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ご要望が数名からあったのでカインのボツネタのその後を入れてます↓の記号のあとです。
アネト様から招待されたのでやって来たのは、エリート魔法使いたちの研究所だ。うっかり扉を開くと、何が起こるかわからない実験がそこかしこで行われいるらしい。
今日のために、アネト様が魔王討伐の旅の間、お好きだったお菓子を持って来た。ミルク風味のヨーグルトベースのスイーツでゲテには甘く煮たパイナップルを、ガリにはローストしたアーモンドをトッピングしている。庶民の食べるものだから、貴族は見た事がなかったみたい。
甘すぎるスイーツだけど、珍しさもあってか旅を一緒に続けた皆さんに喜ばれた品だ。聖女様は干しブドウを乗せたガリがすごく気に入ってくださった。お姫様が私の料理を美味しいと言いながら食べてくれるなんて、とても光栄で誇らしい気持になったのも今ではいい思い出だ。
「やあ、ふたりともよく来てくれたね!」
「相変わらず気味の悪い場所だな。こんなところに俺の妻を呼んで何が目的だ」
「ルゥ、お前ときたら素直じゃないな。私と会える喜びを照れて誤魔化さなくていいのに」
「照れてもないし、喜んでいない」
「あなたったら。ふふふ、アネト様、お久しぶりです。いつもお二人はとても仲がいいので羨ましいです」
アネト様に連れられて、棚にかわいいグッズが並べられている応接室に通された。リボンやハート、うさぎの耳を模したもの、卵の形をしたものや、白と赤、白と青、白と黒のストライプのシリーズものっぽいアイテムがあった。でこぼこした太い棒や丸い玉が連なった大きなネックレスみたいなのもあって、知らない魔法の道具がいっぱいあるんだなって興味を引かれて見ていると、ルゥが魔法を使って棚ごとそれらを部屋から消した。
「わああ! 貴重なサンプルをおおおお! ルゥ、お前な!」
「客を通す場所には似つかわしくないから適切な場所に転移させただけだ。転移先は焼却炉という名の特別室だから安心しろ」
「ぎゃー! 俺の商売道具がー! お前な、あれがひとついくらするのか分かってるのか?」
「知らん。だが、ビスキィが尊敬する魔法使いの鑑であるアネト様なら、はした金だし寛大に許して下さるだろう?」
「ぐ……」
いつだって冷静沈着でスマートなアネト様の、こういった子供っぽい言動はルゥさんと一緒にいる時だけっぽい。素晴らしい魔法使いである完全無欠なアネト様も、信頼しあった親友のルゥと過ごすこうした時間は楽しいのだろう。
幸い、焼却炉は点火されていなかったので、サンプルは無事だったようで安心した。
「あなたったら。悪戯もほどほどにしてね? 偉大なアネト様の研究なのでしょう? 人々を幸せにするための道具が無くなっていたら大変だわ」
「ビスキィちゃん……私の崇高なる研究を理解してくれるのは君だけだよ」
「アネト様、ルゥがやりすぎてごめんなさい。どうぞ、これからも人々の未来のために力を尽くしてくださいませね」
そう言って、夫のやり過ぎた行動を嗜めると、ルゥが苦虫を嚙み潰したような表情をして、私には聞こえないように何かを呟いた。『あれらが、淫らな行為のためのサンプルなどとビスキィには想像もつかないんだろうな……。一生知らなくていい』
何を言ったのか聞くと、アネト様とルゥがふたりで誤魔化すように話を変えた。
今日、ここに呼ばれた理由を聞くと、なんとも言えない気持ちになった。
アネト様が、私の髪と同じ色を持つ壮年期の男性を他国で見かけたらしい。私と関係があるのかどうかはともかくとして、その方は一時期この国にいたようだ。ひょっとしたら、行方知れずの私のお父さんじゃないかと思い、伝えるかどうか悩んでくれていたみたい。
ただ、天涯孤独で寂しい思いをしている私に、お父さんじゃなくても、関係のある人がいるのなら喜ぶかもしれないし、私の気持ちを聞くほうがいいと思ったのだそうだ。
