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にじくす まさしよ

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幼い頃の、指切りげんまん

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「おにいさま! いつ、お戻りに?」

 隣国に行っていた、幼い頃からわたくしたちを妹弟のように可愛がってくれていた人がそこにいた。昔から大きくて、一見怒っているような目元は変わらない。普段は黒に見える髪が、今は太陽を浴びて藍色がはっきりしている。真黒な瞳は、やや三白眼だけど、わたくしを見つめる視線は、相変わらず優しさしかない。

「ディリィ、久しぶりだね。元気にしていたか? おととい帰国して、今朝がた学園に戻ったところだ」

「ご無事のようで安心しました。わたくしは元気ですわ。じゃあ、これからはずっとこちらにいらっしゃるの?」

「ああ。隣国の王から報奨を貰ったから、お土産があるよ。渡したくて探していたんだ」

「まぁ。では、おにいさま……あ、失礼しました。ハーティ様の魔法が成功したのですわね?」

 思わず、気安い呼び方をしてしまった。実の兄妹でもないのに、いくら幼馴染とはいえ失礼すぎる。慌てて訂正したのに、優しいおにいさまは穏やかに微笑んで許してくれた。

「おにいさまでいいよ。世界中から素晴らしい回復魔法の使い手がたくさん集まっていたから、俺は不要だった気がするが。かの方は、すっかり元気になり走る事もできるようになった」

「まぁ……良かったですわ!」

 実は、隣国の幼い王子様が難治性の病に倒れたのだ。

 この世界は、攻撃魔法を使う者が圧倒的多数を占める。次に防御系が少数で、回復魔法の使い手はほとんどいない。隣国の王は、世界各国の回復魔法の使い手を募り、我が国から侯爵家令息である彼が派遣されたのである。

 幼い王子が健康を取り戻した事、なによりも、幼馴染である彼が無事に帰ってきたことが嬉しくて、さっきまでのモヤモヤなんてどこかに吹き飛んだ。

「俺も嬉しい。それに、世界中から集められた回復魔法の使い手と交流できたことは、俺にとってすばらしい経験になった」

「ふふふ、人々のために努力を続けるおにいさまらしいですわ」

「そんな大層なものじゃない。ディリィ、手を出してごらん」

 差し出された彼の左の手の平に、右手を乗せる。すると、わたくしの手首に、深い藍色のブルートリマリンがあしらわれた可愛いブレスレットがはめられた。わたくしの髪の色に似たピンク、フィーノの髪の色のの黒もある。

これって、ピンクダイヤやブラックダイヤじゃないよね? 

 もしそうなら、値段がつけられないほど高価な代物だ。単なる妹のような幼馴染にそんなもの贈るはずがない。わたくしは素直に喜ぶことにした。

「まあ、よろしいのですか?」

「集まった人たちと協力して作ったんだ。ディリィは防御系魔法の達人だけど、何があるかわからないからな。試作品なんだけど、ちょっとしたケガはこれが自動で修復してくれるはずだ」

 宝石が紛い物であっても、そんな魔法が付与されたアーティファクトなんて気が遠くなりそうなほど貴重なものだ。流石に受け取れないと返そうとした。

「まあ……すごい……ですが、これは受け取れませんわ。おにいさまのお嫁さんになる方に贈ってさしあげたほうが……」

「……俺には、まだそういうのは必要ないよ。現に婚約者どころか恋人もいない。今は研究をしている方が性にあっているからなー。それに、フィーノとお揃いのペアにした。ほんとに実験の副産物のようなものだし、少し早いけど結婚の前祝ってとこだよ。是非ふたりでつけてくれ。ところで、フィーノは一緒じゃないのか?」

「……フィーノは、授業中ですわ」

 フィーノの名前が彼から出た途端、ちょっと前までのアンニュイな気持ちを思い出した。ブレスレットを撫でてそれをじっと見つめるわたくしの頭に、ぽんっと大きな手が乗っかる。

「ディリィ、その様子だと、今日はもうサボるんだろ? 俺と遊ぼうか」

 様子がおかしいから、理由を聞かれるかと身構えた。

  だけど、おにいさまから出た言葉は、学生らしからぬ内容で、真面目な彼がそんな事をいうなんて、とびっくりして上を向く。

 すると、すぐそばに、困ったように笑いながら、わたくしを心配そうに見つめる彼の顔があった。

「え? サボる?」

「ああ。ディリィが悲しんでたら、笑わせてあげるって約束しただろ? 久しぶりに、一緒に思いっきり泳ごう。思いっきりハメを外すと良い」

 それは、小さな頃のふたりだけの約束。

  あの時も、モテモテフィーノを取り巻く女の子たちに囲まれていた。幼かったわたくしは何も言い返せず、悲しくて泣いてしゃがんでいるばかりだった。
  フィーノが知れば気にするだろうし誰にも言えなかった。そんな時、おにいさまがわたくしを見つけてそう言い、指切りをしてくれたのだった。

「うん」

 彼には敵わない。取り繕った令嬢言葉も忘れて返事をする。
  なんだか子供の頃にかえったみたいに、心がはずむ。すると、にやりとちょい悪いたずらっ子みたいに笑ったおにいさまに手を取られ、そのまま海に走っていった。

 そんなわたくしたちを、フィーノが見ているとも知らずに──

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