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悪女はもういないのです
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結局、ルゥの新居を安易に私には見せるなとご両親が言ったらしい。で、ご両親が現地に確認に行ったところ、その家に住むのは延期になった。どうやら、ご両親が一目見るなりルゥの家をぶっ壊したらしい。
一体、どんな家だったんだろう?
お義父さんは、男としてはわからんでもないが、流石に新居には相応しくないと言い、
お義母さんは、あんな家、有り得ない。あれは、決して見てはならないのよとブツブツ呟いていた。
ルゥは、時間がなかったから満足のいく家にならなかったんだと叫んで、ご両親の措置に納得しなかったけど、話を聞いてかけつけた義兄姉さんたちからも、彼は懇々と説教される始末。
私が、次にルゥが作ってくれる家を気に入ったら大丈夫ですよね? って言ったら。
お義母さんから、いくら私でも、絶対にルゥを見放してしまう。それだけはやめて欲しいと泣いて懇願されたから、私はルゥが作る家を一生見る事はないと思う。
とはいえ、新居は出来ていないけれど、いつ子供が出来てもおかしくない状況だ。ロッジでは何かあっては大変だし、新居は義両親が準備するから、それまでの間ルゥの実家でお世話になる事になった。
順番が逆になったと、ルゥだけがお義父さんに呼ばれて形ばかりの苦言を呈されたみたい。その後、早く孫が見たいと言われたらしい。
結婚式は、私の身内がいないので、彼の家の庭で行った。
身近な人たちが集まってくれた。ルゥのご兄姉は8人いて、跡継ぎのお義兄さん以外はそれぞれ結婚して独立している。
澄んだ青い空は、どこまでも抜けるように高く、太陽が優しく私たちに降り注ぐ。
そんな穏やかな日に、こじんまりとした、だけど華やかで立派な結婚式を挙げて貰えて、沢山の家族が出来て嬉しく思った。こんな風に幸せな日が訪れたのも、ルゥと出会えた奇跡があったから。
天国にいるお母さんにも、消息不明のお父さんにも晴れ姿を見て欲しかったけど、今もきっと見守ってくれてるよね?
式の間、私が感激のあまりわんわん泣くものだから、ルゥが慌てて私を抱っこして慰めてくれた。
社交界には意地悪な人もいるらしいし、万が一にも私がビスカスだと世間に知られたら大騒動になる。だから、ルゥと私はほとんど家で過ごす事になった。
ルゥのご家族には、私が噂の悪女だときちんと伝えてある。
暗黙の了解というか、公では勇者を誑かした女として知られているけれど、真実を知っている人の口の扉は閉じてばかりではない。真相を予め知っていたみたいで、被害者の立場である私を、表立って庇う事は出来ない事を謝罪された。他にも、知っている貴族は大勢いるらしい。
外部に私の存在が知られないように、ルゥのご家族が私を守ってくれているし、偶然にもアネト様の守護魔法のおかげで悪女とは容姿が違うから、外出するのにほとんど支障はなかった。
私にはルゥがいる。アネト様という頼もしい協力者がいて、優しい新しい家族が出来た。それだけで充分だった。
平和そのものの日常を過ごしていたある日、私はルゥと観劇をする予定で出かけた。貴族たちが多くいる高級レストランで、食事を楽しんでいると、お忍びで聖女様と勇者様が来ると人々が騒めきだす。
「ち……間の悪い。お忍びとはいえ、父上たちの耳に全く入っていないと言うことは、本当に聖女様あたりの気まぐれで急遽決まったんだろう。ビスキィ、食事の途中だが出ようか」
どうやら、王族とかのお忍びというのは数日前から周知徹底されていて、厳重な警戒態勢が取られているから、私が考えているような気軽なお忍びではないみたい。それってお忍びっていえるのかなって疑問に思う。計画的な行動だよねってルゥに聞くと、そうだなって苦笑された。
ルゥやお義父さんが、そういった情報を事前にキャッチして絶対に鉢合わせしないようにしてくれていたから、王都にいるのに、今まで私は聖女様やカインと会う事はなかったのかと得心した。
「う、うん」
カインにだけは、私の本当の髪の色や姿形を知られている。一目見られたら気づかれるだろう。
