなたと勝負になるわけないじゃない。パソコンの話ばっかりでつまんないし、オタクってキモい……。それに、私の前で幼馴染だかなんだか知らないけれど、女の話するなんてマナー違反もいいところ。あんなやつ、今まで恋人がいないのも当たり前よ。あなたのためじゃなかったら、あんなのと会うのも嫌。ああ、やっと会わなくてすむのねー、ふふふ」

「あと数時間、我慢してくれ。それが終わったら、計画通りに隣国で結婚しよう」

「嬉しい……私、幸せ……」

 もう一度、愛し合ってから、私は待ち合わせの場所に急いだ。事後のせいか、体が火照っている。頬の赤みと気だるさで、まさか帰るなんて言い出すなんて冗談じゃないわ。

 いつも通り、店に行き、彼を呼んでもらう。さっきまで一緒にいたから、今日は休みだ。だけど、私の担当である彼でないと困る。私は別にこの店のスタッフでもなんでもない。デザイナーの卵ですらないから、他のスタッフだとボロが出る。一応、アイツに今まで貢がせたから上客扱いだ。
 お貴族様が通される部屋は、流石に案内されなかったけど、そこそこいい部屋で歓待を受けた。彼のライバルが話をしたがってきたけど、不味い事を言われたら敵わない。

 さっさと追い出したら追い出したで、コイツとふたりっきりになる。手を繋ごうとしてくるから鳥肌がたつ。どうしたものか困っていると、彼が来てくれた。ほんっと、比べものにならないくらい素敵。私たちは視線を絡み合わせる。さっきまでの事を思い出して、体がまた熱くなったけど、今はがまんがまん。

 彼がうまくおぼっちゃんを煽り、ローンの契約書にサインさせた。購入したものは、全て私のところにくる。

「嬉しい。これで、このウエディングドレスを着てと結婚できるのね……夢みたい」

「ああ、ほとんど出来上がっているからサイズ直しだけのようだし、来年には俺たち結婚できるね」

 俺たちじゃあないわ。、よ。騙されているとも知らないで、嬉しそうにしている男が滑稽すぎて笑うのを堪えるために体が震えてしまう。感動していると勘違いされて抱き着かれそうになったけど、すっと立ち上がった。

「ふふふ、私、早くお父様とお母様に報告しないと」

 私には両親なんていない。単なる孤児だ。コイツには男爵令嬢だって言ったけど、没落したっていう男爵家を名乗っている。なんか、勝手に貴族を名乗ったらバレたら捕まるらしいけど、みんなやってる。バレるへまなんてしないわ。

「ああ、そうだね。そろそろ、お互いの両親に挨拶をすませて色々準備していかないとね」

「ええ。ふふふ、楽しみだわ」

 ほんっと、楽しみ。愛しい彼と、豪華なドレスを着て式を挙げるのが。

 その後、デートをしたがるのを振り切って、彼と住むアパートに戻った。まだ早い。クーリングオフ期間が過ぎるまであと8日。
 それさえずぎれば、アイツは返品などが出来ない。

 一応、別れの手紙はきちんとしなきゃいけない。ちょっとした出費だけど、待ちに待った日、代筆屋に頼んだ別れの手紙をアイツに出した。

 私は、彼と一緒に行きたかったけど、勘づいたアイツが動きだしてアシがついたら不味い。一足先に、彼が支配人に内定されている店がある隣国の町に引っ越ししたのだった。

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