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 なんだか心が落ち着かない。心配してくれているウォンやクラスメイトたちと別れて、ユーカリの木の下にやってきた。

「ユーカリさん、来年度も奨学生のまま過ごせそうです。見守ってくれて、ありがとう……」

 こんな風に楽しい一年が過ごせたのは皆のおかげだ。そして、努力が実を結び、奨学金が継続されそうでほっとする。

 父からは、一応、必要最低限の学費や生活費を貰っていた。だが、卒業すれば使った分は3倍にして返せと命令されている。そんな暴利は許されないが、親子間のことは行政は関与されないため、支払わなければ借金額が膨大になり所得を差し押さえられる。
 そしてそれは、クアドリ様と結婚しても彼らの財産を使うわけにもいかないし、嫁だからといって、個人の借金を代わりに支払っては貰えないだろう。

 わたくしが、どれほど困ってそのお金に手を付けても、父は言い分を変えないだろう。それどころか、使って将来苦労することを願っていそうだ。

「ん~~。はぁ……」

 ふぅっとため息をついて大きくのびをする。つくづく、この国に留学してよかったと思った。

 ユーカリの木の側に設置されている、いつものベンチに腰を下ろす。

 今朝届いたばかりの、手紙をスカートのポケットから出した。手紙がかさりと鳴らすその音すらも、心を逸らせ躍らせる。

 2枚重ねられたその手紙は、遠くラストーリナン国にいるクアドリからだ。

 彼らしい綺麗に綴られた文章には、優しくて誠実な気持ちが表れているようだ。胸が切なく痛みを生じるとともに、嬉しくてなんでも出来そうな気がする。
 胸にぎゅっと手紙を押し当てて目を瞑り、最後に会った彼の笑顔と、真珠の指輪をはめたすらっとした彼の左手の薬指を思い出す。

「クアドリ様……」

 手紙には、わたくしの体調を気遣う内容と、夏の長期休暇以来の、今度の帰省でのわたくしと会える日を心待ちにしていると書かれてあった。

 同封されていたリボンは彼を感じさせる美しい水色で、白い髪を三つ編みに一つ括りにした先に結んだ。そのリボンは、胸の前に左肩からさげられ、左の薬指のアクアマリンの光と重なり彼の存在を感じて胸がポカポカした。

 夏に会った時も、白い髪を見ない彼の視線を気にして、この国に来るときのように大きなつばの帽子の中にそれを隠した。
 恐る恐る彼がわたくしを見つつ、白が見えないのを確かめるとホッとするから、彼の前では帽子を外した事がない。

(白い髪は、皆から恐れられているんだもの。しょうがない。しょうがないの……)

 本音を言えば、獣人の皆のように、普通に見て近づいて触れて欲しい。だけど、この白い髪を持つ以上、人間の世界では未来永劫そんな光景はないのだ。

(名前を呼んで、こうして気遣ってくれる。それだけで、わたくしは……)

「もうすぐ、会える……」

(あの家にはない。卒業しても、あの家付近だけは近づきたくない。だけど、クアドリ様にひとめでも会いたいから。だから、行こう……行って、彼に会ったら、すぐにこっちに……)

 左手を、ユーカリの葉ごしにこぼれ落ちる太陽の煌めきに向ける。わたくしはそこにある、美しいアクアマリンの輝きに目を細めて、婚約者の顔を思い浮かべたのであった。
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