アネト様にも、私が古代魔法を使う事や、例の国の血筋をひくかもしれない事は秘密にしている。私の髪の色はとても珍しい。私以外に、太陽の光を浴びて虹色に輝くこの髪を持つ人なんて、未だかつて見た事がないから、ひょっとしたら、この髪も、失われた国の生き残りだという事を示す重要な手がかりだったのかもしれない。
その男の人は私と会いたいと言っているようだ。ただ、私の意見も聞く必要があるから、返答を待ってくれているという。
その人は、世界中を旅する冒険者で、この国に一時期いたそうだ。長く一つの所にとどまる事を好まず、今いる国が食料不足に苛まれたためにその人の魔法と技術で人助けをしていたらしい。いずれこの国のその女性の元に帰るつもりが、気が付けば今に至った。
突然の事で、混乱する。どうすればいいのかわからず、助けを求めるようにルゥの顔を見上げたけれど、彼は何も言わなかった。だけど、不安にかられた私の手を覆ってくれた。彼の気持ちが伝わってくると、正体不明の怖い気持が和らいでいく。
私が自分で考えて答えを出さなきゃいけない。
ルゥと一緒に暮らすようになり、カインのお母さんの言いつけを守りひっつめていた髪を降ろすようになった。今は、見た人に珍しがられるけれど、それを隠すように言う人なんていない。アネト様以外にも、同じように考える人がこの先現れる可能性だってある。
色々ごちゃごちゃと考えがまとまらないけど、私がその人に会いたいと思った。
後日、アネト様の紹介でその人に会った。すると、お父さんじゃなかった。やっぱり、心のどこかでお父さんに会えるって期待していたからショックで涙が零れる。
残念ながら、私とは血縁関係はなかったけれど、その人はルゥの推測通り失われた国の末裔だという。私もそうだと言われた。同じ祖先をもつ人々は、あまりいないけれど世界に散らばっているとの事。
ひと昔前は、ルゥが危惧したような酷い扱いをされる人もいたけれど、今は少しずつ人口も増えてそれほど重要な種族として扱われていないと聞いた。アネト様からは、私の持つイレースの魔法についてはすでに解明されているし、公になっても問題ないそうで、もっと早くに言って欲しかったと言われた。
なんだか、拍子抜けしてしまった私とルゥは顔を見合わせて大笑いしたのであった。
その人の固有の魔法はバイブレーションという。その魔法で、土を耕して空気を含ませたり、患部の治療やデトックスなどといった医療など、様々な方面で運用されている。特にアネト様の研究では、その魔法が欠かせないらしくて、今後もずっとお付き合いがあるため、その縁で私とも定期的に交流するようになった。
私のイレースは、毒の排除といったとても有用な使い方もできるから、誤って口にしてしまった毒の除去は勿論のこと、土に含まれすぎた塩分や有害物質を無くしたりと、アネト様とその男性を通じて人々の役に立つ仕事の手伝いをするようになった。
「ビスキィ、仕事のしすぎだ」
「ルゥ……私ね、今までなんの役にも立たない女の子だと思っていたの。何をしても否定されていたし。でも、ルゥに会って、そのままの私でも愛されるという幸せを貰ったわ。そんな私でも人の役に立つ事ができる事があるのが嬉しくて。私も、ルゥやアネト様たちのようにとまではいかなくても、誰かを笑顔にする事が出来たらって思うの」
「そうか」
私が興奮して今の気持ちをルゥに伝えると、さっと体を抱きかかえられた。
「だがな。今はビスキィにしかできない事があるだろ?」
そう言いながら、まだ膨らんでもいないけど、お腹の中ですくすく育っている赤ちゃんを撫でるように、お腹に手を当てられた。
「うん」
「これから寒くなるし、無茶しすぎてビスキィとこの子の身に何かが起こったらと思うと心配なんだ。まずは、俺とこの子を笑顔にすることを考えて欲しい」
「うん!」
ルゥが嬉しい事を言ってくれたから、彼の逞しい首筋にしがみ付いた。彼なら、私が突然体勢を変えてもバランスを崩す事はない。
