完結 R18 BADーふたりを隔てるウォレス線

にじくす まさしよ

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少しは、俺のことを意識してくれているのだろうか?

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 オシェアニィ国に着き、ダンパー伯爵の家に向かう途中、俺はアカネに自分の考えを伝えた。

「アカネ様、俺は、両親の残してくれた家を継ぎたいです。このままでは、両親も、そしてあにう……ドゥーアのご両親の気持ちも踏みにじることになりますから」
「そ、そうなのね」

 アカネのぎくしゃくした態度や、少し居心地の悪そうに腰をもぞもぞした姿も、とてもかわいいと思える。

 彼女がこんなおかしな態度になったのは、まぎれもなく俺のせいだ。船の上で、ふたりならんで夕方から夜に移り変わる船の上で、俺は彼女へ自分の想いを打ち明けていた。
 それを聞いた彼女の白い顔が、見る間に真っ赤になったのも、とても愛らしくて、今思い出しても口元がゆるむ。

(少しは、俺のことを意識してくれているのだろうか? だったらいいな)

 彼女は、もとの世界では、中の下ほどの容姿で、性格もこんなだからモテていなかったし、男と結婚するつもりもあまりなかったそうで、この世界でも、今後はひとりでのんびり過ごしたいとしか考えていなかったらしい。

 俺は、トッティの美しい容姿や立ち振る舞いだけでなく、アカネ自身に惹かれている。確かに、一目見てその美しさに視線がくぎ付けになった。だが、接するうちに今のアカネに恋をして、彼女がいなくなることが耐えられないほどの存在になった。例え、彼女がいうような容姿であったとしても、瞬く間に心を奪われただろう。

 そのことを伝えると、彼女は言葉を濁した。すぐに断らなくて助かったとも思ったし、すぐに受け入れて欲しいという、切望に似た焦燥感を抱いた。

 その後、俺はオシェアニィ国で数か月過ごした。その間も、彼女との仲はあまり発展しなかったが、側にいられるだけで幸せだった。
 思っていた予定と違ったのは、俺の待遇である。彼女の両親に、娘を窮地から救ってくれたことを感謝された。俺の出自や、あの手紙、そしてこれから俺がしたいことを知った彼らに、全面的に協力をするから安心してくれと申し出てくれたのである。

 ダンパー伯爵家は、2代前に王家の姫君が降嫁されており、かの国では一目を置かれている家柄である。また、王女の誹謗中傷から始まった今回の政略結婚で、とんでもない被害に遭ってしまったアカネへの贖罪の意味合いもあったようだ。
 アカネにとっては大変不名誉な、婚家での乱暴狼藉と逃亡、そして離婚申し立てについては、アカネを目の敵にしていた王女も同情した。それに、王女が手に入れたアカネに色目を使っていた男にすぐにあきて、今はもう別の男と再婚しているのもあり、全く悪いとは思ってなさそうな態度で過去の事を綿菓子のように軽ーく謝罪されても、アカネはあっけらかんと受け入れた。

 いろいろ思うところはあったが、結果的に、アカネは社交界で、悲劇のヒロインであり懐の大きな令嬢として、人々から温かく受け入れられた。

「ま、無責任な他人ってこんなもんよねー。どこの世界も一緒一緒。ふふふ、別の話題になれば、すぐに熱が冷めるでしょ。王様や王女様から、お詫びとして王家ゆかりの換金率の高い激レアな貴金属ももらえたし。やったね、ラッキー。何かあれば、これを売れば一生安泰よ。まだもうちょいぎゃふんと言わせたいけど、これでトッティさんの名誉も守られたし、一件落着ってことかな」と、もらった大きなゴールドの装飾品を眺めてにやにやしていた。

 彼女の両親や、クローザをはじめとした使用人は、そんな彼女を、無理しているのではと心配した。そして、彼女が動けないのなら、ちゃっかりものの王女や、ドゥーアに対して今すぐに報復してやろうとする彼らの怒りをおさめるのに、アカネが苦労したほどだった。

 クローザは、トッティがいなくなった元凶であるドゥーアに、この国から呪術を使おうとまでした。呪術と言っても、思春期の少年が適当に書いた本の見様見真似で効果はあるかどうかわからない。
 アカネはそんな彼女の、まじない程度のそれに、面白がって参加して変な呪文を一緒に「闇の力を司る全き存在よ。いまこそ、その御力を我と共に解き放ち、かの者に絶望と終焉を」などと唱えていた。

 俺はというと、アカネの両親に考えられない程の好待遇を受け、貴族としての基本的マナーや知識をしっかり教えて貰える場を設けてくれたのは、放置されて下働きとして育った俺にとって、生涯何にも代えられない財産になったと確信している。

 かくしてオシェアニィ国で、侯爵にふさわしい知識と立場を、伯爵家のバックアップのもと確立することができた。そして、そんな俺に、アイジィ国の陛下たちは全面的に協力を惜しまないと伝えてくれた。
 そもそも、アイジィ国の不祥事なのだから、こんなことが国外に知られたとなると、ぽっと出の俺をチョウツガイ侯爵として認めなければ対面を保てなかったのだろう。

 アカネの家や、オシェアニィ国から来た外交官、そしてアイジィ国の騎士たちと共に、いい思い出がほとんどない家に入るときには、冷や汗が出た。手と足が震えて、口が乾くのすらわからないほどいっぱいいっぱいになる心は、こちらに戻ってくる時にアカネがくれたお守りというラッキーアイテムを握りしめることで落ち着かせた。
 あらかじめ、ドゥーアは捕えられており、あとは残りかすのようなもの。兄と結婚したはずのラッチが、俺にもの言いたげにすり寄ってきたときには鳥肌が立った。アカネには、あんな風に言っていたのに、いざこうなると、ラッチはドゥーアを見放したのがわかり、恥というドレスに全身まみれた女の醜さに、アカネとは大違いだと心の底から思った。

 侯爵家の資産を持ち逃げしようとした執事長なども、無事にとらえられた。これでもう、この家を脅かす存在はなくなる。天にいる俺の両親は、褒めてくれるだろうか……。ドゥーアを結果的に追い詰めた俺を叱るかもしれない。

 考えてもしょうがない感傷が、時々俺を落ち込ませたが、そこから先はがむしゃらだった。侯爵として何もかもが知らない俺をフォローしてくれたのは、ダンパー伯爵家からついて来てくれた有能な執事だった。外国の執事が、この家を統括するわけにはいかなかったので、新たに執事長を雇った。
 この人物は、昔この家で働いていて、ドゥーアに苦言を呈していた信頼できる人物だ。その彼を疎んだドゥーアたちによって、家から追い出されてしまった経緯があった。俺が直接彼に頭を下げると、二つ返事で、これから起こるだろう苦労を引き受けてくれたのである。

 彼らと一緒に、身を粉にするほど仕事や社交に取り組んだ。そんな俺に、見合いの話が山のように届いたが、俺はそれらに見向きもしなかった。

 そして、3年。堂々と侯爵を名乗れるくらいまで地位を確立させた時に、俺は陛下にとあることを進言したのである。

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