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「お嬢様、18歳のお誕生、おめでとうございます」
「ファーリ、ありがとう。それに、料理長さんや、フットマンさんまで……。本当に嬉しいです」
「滅多に入らない、天然のブリが入ったので、本日のメインは、ブリのステーキでございます」
「美味しいです。まるで、お肉みたいに肉厚で、でも、ほくほくしてて食べやすいです」
料理長は、ファーリとずっと続いている。とっくに結婚していてもおかしくない。しかも、独立する準備はとっくに整っていた。だが、仕事を辞められないファーリが退職するまで待っている状態だ。
料理長や使用人たちは、昔ほど、フェルミに関わることがタブーではなくなった。とはいえ、隠居生活をしている前伯爵の目はないものの、伯爵夫人の目が光っている。堂々と出入りするのははばかられていた。
彼らは、ファーリを通してフェルミを知るにつれて、ここまで忌み嫌われるような存在ではないことがわかった。時々、本邸の仕事が終わった夜に、ファーリとともにフェルミのために腕を振るっている。
「飾り付けはお気に召されましたでしょうか?」
「はい。皆さんが作ってくださった、わっかや風船が、キラキラしていて楽しいです。それに、お野菜は、料理長さんのスキルのお陰で甘みが増していて、とっても美味しいですし、フットマンさんが咲かせてくれた、夏のひまわりもとてもきれいです」
フットマンもまた、ファーリを狙っている。料理長としては、新参者の若造にイライラするが、フェルミが喜べばファーリも嬉しそうだ。渋々、この場にいることを享受していた。
「じゃじゃーん、お嬢様、これをどうぞ! 今年は、料理長さんとフットマンさんと一緒に用意したんですよ」
ファーリが、大きな箱を差し出した。大きなリボンが駆けられており、小柄なフェルミにはとても大きい。
フェルミは、大きな箱を受け取ると、目を輝かせて笑った。
「わあ、何が入ってるの? 開けて良い?」
「どうぞどうぞ。早く開けてくださいな」
ドキドキしながら、リボンをそっと解く。蓋を開けると、その中には手編みの帽子を被った熊のぬいぐるみがあった。
「わあ、かわいい。帽子はファーリが?」
「残念ながら、ご存知の通り、あたしは不器用なんで、帽子はフットマンさんが編んだやつでーす」
「すごいですね。まるで既製品のようです」
「いずれ、私の子供の服も手作りしたいと思いまして」
「素敵ですね!」
フェルミは、30センチほどのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。三人は、悩みに悩んで選んだプレゼントを、気に入ってくれたことに、ほっとして顔を見合わせる。
「お嬢様、名前をつけてあげてくださいね。今、巷では、ぬいぐるみに名前をつけて大事にするのが流行しているんですよ」
「そうなの? なんにしようかな。うーん」
ほとんど記憶のない小さなころは、毎日がとても辛かったような気がする。今では、こうして笑顔で接してくれる人たちが3人もいるのだ。
(孤児の私に、こんな嬉しいことが起こるなんて……)
「慌てて決めなくて良いんですよ。若い女の子は、赤ちゃんにつけたい名前にすることが多いそうですし、素敵な名前をつけてあげてくださいね」
料理長がそう言うと、フェルミは熊の顔を見ながらうなづいた。その目は、フェルミと同じ金色の瞳をしている。
首には、フェルミの名前と、ファーリたちのイニシャルが書かれた首輪がかけられていた。それが、まるでここにる4人が、ずっと一緒だと言ってくれている用に思えて胸がじぃんと熱くなった。
(もうすぐ、ここを出ていくのよね……)
成人までは、ここで保護してくださるとのことだった。ならば、成人したからには、すぐに出ていかねばならないだろう。
心にすきま風が吹いたように、少しさみしくなった。皆がずっと一緒だなんてあり得ないことなど、わかっていた。それでも、ずっとこんな風に過ごしたかった。
「うん。本当にありがとう。一生大事にするね」
フェルミは、満面の笑顔で宣言した。彼女にとって、会ったこともない、生きているのか、それとも天に召されたのかわからない家族よりも、本当の家族のような彼らに心配をかけたくない。
もしも、子供の頃のように辛いことがあっても、彼らの気持ちがこもったこの熊があるかぎり、前を向いて歩いていける。そう、思った。
夜が更け、そろそろ眠る時間になった。幸せだった誕生会の、温かい気持ちが見せてくれた楽しい夢を見た次の日、ファーリは伯爵夫人に初めて呼び出されたのであった。