彼こそ、私を笑顔にしてくれる名人だ。私は、幸せいっぱいの笑顔で、彼に今日も愛を伝える言葉を囀るのだった。
明日で完結です。次回は、ここから先を読まれた方の口直しになれば嬉しいです。
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※
キシロの突然の思いつきに付き合わされるのは、これでもう何回目だろうか。俺だけでなく、周囲の人間も彼女に振り回されっぱなしなのだが、キシロは純粋に自分が望むがまま生きている。そうであるべき存在で、周囲は彼女の意に沿うように行動しなければならない。
「カイン様、どうなさったの? ふふふ」
「キシロ……、なんでもないよ。いや、知り合いに似ていたんだが気のせいだったみたいだ」
幸せな時間を思い出させる見事に輝くふんわりとした黄金の髪を、階段の途中で見かけた。隣に聖女であり勇者がこの世でたった一人溺愛している妻がいるのに、他の女に視線を向かうのは俺には許されていない。
小さな頃は、太陽に輝くその金色の髪がきらきらしていた。大きくなると、俺の母さんにはしたないと言われて、その髪はきつく結い上げられてしまい自由に煌めくのを見る事ができなくなっていた。残念だと思いつつも、周囲の男達の彼女への興味を無くさせるにはちょうどいいと放置していた。
ビスカス……
魔の森で事故で亡くなった俺の本来の妻を思い出す。俺がヘマをやらかしたばかりに、犠牲になった俺の大切な人。
勿論、そんな気持ちは微塵も出せない。キシロの美しい顔を見て、愛しいのはキシロだけであり、キシロしか目に映らないとばかりに微笑む。キシロの事は好きだ。だが、ここまで彼女だけに縛られる人生になるなんて、俺は望んでいなかった。助けてくれる人など誰もいない。
聖女が悲しむと国が亡ぶ。こんな話、誇張された伝説だと思っていた。だから、微塵も信じていなかったそれが本当だと知らされた時に、『終わった……』と思った。すでにキシロに誘われるがまま体を何度も開いて楽しんだ後だったから。
貴族や王族は、男とほどほどに遊ぶ。平民よりも案外乱れているんだなって思ったのは、旅に出て暫くしてから。キシロの侍女のひとりに言い寄られ、股間を取り出され舐られた。令嬢がこんな事をするのかと俺は驚愕したが、あっという間に肉欲に支配され堕ちた。
そこからは、日替わりのように女を抱いた。ビスカスとはいずれ結婚するから、それまでの間は自由に遊ぼうと気軽に思っていたんだ。貴族の綺麗な女を抱く事で、なんとなく優位に立てる自分に酔っていたのである。
そんなある日、キシロが城を離れて辛そうにしているのを見て、俺が守ってやらなくてはならないと、変な使命感が沸いた。最初はそうだった。
頭が足らなかったとはいえ、この国の王女様の美しさに惹かれ手を伸ばした過去の俺を殴りつけたい。戻れるのなら戻ってやりなおしたい。
朝から就寝の時間どころか、寝むっている間まで、キシロのためだけに行動し、キシロの事しか考えてはいけない生活は、豪奢で贅沢ではあったが牢獄だった。王女と結婚して仕事をしなくていいなんて羨ましがられるが、だったら俺と変わってくれと思う。
たまにはハメをはずして遊んでみたいとも思う。女遊びだけじゃなく、普通に男たちと遊ぶものまで制限される毎日になろうとは思わなかった。キシロがただのお姫様だったのなら、ここまで行動を監視と管理をされなかっただろう。
キシロが望めば、俺はすぐにキシロの側にいなければならない。俺の妻が、他の男とデートがしたいと言えば、人の目には俺とデートをしていると見せかけつつ、実際は護衛役としていて、妻が火遊びをするのを見守らなければならないなんて。
俺の感情や尊厳は、キシロの人生には必要がない。ただ、彼女のために愛を囁き、彼女の新たな恋を応援し、彼女のためなら命を投げ出すだけでいい。
屈辱的な毎日から逃れたくても、妻に俺以外の男と遊ぶのはやめて欲しいと伝えても、それが当然である妻は何が悪いのか分かっていないようだった。全く理解してくれはしなかったし、周囲がそれを許してはくれなかった。