「あ……」
今、私たちがいるのは二階だ。出て行くのに階段を降りなければならない。ルゥに手を取られて階段を降り始めた時、聖女様とカインの姿が入り口に見えた。
周囲の空気がキラキラと輝き神の祝福を得た美しい聖女様と、世界の英雄である勇者カインは、並んでいるとお似合いの美男美女だ。子供も無事に産まれたと聞いている。元気な女の子らしい。聖女様と勇者の血をひく、この国の宝物のような存在だ。きっと、成長したら世界一の美女になるだろうと言われている。
カインと再会したら、胸が苦しくなるのかなって思った時もあった。涙が出て、駆け寄って恨み言を言ってみたいなんて馬鹿げた考えを持っていた過去が、はるか遠い昔のよう。
心の中は、不思議なほど凪いでいて波紋ひとつ起こっていない。
ただ、私の心の中には、懐かしさだけがこみ上げてくる。幸せそうなふたりの表情を見て自然と笑みがこぼれた。
騎士団長さんが、護衛として付き従っている。彼と侍女頭さんから貰ったお守りは、今も大事にしている。
ふと、カインがこちらを見た気がした。
私だと気づかれてしまうだろうかとドキっとした。視線が合うか合わないかの刹那、すっと彼の瞳が聖女様に戻り、幸せそうに目を細めた。
噂で聞くだけでなく、カインは聖女様に誠実に接していて、本当に大事にしているのが遠目からも分かる。
「お幸せに……」
あの時は、悲しくて辛くて、でも一生懸命自分を奮い立たせて虚勢を張り、願っていた言葉が自然と唇から零れた。
ルゥが、きゅっと私の手をつかむ。私は、私だけの人だけを見上げた。すると、心配そうな赤い瞳がそこにあった。
私が大好きになって、愛する人はこの人だけ。
「ビスキィ、行こう」
あの日、ビスキィとして生まれ変わった私は、本当の意味で、今ようやく過去と決別できたのかもしれない。
これからの一生の中で、ビスキィと一番多く呼んでくれる人の大きな手をしっかり掴むと、彼もまた、離さないと言わんばかりに握り返してくれた。
私は、ありったけの想いを込めて、指と視線を絡ませる。
「ええ。ルゥ、愛しているわ」
すると、少し驚いた顔をした彼もまた、私にこう言ってくれるのだ。
「俺のほうが、もっと愛している」
R18 勇者のパーティを追い出されて行き倒れた私を、婚約者に捨てられ家を破壊された大男が助けてくれました ──完
これにて本編完結です。お付き合いありがとうございました。明日、番外編でコメディありのらぶらぶR回を上げます。
一体、どんな家だったんだろう?
お義父さんは、男としてはわからんでもないが、流石に新居には相応しくないと言い、
お義母さんは、あんな家、有り得ない。あれは、決して見てはならないのよとブツブツ呟いていた。
ルゥは、時間がなかったから満足のいく家にならなかったんだと叫んで、ご両親の措置に納得しなかったけど、話を聞いてかけつけた義兄姉さんたちからも、彼は懇々と説教される始末。
私が、次にルゥが作ってくれる家を気に入ったら大丈夫ですよね? って言ったら。
お義母さんから、いくら私でも、絶対にルゥを見放してしまう。それだけはやめて欲しいと泣いて懇願されたから、私はルゥが作る家を一生見る事はないと思う。
とはいえ、新居は出来ていないけれど、いつ子供が出来てもおかしくない状況だ。ロッジでは何かあっては大変だし、新居は義両親が準備するから、それまでの間ルゥの実家でお世話になる事になった。
順番が逆になったと、ルゥだけがお義父さんに呼ばれて形ばかりの苦言を呈されたみたい。その後、早く孫が見たいと言われたらしい。
結婚式は、私の身内がいないので、彼の家の庭で行った。
身近な人たちが集まってくれた。ルゥのご兄姉は8人いて、跡継ぎのお義兄さん以外はそれぞれ結婚して独立している。
澄んだ青い空は、どこまでも抜けるように高く、太陽が優しく私たちに降り注ぐ。
そんな穏やかな日に、こじんまりとした、だけど華やかで立派な結婚式を挙げて貰えて、沢山の家族が出来て嬉しく思った。こんな風に幸せな日が訪れたのも、ルゥと出会えた奇跡があったから。
天国にいるお母さんにも、消息不明のお父さんにも晴れ姿を見て欲しかったけど、今もきっと見守ってくれてるよね?