「ファーリ、ありがとう。それに、料理長さんや、フットマンさんまで……。本当に嬉しいです」
「滅多に入らない、天然のブリが入ったので、本日のメインは、ブリのステーキでございます」
「美味しいです。まるで、お肉みたいに肉厚で、でも、ほくほくしてて食べやすいです」
料理長は、ファーリとずっと続いている。とっくに結婚していてもおかしくない。しかも、独立する準備はとっくに整っていた。だが、仕事を辞められないファーリが退職するまで待っている状態だ。
料理長や使用人たちは、昔ほど、フェルミに関わることがタブーではなくなった。とはいえ、隠居生活をしている前伯爵の目はないものの、伯爵夫人の目が光っている。堂々と出入りするのははばかられていた。
彼らは、ファーリを通してフェルミを知るにつれて、ここまで忌み嫌われるような存在ではないことがわかった。時々、本邸の仕事が終わった夜に、ファーリとともにフェルミのために腕を振るっている。
「飾り付けはお気に召されましたでしょうか?」
「はい。皆さんが作ってくださった、わっかや風船が、キラキラしていて楽しいです。それに、お野菜は、料理長さんのスキルのお陰で甘みが増していて、とっても美味しいですし、フットマンさんが咲かせてくれた、夏のひまわりもとてもきれいです」
フットマンもまた、ファーリを狙っている。料理長としては、新参者の若造にイライラするが、フェルミが喜べばファーリも嬉しそうだ。渋々、この場にいることを享受していた。
「じゃじゃーん、お嬢様、これをどうぞ! 今年は、料理長さんとフットマンさんと一緒に用意したんですよ」
ファーリが、大きな箱を差し出した。大きなリボンが駆けられており、小柄なフェルミにはとても大きい。
フェルミは、大きな箱を受け取ると、目を輝かせて笑った。
「わあ、何が入ってるの? 開けて良い?」
「どうぞどうぞ。早く開けてくださいな」
ドキドキしながら、リボンをそっと解く。蓋を開けると、その中には手編みの帽子を被った熊のぬいぐるみがあった。
「わあ、かわいい。帽子はファーリが?」
「残念ながら、ご存知の通り、あたしは不器用なんで、帽子はフットマンさんが編んだやつでーす」
「すごいですね。まるで既製品のようです」
「いずれ、私の子供の服も手作りしたいと思いまして」
「素敵ですね!」
フェルミは、30センチほどのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。三人は、悩みに悩んで選んだプレゼントを、気に入ってくれたことに、ほっとして顔を見合わせる。
「お嬢様、名前をつけてあげてくださいね。今、巷では、ぬいぐるみに名前をつけて大事にするのが流行しているんですよ」
「そうなの? なんにしようかな。うーん」
ほとんど記憶のない小さなころは、毎日がとても辛かったような気がする。今では、こうして笑顔で接してくれる人たちが3人もいるのだ。
(孤児の私に、こんな嬉しいことが起こるなんて……)
「慌てて決めなくて良いんですよ。若い女の子は、赤ちゃんにつけたい名前にすることが多いそうですし、素敵な名前をつけてあげてくださいね」
料理長がそう言うと、フェルミは熊の顔を見ながらうなづいた。その目は、フェルミと同じ金色の瞳をしている。
首には、フェルミの名前と、ファーリたちのイニシャルが書かれた首輪がかけられていた。それが、まるでここにる4人が、ずっと一緒だと言ってくれている用に思えて胸がじぃんと熱くなった。
(もうすぐ、ここを出ていくのよね……)
成人までは、ここで保護してくださるとのことだった。ならば、成人したからには、すぐに出ていかねばならないだろう。
心にすきま風が吹いたように、少しさみしくなった。皆がずっと一緒だなんてあり得ないことなど、わかっていた。それでも、ずっとこんな風に過ごしたかった。
「うん。本当にありがとう。一生大事にするね」
フェルミは、満面の笑顔で宣言した。彼女にとって、会ったこともない、生きているのか、それとも天に召されたのかわからない家族よりも、本当の家族のような彼らに心配をかけたくない。
もしも、子供の頃のように辛いことがあっても、彼らの気持ちがこもったこの熊があるかぎり、前を向いて歩いていける。そう、思った。
夜が更け、そろそろ眠る時間になった。幸せだった誕生会の、温かい気持ちが見せてくれた楽しい夢を見た次の日、ファーリは伯爵夫人に初めて呼び出されたのであった。
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