もしも彼女が、俺をいらないと言えば、瞬く間に捨てられる。そんな、もろい砂上の城で暮らす愚かな男が今の俺だ。せめてもの救いは産まれて来た子が本当に俺の子だった事だけ。
魔物との闘いの日々、魔王を討伐するまでの間は、聖女の彼女と一緒にいる事で日常を忘れる事ができた。柔らかくて華奢な肢体を抱きしめて、最上級の女に溺れた。
ビスカスは、俺がそんな風に美しい王族の女性を虜にしている勇者だというのに小言ばかり。味付けの合わない料理を出される事なんて片手ほどだったのに、単なるその辺の男と同じように扱う彼女が鬱陶しかった。だから、事ある毎に彼女を落した。当時は、聖女と恋の遊びをする事も、ビスカスを傷つける事も悪いなんて気持ちはなかった。
母さんが言っていた、『すぐにでも捨ててしまえる都合のいい孤児の女を嫁にしてやるんだから、なんでもいう事を聞いて当たり前だ』という言葉を信じ切っていたのもある。
母さんと父さんは俺に内緒でされた調査の結果、聖女のためにならないとされ、二度と会う事がない。せめて、遠くから元気な姿を見に行きたいと願っても許してはもらえなかった。
キシロに似たかわいい娘が産まれて成長を見守って来た今、成長した娘をビスカスのように扱う男やその母親がいたら絶対に許さないだろう。
当時にはどうしてそう考えられなかったのか。しかも、キシロだけならともかく、騎士団長や侍女頭始め、聖女様の幸せを願う大人たちの目をかいくぐって、ビスカスを愛人にしようだなどと当たり前のように下衆な考えを持っていたのが信じられない。
平民では一生この区画に立ち入る事すらできない高級レストランの料理よりも、俺にはビスカスの作った野菜のスープが恋しい。
ビスカス、もう一度生まれ変わったのなら、今度こそお前を大切にして一生添いとげたいと願いながら、味のしない口に入れるだけで蕩けるステーキを噛んだ。
ご要望が数名からあったので載せたものの。こいつは生まれ変わっても、ぜーーーーーったいに改心しないし繰り返すし、ビスカスに半径5000キロ近づくなと思うキャラです。あるあるいるいる、欲望に忠実な男の子でございます。
聖女は、良くも悪くも純粋培養なので、このまま一生幸せに暮らすのです。
アネト様から招待されたのでやって来たのは、エリート魔法使いたちの研究所だ。うっかり扉を開くと、何が起こるかわからない実験がそこかしこで行われいるらしい。
今日のために、アネト様が魔王討伐の旅の間、お好きだったお菓子を持って来た。ミルク風味のヨーグルトベースのスイーツでゲテには甘く煮たパイナップルを、ガリにはローストしたアーモンドをトッピングしている。庶民の食べるものだから、貴族は見た事がなかったみたい。
甘すぎるスイーツだけど、珍しさもあってか旅を一緒に続けた皆さんに喜ばれた品だ。聖女様は干しブドウを乗せたガリがすごく気に入ってくださった。お姫様が私の料理を美味しいと言いながら食べてくれるなんて、とても光栄で誇らしい気持になったのも今ではいい思い出だ。
「やあ、ふたりともよく来てくれたね!」
「相変わらず気味の悪い場所だな。こんなところに俺の妻を呼んで何が目的だ」
「ルゥ、お前ときたら素直じゃないな。私と会える喜びを照れて誤魔化さなくていいのに」
「照れてもないし、喜んでいない」
「あなたったら。ふふふ、アネト様、お久しぶりです。いつもお二人はとても仲がいいので羨ましいです」
アネト様に連れられて、棚にかわいいグッズが並べられている応接室に通された。リボンやハート、うさぎの耳を模したもの、卵の形をしたものや、白と赤、白と青、白と黒のストライプのシリーズものっぽいアイテムがあった。でこぼこした太い棒や丸い玉が連なった大きなネックレスみたいなのもあって、知らない魔法の道具がいっぱいあるんだなって興味を引かれて見ていると、ルゥが魔法を使って棚ごとそれらを部屋から消した。
「わああ! 貴重なサンプルをおおおお! ルゥ、お前な!」
