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第56話 天神様と優しい別れ

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 どう言うことなのだろうか。


「……ケイン、さん? ディアナさん、リクターさん?」


 湖で手分けしてケルピーを探そうと……一度別れた彼らが。

 何故、ここに居るのか。

 何故、消えた意識体のように……透けた身体でいるのか。

 ケインらは、ただただ微笑んで……私達に近づいてきたのだ。


『俺らの役目が……終わったんだ、ミザネ』

「……役目?」


 意味がわからず、聞き返しても……ケインは微笑んでいるだけだった。

 彼が、瞬時に私の前に来ると……透けた手で頭を撫でてくれた。それに体温などは感じなかった。


『……俺らは、昇天出来なかった冒険者の『魂』なんだ』

「……けど、ちゃんと生きて」

『聖樹石に……仮初の生命を吹き込んでもらっただけだ。お前達を……ここに導くために』

「……そんな」


 では……彼らの生命は、とうに尽きていた?

 あのように、楽しい会話のやり取りも……共に魔物を倒した経験も。すべて、私達を……ここに導くためだけの、経験でしかない?

 彼らは……もう、生命が無い状態だなんて信じられなかった。


『んもぉ! 悲しむ必要はないわよ! ミザネ!!』


 ディアナが飛びつく勢いで抱きつかれても……やはり、温もりなどは感じなかった。


『……そう。僕……らは、これで……逝ける』


 リクターも近づいてきて、私の髪を撫でてくれた。

 透けているが、短い彼とのやり取りの中で……一番穏やかな笑顔でいたのだ。


「……リクター、さん」

『泣か……ないで。僕らは……弱かった』

「……そ、なこと」


 元は神であった私とて、この別れを泣かずにいられようか。

 人間でもない今ではあるが……精霊でも心はその前の人間とほぼ似通っているようにさせられたのか。

 ぽとぽと……と、熱い涙があふれてきたのだ。


『お前らは……精霊でもかなり強い存在だぜ? だから……この森に来れた。世界樹は、俺らの魂を利用したが……お前らに会わせてくれたことで、天上に行ける。彷徨うしかなかったのを、来世をくれたんだよ。お前らが』

『そう……だから、大丈夫』

『あんたらなら、次の時まで長生きしてそうね?』


 次の『生』を約束されたから……彼らはここまで笑顔でいられるのか?

 そのために……私達と関わってくれたのか?

 なんと、喜ばしいことだろうか。


「……僕らで、お役に立てたなら嬉しいことです」

『おう。っと……世界樹に代わって、伝える。次は……ここの隣国の、『城』の中だと』

「……わかりました」


 ケインの言葉を受け取ると……彼らの身体はさらに透け、光の粒になり……空へと昇っていったのだった。
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