完結・R18的な求人~急募! わたくしとだけ子作りしてくれるお婿さん! アットホームな職場です。待遇その他、応相談。

にじくす まさしよ

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なんで? どうして?

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 令嬢たちにも婚約者がいる。だけど、この国ではなんだ。男女ともに不純ないちゃこらをするのが当たり前だったんだったと、フィーノがわたくしだけだっていう言葉などで安心しきって、記憶の彼方に置いていたを思い出した。

 悲しくて悔しくて。涙が出そうになるのを必死に堪えた。彼や彼女たちを、前世のように責めてはいけない。どちらかというと、フィーノが彼女たちと交流を深めるのは、家同士の繁栄につながるであろう褒められた行為なのだから。わたくしも、本当なら彼女たちを見習って、複数の男の子とそういう事をしたほうがいいのかもしれない。

 でも、無理だった。ただでさえ、わたくしにとって児童でしかない相手だし、しかも、複数とか。そんなの、考えたくなくて、フィーノが無理にこの世界で異端な価値観を持つわたくしに合わせてくれている事に胡坐をかいていただけだった事を、今ようやく、この時になって突き付けられたのである。

 嘘だ、そんな事あるはずがないって叫びたかった。フィーノがとっくに初めてを済ませて、それが別の女の子だったなんて。所詮は、わたくし以外の女の子たちとそういう事をする、この世界の雄だなんて信じたくなかった。彼だけはって当たり前のように思っていたのに。

 彼女たちが、部活の大会の勝利の喜びを分かち合うかのように、ごく当たり前のように、わたくしに話しかけてくる。

「ディリィさん、ああ、わたくしたち本当に嬉しくて。あ、フィーノ様にはわたくしたちがこうして来た事が知れると、彼から二度と相手にしないって言われてますの。ですから、わたくしたちとの秘密という事でお願いしますわね」

  何をどう応えたのか記憶があやふやで。辛うじて、失礼な反応や言動はなかったと思う。彼女たちは嬉しそうに、漸くフィーノをわたくしと共有できた事、そして、これからも続ける事ができる未来を喜んで去って行ったのだから。

 ふらりと、ぐらぐら船に揺られているかのように体がふわふわする。足が地面にぴったりくっついて、この嫌な場所からさっさと遠のきたいのにできない。力が入らなくなって、ずるずる壁に背を持たれかけさせて膝を抱えるようにしゃがみこんだ。

「…………フィーノ……」

 彼女たちに言われなくても、彼にそんな事を聞けるはずがない。

  ずっと、彼を待たせてきたのはわたくしだ。わたくしの考えや常識がおかしいのだから。これが当たり前で、これで……これで、やっとわたくしも本当の意味でこの世界に産まれ、今後も生きていける……だから。だから。泣いちゃだめなんだ。これっぽっちも傷なんてついたらいけない。とても、素晴らしくて幸せになれる第一歩なのだから……。

「これで、良かったんだよ……うん……これで、いいんだ……」

 そう呟いたところで、本当は深く傷ついた心と、衝撃を受けた胸、混乱する頭の中がすぐに治まるはずもなく。せめて初めてはわたくしがよかったなんて自虐めいた笑みが、堪えきれなくなった涙と一緒に溢れ落ちる。

「う……うう……。フィーノ、フィーノ……あんなの、嘘だよね?」

 何が悪かったんだろう。わたくしがさっさと彼に捧げなかったから? もっと、彼を夢中にさせなかったから?

 でも、彼女たちの言動から察するに、そういう事を致しているのはかなり前からのようだった。

 なら、彼は、涼しい顔をして、ずーっとわたくしだけだって照れながら、嘘を言い続けて騙して来たのか。フィーノだって、わたくしに僕だけがいいって繰り返してきたはずなのに。

 自分はやってて、わたくしだけはダメとかなんなの? 

 しろって言われてもしないけど。わたくしの夫になるのはフィーノだけで。だからフィーノに素直に向き合って、好きという気持ちを大切に育てて来たのに……。

「一体、いつからなのよぉ……うそだぁ……あんなの、うそに、きまってる……ひぃっく、うう……」

  聞いても決してわからない、誰にも聞けない問いは、口に出したことで、わたくしの心をギリギリ締め付けて、ガラスのように嫌な音を立てながら軋みひびが入っていく。最初から、フィーノがわたくしだけと嘘をつかずに色んな子と仲良くしていたほうが、まだマシだったのかもなんて、そうなったらなったで絶対に嫌なくせに、馬鹿な考えまで浮かんでくる。

「うー……うう……ひどい……こんな世界に産まれてきたくて、産まれたわけじゃないのにぃ……うー……ひっく、ひっく……」

  転生して産まれたことは嬉しかった。前世の記憶があるからこそ、たくさんも喜びも味わえた。両親やわたくしを見守ってくれた使用人たちにも愛されて、幸せなのだ。だから、ごく当たり前に、フィーノが浮気女の子たちと交流をしても、幸せはゆるがない。なのに、どうしてこんなにも苦しいの?

「フィーノ、ふぃぃのぉ……なんで?  どうして?  わたくしだけっ、って。あんなに言ってくれてたじゃない……うう……」

 一晩どころか、一週間ほど、わたくしは部屋に閉じこもった。フィーノが毎日のように心配して来てくれるのが、嬉しくて、悲しくて、切なくて、憎くて、でも、幸せで……

 やっと部屋から出る事ができるようになってから、表面上はいつも通りに振舞える自分に呆れてしまう。心の中がどこかいつも空っぽで、風が、凪いでいる時もあれば、嵐でぐちゃぐちゃになる時もあるけれど。

 相変わらず、フィーノはわたくしだけと言い、毎日のように好きだと伝えて来てくれるのが、滑稽で。でも、そんな嘘を、嘘だと分かっていても喜んでしまう自分がいて悲しい。

 ひと月経ち、半年が過ぎて、14歳になる頃には、あれほどフィーノを好きだという海のように大きかった気持ちが、小さく萎むくらいには、わたくしは感情を落ち着かせる事が出来たのである。
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