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幼馴染み ※まだ序の口のにおわせですがタグ注意です!

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温かい……ふかふかな場所で、体を撫でてくれるとても優しい小さな手。俺はその手の持ち主を知っていた。そう、よく知っていたんだ……。

 ゆらゆらゆらゆら

 温かい心地の良い場所。どんどん深みにはまっていくけれど、なんだかとても安心できる。俺は何かに誘われるがまま、に向かっていった。

 すると、体が小さくなったからか、何故か俺は小さな頃に戻っていた。





「はい、これあげる」

 クラスで一番かわいい女の子。とっても不器用だけど、素直すぎて皆から反応がかわいいからいじられている。ちょっとしたドジなところも、マスコットのように可愛がられていて、男達は彼女の事を好きな子いじめみたいにいじっていた。

 俺は、そんなやつらと一緒につるむのが嫌だった。何よりも自分の世界を崩されるのを嫌っていて、先生や母上たちを少し困らせていたと思う。

 そんな俺が、彼女の事はなぜか放っておけず、皆からからかわれて庭の角でしゃがんでいる彼女に、その辺にあったタンポポを引っこ抜いて差し出した。

「グスッグスッ…………あ、カプテーノくん」

 鼻水をすすって泣いている俺よりも小さな女の子は、俺が声をかけた途端泣き止もうとして顔を真っ赤にした。

「テーノでいい。そんなことよりも、これ」

 きょとんと、俺とタンポポを見比べる彼女の顔にひっつけるようにタンポポをずいっと突き出した。

「タンポポ……? きれい……ありがとう、テーノくん」

 泣いていたから、鼻の頭が真っ赤だ。目も赤くしたまま、女の子レーニアがにっこり俺に向かって微笑んだ。

「ん」

 なんとなく、おしりのあたりがもぞもぞしてしまって、そっぽを向いて返事にもならない返事をした。

 小さな頃は良かった。無口だし気が利かない俺は、周囲から浮いていた。けれど、彼女と一緒にいるのがあたりまえになり、遊ぶのになんら困る事はなかった。

 年々年を取る毎に、彼女は可愛く成長して、男達の人気者になった。そして、思春期を迎えた頃、彼女と仲のいい俺に、彼女から離れろと言う奴らが出て来たのである。

 女らしくなっていくレーニアの側にいるとドキドキして、まともに顔が見れなくなってしまったので、これ幸いと距離を置くようになった。クラスも違うため、これでくだらないやっかみを受ける事もなくなると思っていた。

 だけど、俺が離れようとしても、彼女は俺に近づいて来た。レーニアが側にいると、なんだかよくわからない感情になる。だけど、来てくれるのがとても嬉しかった。

 成績もどんどん伸びて、俺と同じクラスになった頃には、彼女は学年一のかわいい才女として皆から慕われるようになった。俺はなんだかそれが面白くなくて、自分から離れようとした。だけど、変な話しだが構って欲しくてわざと課題をやってこなかったりした。

 本当は、彼女と一緒に過ごしたかった。でも、彼女が俺を構えば構うほど、男達の嫉妬を買うようになった。裏庭に呼び出されて、腹パンをされたり、物品を台無しにされたり。
 俺は、成績はいいが、どちらかというと問題児の部類に入っていた。一方、相手は生徒会役員や、部活などで活躍していたり、高位貴族だったりしたから、どうせ信じてもらえないだろうと思い、誰にも言えずにいた。
 高等部に行けば、何かが変わるかと思っていた。思いもむなしく自体は好転する事はなく、彼女の言葉や態度はだんだんきつくなっていった。幼かった頃はあんなにも仲良しだったのに、自分から離れといて、もう好意すらないんだなって勝手に落ち込んだりもした。

 それでも、彼女は俺の事をいつもいつも気にかけてくれていたから、玉砕覚悟で卒業の時に想いを伝えようとした。いつ告白しようと悩んでいたら、彼女から呼び出された。

 書かれてあった卒業式の翌日に、指定された場所に行ってみた。すると、そこには彼女はいなかった。暗くなるまで待ったけど、帰宅後、すでに領地に行ったと母から聞き、彼女とは暫く会うことはなくなった。