式の間、私が感激のあまりわんわん泣くものだから、ルゥが慌てて私を抱っこして慰めてくれた。
社交界には意地悪な人もいるらしいし、万が一にも私がビスカスだと世間に知られたら大騒動になる。だから、ルゥと私はほとんど家で過ごす事になった。
ルゥのご家族には、私が噂の悪女だときちんと伝えてある。
暗黙の了解というか、公では勇者を誑かした女として知られているけれど、真実を知っている人の口の扉は閉じてばかりではない。真相を予め知っていたみたいで、被害者の立場である私を、表立って庇う事は出来ない事を謝罪された。他にも、知っている貴族は大勢いるらしい。
外部に私の存在が知られないように、ルゥのご家族が私を守ってくれているし、偶然にもアネト様の守護魔法のおかげで悪女とは容姿が違うから、外出するのにほとんど支障はなかった。
私にはルゥがいる。アネト様という頼もしい協力者がいて、優しい新しい家族が出来た。それだけで充分だった。
平和そのものの日常を過ごしていたある日、私はルゥと観劇をする予定で出かけた。貴族たちが多くいる高級レストランで、食事を楽しんでいると、お忍びで聖女様と勇者様が来ると人々が騒めきだす。
「ち……間の悪い。お忍びとはいえ、父上たちの耳に全く入っていないと言うことは、本当に聖女様あたりの気まぐれで急遽決まったんだろう。ビスキィ、食事の途中だが出ようか」
どうやら、王族とかのお忍びというのは数日前から周知徹底されていて、厳重な警戒態勢が取られているから、私が考えているような気軽なお忍びではないみたい。それってお忍びっていえるのかなって疑問に思う。計画的な行動だよねってルゥに聞くと、そうだなって苦笑された。
ルゥやお義父さんが、そういった情報を事前にキャッチして絶対に鉢合わせしないようにしてくれていたから、王都にいるのに、今まで私は聖女様やカインと会う事はなかったのかと得心した。
「う、うん」
カインにだけは、私の本当の髪の色や姿形を知られている。一目見られたら気づかれるだろう。
「あ……」
今、私たちがいるのは二階だ。出て行くのに階段を降りなければならない。ルゥに手を取られて階段を降り始めた時、聖女様とカインの姿が入り口に見えた。
周囲の空気がキラキラと輝き神の祝福を得た美しい聖女様と、世界の英雄である勇者カインは、並んでいるとお似合いの美男美女だ。子供も無事に産まれたと聞いている。元気な女の子らしい。聖女様と勇者の血をひく、この国の宝物のような存在だ。きっと、成長したら世界一の美女になるだろうと言われている。
カインと再会したら、胸が苦しくなるのかなって思った時もあった。涙が出て、駆け寄って恨み言を言ってみたいなんて馬鹿げた考えを持っていた過去が、はるか遠い昔のよう。
心の中は、不思議なほど凪いでいて波紋ひとつ起こっていない。
ただ、私の心の中には、懐かしさだけがこみ上げてくる。幸せそうなふたりの表情を見て自然と笑みがこぼれた。
騎士団長さんが、護衛として付き従っている。彼と侍女頭さんから貰ったお守りは、今も大事にしている。
ふと、カインがこちらを見た気がした。
私だと気づかれてしまうだろうかとドキっとした。視線が合うか合わないかの刹那、すっと彼の瞳が聖女様に戻り、幸せそうに目を細めた。
噂で聞くだけでなく、カインは聖女様に誠実に接していて、本当に大事にしているのが遠目からも分かる。
「お幸せに……」
あの時は、悲しくて辛くて、でも一生懸命自分を奮い立たせて虚勢を張り、願っていた言葉が自然と唇から零れた。
ルゥが、きゅっと私の手をつかむ。私は、私だけの人だけを見上げた。すると、心配そうな赤い瞳がそこにあった。
私が大好きになって、愛する人はこの人だけ。
「ビスキィ、行こう」
あの日、ビスキィとして生まれ変わった私は、本当の意味で、今ようやく過去と決別できたのかもしれない。
これからの一生の中で、ビスキィと一番多く呼んでくれる人の大きな手をしっかり掴むと、彼もまた、離さないと言わんばかりに握り返してくれた。
私は、ありったけの想いを込めて、指と視線を絡ませる。
「ええ。ルゥ、愛しているわ」
すると、少し驚いた顔をした彼もまた、私にこう言ってくれるのだ。
「俺のほうが、もっと愛している」
R18 勇者のパーティを追い出されて行き倒れた私を、婚約者に捨てられ家を破壊された大男が助けてくれました ──完
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