「客を通す場所には似つかわしくないから適切な場所に転移させただけだ。転移先は焼却炉という名の特別室だから安心しろ」
「ぎゃー! 俺の商売道具がー! お前な、あれがひとついくらするのか分かってるのか?」
「知らん。だが、ビスキィが尊敬する魔法使いの鑑であるアネト様なら、はした金だし寛大に許して下さるだろう?」
「ぐ……」
いつだって冷静沈着でスマートなアネト様の、こういった子供っぽい言動はルゥさんと一緒にいる時だけっぽい。素晴らしい魔法使いである完全無欠なアネト様も、信頼しあった親友のルゥと過ごすこうした時間は楽しいのだろう。
幸い、焼却炉は点火されていなかったので、サンプルは無事だったようで安心した。
「あなたったら。悪戯もほどほどにしてね? 偉大なアネト様の研究なのでしょう? 人々を幸せにするための道具が無くなっていたら大変だわ」
「ビスキィちゃん……私の崇高なる研究を理解してくれるのは君だけだよ」
「アネト様、ルゥがやりすぎてごめんなさい。どうぞ、これからも人々の未来のために力を尽くしてくださいませね」
そう言って、夫のやり過ぎた行動を嗜めると、ルゥが苦虫を嚙み潰したような表情をして、私には聞こえないように何かを呟いた。『あれらが、淫らな行為のためのサンプルなどとビスキィには想像もつかないんだろうな……。一生知らなくていい』
何を言ったのか聞くと、アネト様とルゥがふたりで誤魔化すように話を変えた。
今日、ここに呼ばれた理由を聞くと、なんとも言えない気持ちになった。
アネト様が、私の髪と同じ色を持つ壮年期の男性を他国で見かけたらしい。私と関係があるのかどうかはともかくとして、その方は一時期この国にいたようだ。ひょっとしたら、行方知れずの私のお父さんじゃないかと思い、伝えるかどうか悩んでくれていたみたい。
ただ、天涯孤独で寂しい思いをしている私に、お父さんじゃなくても、関係のある人がいるのなら喜ぶかもしれないし、私の気持ちを聞くほうがいいと思ったのだそうだ。
アネト様にも、私が古代魔法を使う事や、例の国の血筋をひくかもしれない事は秘密にしている。私の髪の色はとても珍しい。私以外に、太陽の光を浴びて虹色に輝くこの髪を持つ人なんて、未だかつて見た事がないから、ひょっとしたら、この髪も、失われた国の生き残りだという事を示す重要な手がかりだったのかもしれない。
その男の人は私と会いたいと言っているようだ。ただ、私の意見も聞く必要があるから、返答を待ってくれているという。
その人は、世界中を旅する冒険者で、この国に一時期いたそうだ。長く一つの所にとどまる事を好まず、今いる国が食料不足に苛まれたためにその人の魔法と技術で人助けをしていたらしい。いずれこの国のその女性の元に帰るつもりが、気が付けば今に至った。
突然の事で、混乱する。どうすればいいのかわからず、助けを求めるようにルゥの顔を見上げたけれど、彼は何も言わなかった。だけど、不安にかられた私の手を覆ってくれた。彼の気持ちが伝わってくると、正体不明の怖い気持が和らいでいく。
私が自分で考えて答えを出さなきゃいけない。
ルゥと一緒に暮らすようになり、カインのお母さんの言いつけを守りひっつめていた髪を降ろすようになった。今は、見た人に珍しがられるけれど、それを隠すように言う人なんていない。アネト様以外にも、同じように考える人がこの先現れる可能性だってある。
色々ごちゃごちゃと考えがまとまらないけど、私がその人に会いたいと思った。
後日、アネト様の紹介でその人に会った。すると、お父さんじゃなかった。やっぱり、心のどこかでお父さんに会えるって期待していたからショックで涙が零れる。
残念ながら、私とは血縁関係はなかったけれど、その人はルゥの推測通り失われた国の末裔だという。私もそうだと言われた。同じ祖先をもつ人々は、あまりいないけれど世界に散らばっているとの事。