 綺麗でかわいくて才女で優しいレーニアには、俺なんか相応しくないし脈なんてこれっぽちもないって、ずっと思っていた。だから失恋したショックで寝込んだけど、なんとか持ち直して大学に通う事ができた。

 久しぶりに、彼女の姿を家で見かけた時は、もう忘れたって安心しきっていたのが単なる思い込みだったとわかるほど、胸がドキドキして、悲しみや苦しさが蘇った。それ以上に、以前よりも大人の女性になった彼女にどぎまぎしてしまう。

 どうやら、彼女は領地の代行をするために、卒業と同時に王都を離れたらしい。そう言えば、母がそんな事を言っていたかもしれないけど、彼女の話を聞きたくなくて耳と心に蓋をしていたから覚えてなかった。

 幼馴染として関わりつつ、レーニアが来てくれるのが嬉しくて、なんだかんだで彼女の小言をムッとしつつも聞いていた。やっぱり好きな男にはもっとこう、違う態度なんじゃないのかと思いつつ、俺もいつまでも子供じゃないって言って立場を逆転させたくもあった。

 はっきり拒否されるのも嫌で、ずるずる彼女が来るたびにわざわざ小言をいわれに家に帰り、自分でも何やってんだろうって馬鹿馬鹿しくもなる。

 領地の代行の仕事をは順調のようで、領民にも慕われているらしい。そりゃそうだろう。彼女は誰からも好かれる。一生懸命だし、レーニアの側は居心地がいい。
 母が彼女の事はべた褒めで、さっさとお嫁さんにしなさいってせっつかされるが、すでにフラれている。はいはいってそんな母の戯言を流して、就職したSEの仕事に疲れていった。

 レーニアが、疲労困憊の俺を放っておけなくて、心配でガミガミ言うと、口元がほころび、また仕事を頑張る事ができたのである。

 だけどある日、俺にも恋人が出来た。かわいい素直なラッテの事を好きになったというよりも、恋人が出来た事に有頂天で、俺をフった忘れたくても忘れられなかった初恋のレーニアを見返したかった。

 恋人になったからには、ラッテを大切にした。会うたびにジュエリーを買う事になり、口では遠慮しつつもなんだかんだで嬉しそうに俺からそれらを受け取る彼女の態度に、ちょっとした違和感を感じていたのかもしれない。最後に彼女のデザインしたドレス一式のとんでもない巨額が書かれたローン契約書へのサイン欄に、なかなか記名しないからか、店員と彼女に言われて流されてしまった事が悔やまれる。

 ラッテの髪型も、顔も、もうほとんど思い出せない。二週間に一度はデートして彼女との楽しい時間を過ごしていたというのに。レーニアを忘れようとして、本当は好きでもなんでもない彼女を利用しようとしたのがバチが当たったのだろう。俺ってやつは最低だ。神は、そんな俺と別れられるように、ラッテに新しい人生を贈ったのだと思う。ラッテには幸せになって欲しい。

「ちぅ……ちぅ……」

「テーノが大好き。ずっと好きだったの。素直になれなくて、一度フラれたのに、まだ好きでごめんね。しつこくてごめんね……」

俺も好きだ。小さな頃からずっと好きだったんだ……

 夢が見せる、幸せな俺だけのレーニアの言葉。これが、本当だったらいいのに。あの時に彼女が待ち合わせの場所に来なかったからって、いじけず彼女の領地に追いかけて行ったらよかったと何度後悔した事か。

 何度かどうしても高ぶる自分のを慰める時には、いつだってレーニアを汚した。

 なぜか、涙を流しながら、ごめんね、ごめんねと繰り返す彼女に、俺も好きだ、と言ってみたくなった。

夢なんだからいいよな?

「ちー」

「ありがとう。幼馴染としてだよね。うん、わかってる。ラッテさんじゃなくてごめんね……」

「ちーち」

 違う。ラッテじゃない。あの子はもうとっくに俺に別れを告げて去って行ったんだ。どこにいるかもわからない。俺は、本当にお前のことが好きなんだ。

 夢の中なら、こんな風に好きだと叫ぶことだってできるのに……。レーニア、俺のレーニア。こんな俺を、見捨てずにいてくれてありがとう。幼馴染としてでいいから、俺と一緒にいて。







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