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にじくす まさしよ

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足をすくわれました。

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 おにいさまが帰国してからというもの、なんだかフィーノの様子がおかしくなった。なんというか背伸びをしたい世代みたいに、時に反抗してみせる。まさに、反抗期ってやつかもしれない。



  海で、悲しい気持ちを洗い流すように散々はしゃいだその日の夕食の時に、フィーノが少し気だるそうにやってきた。
  彼の側に行き、いつものように手を繋ごうとすると、やんわりと手が遠退く。

『フィーノ? どうしたの?』

『あ……ディリィ。なんでもないんだ。ちょっと疲れてボケッとしているだけ』

『そう? 無理しないでね』

『うん。ベッドで寝ていたから大丈夫だよ』

  変だなと思った。いつもならぎゅっと握ってくるのに。 フィーノにしてはそっけないというか、バツが悪そうというか。でも、疲れていたのならこんなものかもしれない。具合が悪いのか心配していると、おにいさまがやってきた。

『フィーノ、久しぶり。大きくなったなー』

『お久しぶりです。……ハートゥンあにうえもお元気そうで安心しました』

  なんだか、おにいさまにも距離を置いている気がする。取り敢えず、3人で夕食を取る事になった。ほとんど食べ終わり、シャーベットの冷たさと、レモンの酸味が加わった甘さを堪能する頃になると、フィーノも調子が戻ってきたようでホッとする。

『え?  ディリィちゃんとお揃いのお土産……?』

『ああ。向こうで知り合った人たちと作った試作品なんだが。ふたりの結婚ももうすぐだろ?  隣国では婚約者や恋人同士は、身につける事が出来る物をペアで贈り合うんだ。向こうでは、だいたいのカップルは幸せそうにつけているよ』

『わたくしたちの結婚の前祝いなんですって!  ふふふ、お土産だって渡された時にね、大好きなフィーノとはやく一緒につけたくなったの』

『そうだったんだ……。そうか、そうだよな。ディリィちゃんは僕とつけれるから嬉しそうだったんだ……うん。僕も凄く嬉しいよ!』

  凄く嬉しそうにブレスレットを貰ったフィーノ。途中の言葉は、ごにょごにょ口の中でくぐもっていたから聞こえなかったけれど、にこにこそれを色んな方角から見つめる彼も、わたくしと同じように喜んでくれているみたい。胸の中がぽかぽかして、彼のそんな様子を見ると、本当に嬉しくてもっと喜んでもらいたいって思う。

『ねえ、フィーノ。早速つけてくれる?』

『うん!』

  暫くの間、ふたりでブレスレットを着けた手首を並べて見てみたり、いつもみたいに楽しい時間になった。

『えへへ、僕たちの色が入ってるね~あにうえ、ありがとう!』

『うん、綺麗よね~なんだか、いつも一緒みたいで嬉しいね』

『ははは、相変わらず仲がいいな。また別のものが出来たら贈るよ』

『ありがとう!』

  笑っていたフィーノが、突然はっと何か重大なことを思い出したように、表情をかたくした。すると、体を小さく震わせてどんどん顔色が悪くなる。

『フィーノ、やっぱり体調が悪いのね?  無理せず部屋に戻りましょう』

『う、うん……』

『大丈夫か?  歩けるか?』

『うん、だいじょ、ぶ……。あにうえ、ありがとう』

 そんな事があったくらいから、フィーノは大人びた態度をとるようになっていったのである。


  
※※※※


 カルガモの子供みたいに、わたくしの後をついて来て可愛かった天使のような彼はどこにいっちゃったのだろう。

「フィーノ、帰りましょう」

「ああ、ディリィか。ちょっと僕は用事があるから先に帰ってて」

  そんな風に、わたくしをチラッと見たあとで、そっけなく同級生たちと楽しそうに談笑を続けるのだ。それまではすぐに満面の笑顔でこっちに来たのに。

  ちょっとモヤっとするし、寂しく感じるけど、フィーノだって自分の世界がある。ひとつ年上の婚約者に、同級生との交流を邪魔されるとか、本当は嫌だったのかもしれない。

  子離れできない親かブラコンの姉のようにはなりたくない。わたくしは、徐々に彼がひとりじゃない時は声をかけなくなっていった。

 そうこうしているうちに、今までが近すぎたのだろうと自然に思えるようになった頃、最近、そう言えば令嬢たちから囲まれたり悪口言われたりすることもなくなったなと気づく。

 平和で平穏。会わなくなったと言っても、食事は一緒だし、相変わらずフィーノはわたくしに夢中な言動ばかりくりかえすから、油断というか余裕というか。

 13歳になった頃、令嬢たちから笑顔でフィーノとイイ仲になったと言われるようになった。

 まさか、うちのフィーノに限って。

 わたくしの頭には、それしかなかった。

「ふふふ、フィーノ様の左の内ももに、まさか星をかたどるかのように5つのほくろがあるなんて思わなかったですわ?」

 でも、公爵令嬢がそう言った瞬間、わたくしの頭がガツンと殴られたような衝撃を受ける。確かに、フィーノにはほくろがある。ふとももの内側といっても、付け根ぎりぎりで、ほとんど裸じゃないと見れない場所に。

「は……?」

「フィーノ様は、ディリィさんには言うなと仰ったけれど、わたくしたち、ようやくフィーノ様と情熱的な時間を過ごす事になった喜びを伝えたくて。ふふふ、ディリィさん、ありがとう。これからも皆で仲良くしましょうね」

 そう笑う公爵令嬢は、嫌味や悪口を含ませてない、完全に善意でフィーノを一緒に囲む仲良しグループになりましょうといった具合に、わたくしに対して報告したのであった。

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