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にじくす まさしよ

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わたくしの思い、フィーノの気持ち

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 案の定、フィーノと彼の可愛い恋人の前で宣言した時、フィーノたちは本気にしてくれなかった。
 こっちは真剣なのに、彼女は婚約者であるわたくしをヤキモチ焼いちゃって可愛い女の子だなあって微笑ましいものを見たかのように笑うし、フィーノも戸惑いながらも、彼女と同じようにわたくしの言葉を冗談だと思っているのがわかる。

「デルファーヌさん、せっかくの時間を邪魔して申し訳ありません。ですが、少々フィーノとふたりきりにしていただけませんか?」

「ふふふ、構いませんわよ。ディリィさんもたまにはフィーノ様とデートしたいですものね? 最近、わたくしたちばかりがフィーノ様とデートしてましたし。ねぇ、フィーノ様、お話が終わったら、わたくしの部屋に来てくださいませね?」

「ああ、ありがとう。僕の婚約者が失礼したね。またあとで」

 ふたりとも、わたくしが軽いヤキモチで乗り込んできただけだと信じて疑わないのだろう。目の前で堂々とこの後の仲良しの時間を約束する始末。彼らには悪気はない。この国の男女はこんなもんだ。しらーっとした気分で、フィーノが彼女の額にキスをするのを見せつけられた。

 わたくしがすでに知っていたとわかり、もう隠す必要なんてないと思ったのだろう。婚約者の前で堂々といちゃいちゃするなんて、この国のこういうところは、いつまで経っても慣れない。

 フィーノは、彼女を見送ると、まるで駄々っ子のようにわがままを言いながら邪魔をしたわたくしに微笑んで諭してきた。年下のくせに生意気な。

「ディリィ、婚約解消って何バカな事を言っているんだよ。ディリィが嫌がると思って隠していたつもりだったんだけど。バレてたのはびっくりした。でも、一年以上前から知ってて、今まで何も言ってこなかったって事はディリィだってこのまま僕と結婚するつもりだったんだろ? 今まで良くて、いきなりダメだなんてなんでだよ? ヤキモチ焼いてくれるのは嬉しいし、そんなにも僕を愛してくれているなんて、可愛いすぎる……でもさ、婚約解消ってのは言い過ぎ。本気じゃないのに、そんな事を言ったらダメだよ?」

 ダメだ。何をどう言っても、この世界の男の子である彼に、わたくしの気持ちを理解させるのは無理なような気がする。あまりにも高い壁が目の前に立ちふさがっていて、くらくら目眩がするようだ。

「……本気だし、いきなりじゃないわ。わたくしだって、フィーノが他の女の子と仲良くするのは普通の事だと頭では理解した。しようとした。だから、両親たちに言われ続けたように、わたくしの気持ちが変でおかしいんだから、だから、目を閉じて、耳を塞いで、このままフィーノと結婚して、ずーっとずーっとそうやって暮らす事が、家の繁栄にもなるし、これでいいんだって、こうしなきゃ、そうあるべきだって考えていたの」

 どこまで彼を説得できるのか分からない。勝算は薄いと思うけど、言わなきゃ始まらない。静かに呼吸をしながら、努めて冷静に話しかけた。

「ディリィ……? 僕だってディリィと他の男が仲良くしているのは面白くない。最近、彼女たちとばかりいたから拗ねたんだよな? 今日は彼女との先約があるけど、明日からは一緒にいるから。これでいいだろ?」

「違うから! 我慢に我慢を重ねて、わたくしはちっとも楽しくない苦しい毎日だった。だって、この世界の常識なんだって、自分に言い聞かせようとしても、心の底では嫌なものは嫌なんだから。フィーノだって、他の子と仲良くするのを我慢するなんて無理よね? このまま結婚したら、どちらかの心を犠牲にするしかない。そんなの幸せなんかじゃないもの。わたくしの中では、とっくに終わっていたの。婚約解消は、わたくしが一方的に悪いんだから、慰謝料でもなんでも払う。だから、わたくしを自由にしてください」

 頭を思い切り下げて、一気にこう言うと暫く沈黙が流れた。

「ディリィ……嫌だ、嫌だよ、別れない! 別れないからね! 僕はディリィちゃんを愛している。他の子の事は気持ちいし好きだけど、ディリィちゃんが嫌ならもう二度と他の子としないから」

 わたくしが本気だとようやくわかったのだろう。思った通り、フィーノは拒否した。彼の気持ちに余裕がなくなったのか、少し前の幼い彼自身の言葉で伝えてくる。
 出来もしないのに、そういう約束事を言ってくるのも予想通りだった。今後は本当に約束を守ってくれるかもしれない。
 でも、フィーノをずっと見て来たわたくしは、彼のその言葉が、心底本気であっても、今だけ限定なのも知っていた。彼は本気で今後は他の子と仲良くはしないつもりだろう。


  だけど……フィーノはとても流されやすい。どう考えても他の子の涙とかを見たら、絶対に心がぐらつく。女の子の願いを無下に出来ないのだから。

「……小さな頃にさ。お互いに他の異性と色んな事をするのはやめようねって指切りしたのを覚えてる?」

「うん。約束破ってごめん……でも、ほんとに、もう二度としないから。だからお願い、婚約解消だなんて言わないで!」

「フィーノ、こんな事を言うわたくしがおかしいの。フィーノが望む事に応えなかったし、非常識で悪いの。なのに、フィーノのそういう部分が許せない、わたくしが変なの。こんなおかしな女じゃなくて、もっと素直でかわいい女の子はたくさんいるでしょう?」

「……で、僕に他の女の子をあてがって、ディリィは別の男と一緒になるっていうのか? 他の男なんてもっと遊んでるんだよ? だからさ、僕と結婚してよ。婚約解消だなんてそんなの許さないぞ。僕は解消しないから!」

「フィーノ、いくら、これからはわたくしだけって言われても、嘘やごまかしをし続けた事で、もうあなたの言葉を信頼できないの。せめて、他の子と交流を始めた事は、隠したり誤魔化そうとせずきちんと告白して欲しかった……ただ単に女の子たちと仲良くなっただけなら、嫌だけど、こんな風にあなたの事を拒絶まではしなかったと思う」

  わたくしの言葉を聞いて、フィーノは俯いた。拳を握りしめて震えている。

 傷付けたいわけじゃない。罪悪感が芽生えて、自分の発言を撤回したくなる気持ちになりかけ、口をぎゅっと固く結んだ。

「ディリィ……わかったよ。それほどまでに僕と結婚するのが、嫌なら。解消……してあげる。でもね、僕にとってはいきなりの事で、すぐには返事ができない。手続きとかもあるし、両親たちにも伝える必要があるだろ? だから、今日のところは、一旦持ち帰らせてもらっていいかな?」

「ええ……」

 その後、わたくしたちは別れた。フィーノがデルフィーヌさんと過ごしたのかどうかは知らない。

 フィーノは彼の両親に伝えたようだ。後日、わたくしに対して、婚約解消のためにとある条件をさしだして来たのであった。
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