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「フェル、ついたよ」
「は、はい……」

 カインの足が止まった。フェルミは、相変わらず顔を隠していて、ここがどこだか分かっていない。ただ、カインの言葉から、部屋についたのだと悟る。

 カインと一緒なら大丈夫だと、彼にしがみついた。

コンコン

(い、いよいよなのね。私も、ファーリのような大人の一歩を進むんだわ。ちょっと怖い、けど。って、あら? どうしてノックをしたのかしら?)

 フェルミの部屋なら、無人のはずだ。そういえば、カインは船に乗ったばかりで、自分の部屋のナンバーさえ知らないはず。
 しかも、カインからは、これからの行為に誘う甘い言葉どころか、予想を遥か斜め上の言葉が聞こえた。

「船長、いるか?」
「え? 船長様?」

 どうして、船長が自分の部屋にいるのだろうか。彼は今頃出発後の仕事で忙しいはずだ。

 やはりおかしいと、フェルミは恐る恐る手を顔からどけて目を開けた。

「よう、カイン! さっき聞いたぞ。いや、お前がここに来てくれてラッキーだったぜ」 
「女神の祝福の賜物かもな。本当に偶然だった」

(なんだ、行くって、行くって、船長様のところだったのね。そうよね、だって、色々話しを聞くって言ってたもの)

 ほっとしたような、残念なような、少し拗ねたような、一言では表すことのできない気持ちになった。

「フェル? どうした? もしかして船酔いか?」
「い、いいえ! 酔い止めを飲んだので大丈夫、ですよ? ただ、私はちょっと、そのぉ……」
「もしかして、あのまま俺とふたりきりのほうが良かった?」
「だって、さっきカインがあんなことを言ったから、てっきり……」

 あの時、カインは耳元で「言葉だけじゃなく、俺の全部を使って、どれほど愛してるかわからせようか?」と言った。だからこそ、フェルミは、大人の女性向けの本のように、彼との色々を妄想をして覚悟を決めたのだが、現実は違ったようだ。拍子抜けしてしまう。

「ああ、あれか。はは、ごめん。フェルがあまりにも可愛かったから、ちょっとからかっただけだよ。お望みなら、話が終わったらすぐにでも……」
「ち、ちがっ……そんなつもりなんか……カインったら、もう……意地悪ねっ!」

 ぽかぽかと、笑う彼の胸を叩く。全く痛くないどころか、喜ばれてしまった。ぷぅっと頬を膨らませた時、ふたりに野太い声がかけられた。

「あー、お前らがそういう仲になったのは良いこととして、ちょっとここがどこだか思い出して欲しいんだが」
「あ……か、カイン、降ろしてぇ」
「船長、邪魔するなよ。こういう時は、そっと出ていくもんだ」
「ばかいえ、俺がここにいなきゃ、誰がシルバーバレットをグリーン国まで走らせる。とっとと座れ」

 呆れたように船長に言われ、フェルミは恥ずかしくて穴があったら入りたい気持ちになる。カインは平然とした顔で、顔を真赤にしているフェルミを横抱きにしたままソファに座った。

「お前ってやつは……」

 更に呆れた船長に話しを促され、フェルミからこれまでのことを再び話しだした。カインは、機密事項以外を全て話し、船長の協力を正式に要請した。

「船長、フェルを保護してくれてありがとう。この件は、グリーン国にとってもフレイム国にとってもトップシークレット並の事件になった。これより、シルバーバレット乗組員に対して、全面協力を求めるがいいか?」
「偶然だがな。協力の是非も何も、強制だろ? そりゃ勿論、是だ。正直、俺たちの手に余っていたからな。まだグリーン国に、どう伝えたらいいのかわからず、フェルミさんのことを知らせてもいないんだ。お前に全部任せる」

 船長が、肩の荷が降りたと豪快に笑う。ふたりは、難しいことを話し合っていたが、海に出てしまえば、シルバーバレットのスピードについてこれる船は、世界各国を探してもそうそうない。グリーン国までの安全な航海を約束されたも同然だった。

 問題は、グリーン国に着いてからだろう。それについては、カインがフレイム国を通じて、万事抜かりないようにすると力強く約束した。

 船長と別れ、フェルミの部屋にカインと入る。そこは、初めて乗った時にも使っていた部屋だ。スキルを使って、昏倒した時からだが。

「あれから、だいぶん経つのに、こうしてここに来ると、ついこの間のようね」
「そうだな」

 カインは、フェルミを横抱きにしたまま、大きなベッドに進んだ。そっと彼女を座らせる。

「フェル、さっき、君が話した内容を聞いて、俺は心臓が握りつぶされそうな思いをした」
「カイン?」

 カインの瞳に、後悔の小さな炎が灯る。見つめ合いながら、ふたりの身体が近づく。

 ふっと互いの吐息が交じる。カインは、フェルミの体を抱き寄せ、ぐっと近づけさせた。

「フェル、怖かっただろう? ああ、こうして君を抱きしめられる今があるのは、細い糸で結ばれたような、奇跡としかいいようがない」
「……っ。あら? どうして、涙が……」