ひと昔前は、ルゥが危惧したような酷い扱いをされる人もいたけれど、今は少しずつ人口も増えてそれほど重要な種族として扱われていないと聞いた。アネト様からは、私の持つイレースの魔法についてはすでに解明されているし、公になっても問題ないそうで、もっと早くに言って欲しかったと言われた。
なんだか、拍子抜けしてしまった私とルゥは顔を見合わせて大笑いしたのであった。
その人の固有の魔法はバイブレーションという。その魔法で、土を耕して空気を含ませたり、患部の治療やデトックスなどといった医療など、様々な方面で運用されている。特にアネト様の研究では、その魔法が欠かせないらしくて、今後もずっとお付き合いがあるため、その縁で私とも定期的に交流するようになった。
私のイレースは、毒の排除といったとても有用な使い方もできるから、誤って口にしてしまった毒の除去は勿論のこと、土に含まれすぎた塩分や有害物質を無くしたりと、アネト様とその男性を通じて人々の役に立つ仕事の手伝いをするようになった。
「ビスキィ、仕事のしすぎだ」
「ルゥ……私ね、今までなんの役にも立たない女の子だと思っていたの。何をしても否定されていたし。でも、ルゥに会って、そのままの私でも愛されるという幸せを貰ったわ。そんな私でも人の役に立つ事ができる事があるのが嬉しくて。私も、ルゥやアネト様たちのようにとまではいかなくても、誰かを笑顔にする事が出来たらって思うの」
「そうか」
私が興奮して今の気持ちをルゥに伝えると、さっと体を抱きかかえられた。
「だがな。今はビスキィにしかできない事があるだろ?」
そう言いながら、まだ膨らんでもいないけど、お腹の中ですくすく育っている赤ちゃんを撫でるように、お腹に手を当てられた。
「うん」
「これから寒くなるし、無茶しすぎてビスキィとこの子の身に何かが起こったらと思うと心配なんだ。まずは、俺とこの子を笑顔にすることを考えて欲しい」
「うん!」
ルゥが嬉しい事を言ってくれたから、彼の逞しい首筋にしがみ付いた。彼なら、私が突然体勢を変えてもバランスを崩す事はない。
彼こそ、私を笑顔にしてくれる名人だ。私は、幸せいっぱいの笑顔で、彼に今日も愛を伝える言葉を囀るのだった。
明日で完結です。次回は、ここから先を読まれた方の口直しになれば嬉しいです。
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キシロの突然の思いつきに付き合わされるのは、これでもう何回目だろうか。俺だけでなく、周囲の人間も彼女に振り回されっぱなしなのだが、キシロは純粋に自分が望むがまま生きている。そうであるべき存在で、周囲は彼女の意に沿うように行動しなければならない。
「カイン様、どうなさったの? ふふふ」
「キシロ……、なんでもないよ。いや、知り合いに似ていたんだが気のせいだったみたいだ」
幸せな時間を思い出させる見事に輝くふんわりとした黄金の髪を、階段の途中で見かけた。隣に聖女であり勇者がこの世でたった一人溺愛している妻がいるのに、他の女に視線を向かうのは俺には許されていない。
小さな頃は、太陽に輝くその金色の髪がきらきらしていた。大きくなると、俺の母さんにはしたないと言われて、その髪はきつく結い上げられてしまい自由に煌めくのを見る事ができなくなっていた。残念だと思いつつも、周囲の男達の彼女への興味を無くさせるにはちょうどいいと放置していた。
ビスカス……
魔の森で事故で亡くなった俺の本来の妻を思い出す。俺がヘマをやらかしたばかりに、犠牲になった俺の大切な人。
勿論、そんな気持ちは微塵も出せない。キシロの美しい顔を見て、愛しいのはキシロだけであり、キシロしか目に映らないとばかりに微笑む。キシロの事は好きだ。だが、ここまで彼女だけに縛られる人生になるなんて、俺は望んでいなかった。助けてくれる人など誰もいない。
聖女が悲しむと国が亡ぶ。こんな話、誇張された伝説だと思っていた。だから、微塵も信じていなかったそれが本当だと知らされた時に、『終わった……』と思った。すでにキシロに誘われるがまま体を何度も開いて楽しんだ後だったから。
