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にじくす まさしよ

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失ってしまった、僕自身よりも大切な宝物…… Side フィーノ ※

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 僕が公爵令嬢と、裸でベッドで事後のあとまったり過ごしていると、聞き捨てならない事を彼女から聞いた。

「フィーノ様、わたくし幸せですわ……」


 この子は、とても可愛いし、綺麗だし、肌を重ねる事は気持ちいいけど、果てた後の今は、甘えてくるのがちょっと鬱陶しい。正直なところ、満足したしさっさと帰りたいがそういうわけにもいかないだろう。あくびが出そうになるのを堪えて、胸に頬を摺り寄せてくる彼女の頭を撫でた。

 これがディリィちゃんなら、ずっとおしゃべりしたいし、なんなら何回戦でも出来る自信がある。

「僕も幸せだよ。ずっとこうしていたい。ところで、さっきのは どういう事?」


「ディリィさんと、ハートゥン様がついにご結婚に向けて動かれたそうですわね。フィーノ様とわたくしの結婚しますでしょう? だから、こう言ってはなんですが、フィーノ様に捨てられてしまった気の毒な彼女も幸せになって欲しいと思っていましたの。これで、あちこちで噂される話も真実になり皆が幸福になれますわね。わたくしの家も、今か今かとフィーノ様が婿入りするのを待っていますのよ? ふふふ、楽しみですわね」

 こんな風に、僕との結婚を心から望んでいる彼女はとっても可愛いと思う。ディリィちゃんがいなかったら、彼女と結婚して、皆と仲良くなって、僕はこの国一番の果報者になっただろう。

「う……うん……だけど、まだ噂段階で本人からは何も聞いていないんだ」

「まあ、でしたら今日にでもお話があるのかもしれませんわね。ねぇ、フィーノ様、わたくし、フィーノ様と結婚できる日が待ち遠しい。愛していますわ」

「可愛い人。僕もだよ」

 かわいいこの子を傷つけたくない。女の子は甘くて柔らかくて、ふわふわしている綿菓子のようだ。絶対に守ってあげなきゃいけない。それに、体の相性も抜群で、一番僕を気持ちよくしてくれる女の子を手放すのも惜しい。

 だから、僕はあとでしっかりディリィちゃんに詰め寄って、どういう事か確認するべく、僕にすがりついてくる可愛い彼女をもう一度味わった後、ディリィちゃんの家に急いだ。

「ディリィちゃん! どういう事? 今のところ合格者なんてひとりもいないって、ついこの間言ったじゃあないか!」

 彼女の執務室ではなく、なぜか、今日は来賓用の応接間に通された。案内されていくと、すでに彼女はソファーに座っていて優雅に本を読んでいる。

 そんな彼女もとてもかわいい。綺麗で優しい、僕だけのディリィちゃんが、まさか僕以外の男を選ぶだなんて、そんなはずはない。

「あら、フィーノ。ごきげんよう。ついこの間って、先月の始めかしら? だとしたら、言葉が違うわ。こういう時はね、久しぶり、というのよ?」

「ごきげんなんてよろしくなんてないよ! 久しぶりとかそんな事はどうでもいいじゃないか。それよりも、どうして! 期限まであと少しだし、僕は周りがあの女の子と結婚しろしろ言うのを抑えつつ、ディリィちゃんと結婚するために頑張ってたのに!」

「……へえ。で、何をどう頑張っていたの? 勉強や、与えられる公務の他の時間、わたくしの心を得るために来ることもなくなり、わたくしが最も嫌で今回の原因になった女の子たちとの交流をずっと続けていたことかしら?」

 いつになく、彼女が意地悪な物言いをする。僕が、ひと月以上も来なかったから拗ねたのか?

 僕は、必死にこれまで来れなかった理由を伝えようとした。

「う……だって、それは。彼女たちと今更縁は切れないよ。それに、どの子も優しくて可愛くて、きっとディリィちゃんとも仲良くなれる。それに、僕はディリィちゃんと……」

「フィーノ。お前、もう黙れ。お前が何かをディリィに訴える度に、ディリィのお前への気持ちが下がる一方なのがわからないのか。本来なら、お前の行動はごく当たり前の事だ。誰にも責められる事がない、それどころか、令嬢たちとの繋がりを強固にするために推奨されている。だがな、ディリィの気持ちは違うんだ。ちょっとしたヤキモチレベルなんかじゃないんだぞ。それをお前は知っていたはずだ」

 僕が全部言い終わらないうちに、あにうえが言葉をかぶせてきた。最後まで言わせてくれたら、ディリィちゃんだって考え直してくれるに決まっているのに。
 僕の説得を邪魔した、まんまと最愛の女性を奪った男が、たとえ、小さな頃からよくしてくれたあにうえでも、恨めしく思ってキッと睨んだ。