 短期間のうちに、緊張と緩和をくり返したフェルミの心が、完全に無防備になった。その瞬間、今になって恐怖にかられていた体の震えが襲ってきた。
 
 とっくに怖い場所から逃れられ、カインもいる。もう、ちっとも怖くないはずなのに、涙が止まらなかった。

「フェル、もう二度とこんな目に合わせない」
「か、カイン……うう……」
「ずっと、俺が守る。だから、フェルもここにいてくれ」
「うん、うん……」
「愛してる」
「わ、わたしも……。私ね、カインが、いなくなってから、ずっとカインのことを思い出していたの。逃げている時も、あなたに助けてって、何度も願ったわ」
「そうか……」
「ふっふふ……、カイン、助けに来てくれて、あり、がと……」

 自分で考えるよりも、カインに惹かれていた。ありったけの気持ちを込めて、カインに抱きつく。

「フェル……」
「カイン……好き……」

 互いの顔が見たくて、少し離れた。フェルミは顔を真赤にして涙で汚れているというのに、カインは少し頬を染めて嬉しそうに微笑んでいるだけだった。

「フェル?」

 フェルミは、カインのいつでも余裕そうで、いつも素敵なその顔を、もう少し崩してみたいと思った。くいっと顔を近づけて、彼の唇に自らのそれを当てる。

 ちゅ……

 よく聞かないと聞き取れないほどのリップ音が、カインの耳に届いた。それと同時に、荒々しい猛獣のように、彼の唇が襲いかかってきた、

 息をするのも忘れるくらい、ふたりは唇を重ねる。カインの舌先に誘われて唇を開くと、ぬるりと大きなそれが口内を蹂躙する。

「は、はぁつ……カイン、カイン!」

 互いを貪りつくさんとするキスに夢中になっていると、フェルミの肩から、するりとワンピースがずらされた。下着に隠された胸に、彼の大きな手があてられ、生地越しに先端の尖りをそっとなぞる。

「あ……んん……」

 カインの動きに、びくりと身体が震える。フェルミのその動きで、カインの手も止まった。

「ご、ごめ……こんな時なのに。まだ、はやい、よな?」

 そう言いながらも、カインの瞳の熱は熱く揺らめいている。それが、彼の気持ちがどこにあるのか物語っていた。

 フェルミの頭から、目の前のかイン以外の全てが消え去っていた。

 続きをねだるように、彼の服のボタンを、ひとつ、またひとつと外していく。

「フェル……?」

 フェルミの、普段と違った大胆で淫らな指先と熱っぽい視線に、ごくりと彼の喉が大きく上下する。大胆に開いたたくましい胸元に、ちゅっとキスをした。

「カイン、好き……」

 ちゅっちゅと、胸元から下へ唇を移動させていく。スラックスの中で、戸惑いと期待で膨らんだカインの感情の高ぶりに、唇が近づこうとした時、フェルミの視界が天井を向いた。

「俺のフェルは、大胆だな」
「いや?」
「大好きだ」
「わたしも……。ね、きて?」

 カインの手が、彼女の体から余計なものをはぎとろうと動き始めた。下着を少しずらすだけで、窮屈そうにしまわれた胸が、ふるんと外に出る。
 恥ずかしくなって、手でそれを隠そうとしたが、彼に防がれる。シーツに両手を縫われたため、誘惑するように胸がぐっと彼に向かった。

「恥ずかしいから、あんまり、見ないで……」
「どうして? こんなにも美しいのに。もっと見せて」

 カインの口に、胸の赤い果実が消える。吸い付かれ、ねぶられると、お腹の中がもぞもぞとした感覚が生まれた。

「あ、ああ、んっ、はあん……」

 堪らえようとしても、淫らな声と吐息が漏れる。初めて味わう感覚から逃れようと、必死に目を閉じた。

「フェル、目を開けて。俺を見て」
「ん……」

 カインが真っ赤になって尖りきったそれから唇を離した。すると、すうっと波が引くように変な感覚が小さくなる。彼の言う通り、目を開けて、胸元にある彼を見た。

 カインの、獲物を狙っているような視線と合ったかと思うと、見せつけるようにゆっくりと、今度は違うほうを咥えられた。いつの間にか手は離されており、反対側の尖りを指で弄ばれている。さっきよりも激しすぎる感覚が襲った。

「あ、ああっ! カイン、も、や……ああ……ん、はあっん!」

 やめてと言いたいのに言えない。自分の苦しそうな声を聞いているはずなのに、その声を出せばだすほど、彼の舌と指は激しくなった。
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