貴族や王族は、男とほどほどに遊ぶ。平民よりも案外乱れているんだなって思ったのは、旅に出て暫くしてから。キシロの侍女のひとりに言い寄られ、股間を取り出され舐られた。令嬢がこんな事をするのかと俺は驚愕したが、あっという間に肉欲に支配され堕ちた。
そこからは、日替わりのように女を抱いた。ビスカスとはいずれ結婚するから、それまでの間は自由に遊ぼうと気軽に思っていたんだ。貴族の綺麗な女を抱く事で、なんとなく優位に立てる自分に酔っていたのである。
そんなある日、キシロが城を離れて辛そうにしているのを見て、俺が守ってやらなくてはならないと、変な使命感が沸いた。最初はそうだった。
頭が足らなかったとはいえ、この国の王女様の美しさに惹かれ手を伸ばした過去の俺を殴りつけたい。戻れるのなら戻ってやりなおしたい。
朝から就寝の時間どころか、寝むっている間まで、キシロのためだけに行動し、キシロの事しか考えてはいけない生活は、豪奢で贅沢ではあったが牢獄だった。王女と結婚して仕事をしなくていいなんて羨ましがられるが、だったら俺と変わってくれと思う。
たまにはハメをはずして遊んでみたいとも思う。女遊びだけじゃなく、普通に男たちと遊ぶものまで制限される毎日になろうとは思わなかった。キシロがただのお姫様だったのなら、ここまで行動を監視と管理をされなかっただろう。
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俺の感情や尊厳は、キシロの人生には必要がない。ただ、彼女のために愛を囁き、彼女の新たな恋を応援し、彼女のためなら命を投げ出すだけでいい。
屈辱的な毎日から逃れたくても、妻に俺以外の男と遊ぶのはやめて欲しいと伝えても、それが当然である妻は何が悪いのか分かっていないようだった。全く理解してくれはしなかったし、周囲がそれを許してはくれなかった。
もしも彼女が、俺をいらないと言えば、瞬く間に捨てられる。そんな、もろい砂上の城で暮らす愚かな男が今の俺だ。せめてもの救いは産まれて来た子が本当に俺の子だった事だけ。
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ビスカスは、俺がそんな風に美しい王族の女性を虜にしている勇者だというのに小言ばかり。味付けの合わない料理を出される事なんて片手ほどだったのに、単なるその辺の男と同じように扱う彼女が鬱陶しかった。だから、事ある毎に彼女を落した。当時は、聖女と恋の遊びをする事も、ビスカスを傷つける事も悪いなんて気持ちはなかった。
母さんが言っていた、『すぐにでも捨ててしまえる都合のいい孤児の女を嫁にしてやるんだから、なんでもいう事を聞いて当たり前だ』という言葉を信じ切っていたのもある。
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当時にはどうしてそう考えられなかったのか。しかも、キシロだけならともかく、騎士団長や侍女頭始め、聖女様の幸せを願う大人たちの目をかいくぐって、ビスカスを愛人にしようだなどと当たり前のように下衆な考えを持っていたのが信じられない。
平民では一生この区画に立ち入る事すらできない高級レストランの料理よりも、俺にはビスカスの作った野菜のスープが恋しい。
ビスカス、もう一度生まれ変わったのなら、今度こそお前を大切にして一生添いとげたいと願いながら、味のしない口に入れるだけで蕩けるステーキを噛んだ。
ご要望が数名からあったので載せたものの。こいつは生まれ変わっても、ぜーーーーーったいに改心しないし繰り返すし、ビスカスに半径5000キロ近づくなと思うキャラです。あるあるいるいる、欲望に忠実な男の子でございます。
聖女は、良くも悪くも純粋培養なので、このまま一生幸せに暮らすのです。
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