「でも、……だって、僕だって男だ。他の皆だってやっているし。それに、ディリィちゃんにとってもメリットだって大きいし、これからだって、ちょっとヤキモチ焼かせちゃうけど、ディリィちゃんのためにも、僕は女の子たちと仲良くしようって、そう思ってて」

「……わたくしのためという免罪符にもならない理由を取ってつけて、女の子たちと遊ぶなんて最低。そりゃ、わたくしだって、家のためにも、この国に生きる民として、悲しいけれどフィーノと結婚しようとした。前にも言ったわよね? それだけなら、わたくしは幸せではないかもしれないけれど、我慢して結婚するつもりだった。でも、あなたのそういう性格が、自分に都合のいいように物事を捉えて言い訳しかしない所が無理になったの。それに、フィーノがいくら望んだってもう遅いわ」

「そんな……だって……。ディリィちゃん……もう遅いって、まさか? もう新たな男と婚約済みなのか?」

「フィーノ、俺の妻にこれ以上近づくな。ディリィがそうであるように、俺も妻に他の男の影がちらつくのを許さん。フィーノ、お前はディリィの元婚約者であり、俺たちの幼馴染だ。これ以上、醜態をさらすような真似をしないでくれ」

「やっぱり、あにうえが……くそ、すぐに護衛役に決まったし、変だとは思ったんだ。あにうえの家も、ディリィちゃんのご両親も、予めこうなる事を約束していたんだね? 僕にだけ黙っていて酷いや。ディリィちゃんだって、僕に今まで隠して騙していたんだし、どうこう言う権利なんてないじゃないか」

「……周囲の思惑は単なる希望よ。わたくしは、おにいさ……ハーティを愛してしまったの。お互いに気持ちを分かち合ったのも、ついこの間よ。勿論、この場合のついこの間っていうのは、数日前って事。あなたの家にも、フィーノの約束通りの夫が決まったので、婚約解消を正式に依頼したわ。あなた個人あてにも、会いたいっていう手紙も出した。にも拘らず、女の子たちと遊び続けてこなかったのはあなたでしょう?」

「そんな……もう、ダメなのか? 僕たち、ずっと一緒にいたじゃないか……」

 ハーティあにうえが、ディリィの体をそっと抱き寄せて見つめ合う。そのふたりの間には、絶対的な不可侵の何かがあって、僕は心が凍てつくような気分でそれを見続けた。

「改めて紹介するわね。わたくしの夫になるハートゥン様よ。来年にうちに婿入りしてくださるの。ねぇ、フィーノ……わたくしたちの道は別れてしまった。でも、わたくしたち幼馴染でしょう? どうか、フィーノの奥様と一緒に、今後も交流ができたらと思っているわ」

「ディリィちゃん……」

 僕は、彼女の名前を呟くのが精一杯だった。もう、僕の手の届かない場所にいってしまった彼女。でも、今後も交流してくれるのなら、いつかきっと、形は夫婦じゃないけど、未来に愛し合う事ができるかもしれない。

「あのね、わたくし、ハーティが例の魔法を施す事を了承してくれたから、わたくしも、他とは考えられないけれど、彼ひとりと誓う魔法をかけてもらおうと思うの」

「は……? そんな事をすれば、ディリィちゃんと仲良くする機会なんてなくなるじゃないか! そんな事をしたら、白い目で見られるよ? 色んな人から遠巻きにされちゃう。ねぇ、だからさ、ディリィちゃんだけはそんな魔法をかけるのはやめたほうがいい」

「……お前みたいなのがたくさんいるからな……。俺もディリィも周囲からすれば変わり者だ。それでかまわない。体の交流がなくても、俺たちは素晴らしい家同士の繋がりを築く事ができる。現に、俺たちの話を聞いて、俺たちと同じように、たったひとりと決めた人々も少しずつ増えているんだ。フィーノだって、ディリィを独占したがってただろう? あのな、色んな人と交流するのが悪いとは言わない。だが、お互いにひとりだけと誓い合うカップルのその考えだけは否定するな」

 ハーティあにうえが言った言葉は、正直なところよくわからないし、生涯たったひとりとなんて変だと思う。でも、その考えをほかならぬディリィちゃんが持ってる。彼女を白い目でみたり、排除しようなんてこれっぽっちも思わない。

 その言葉に感動した彼女が、大きな胸に飛び込んで笑っている。あんな弾けるような幸せいっぱいの笑顔を、僕はいつから見なくなったんだろう。

 僕では、彼女を幸せにできない。

 その事が、刃となって僕を切り刻むかのように、この辛い現実をまざまざと突きつけてきたのだった。


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