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2016年9月30日ーー秋と言ったら味覚狩り、 クルミの出番だよ!part2
しおりを挟む「こ、こんなにもジャグランを一体どちらで?」
「それは秘密よ。転移で移動したからカティにも詳しくは教えてないしね」
ああ、たしか穴場スポットと言ってましたねぇ。
そりゃ、出会ったばかりの僕にも早々詳しい場所は教えないでしょうて。
さてさて、割るにはクルミ割り人形だったりクルミ割り器だったりとありますが、今回は後者のクルミ割り器を使用することになりました。
魔術でも出来なくないけど、一刀両断したら中のクルミも割っちゃうから散らばって二度手間になるので却下に相成りました。
んで、割るのはマリウスさんとライガーさん含めて厨房のコックさん全員が行うことに。
僕とファルミアさんはその間にお菓子の材料集めや計量をする方へと進みます。
「今日はどう言ったお菓子なんですか?」
ファルミアさんの調理の腕前は料理長並み。
つまり、マリウスさんに匹敵するくらいなんですよ。
僕はファルミアさんとお会いした日にデザートだけいただきましたが、ものすっごい絶品でした!
もう一回食べれたらなぁと思ってたらまさかの今回だもの。お手伝いは当然するけども、是非とも妙技を盗みたい! あ、料理のだよ?
「えーっと……エンガディナーと言うタルトのお菓子よ。タルトの中にジャグランとキャラメルのフィリングって中身を挟んだものなの」
「……聞いたことあるような?」
あれぇ、どこでだっけ?
僕が首を捻ってると、ファルミアさんがこそっと僕の耳に顔を近づけてきた⁉︎
「ここだけの話。◯良品なんかでもたまーに売ってたりしてたあれよ。ただし、私のは少し甘さ控え目だけどね」
「あ、あそこですか」
じゃあ、僕も一回は買ったことがあるかもしれない。
とまあ、これは僕らだけ通じる会話だからさっと終わらせた。
何より、タルト生地を一から作らなきゃいけないから手間暇かかるものね。
「バターと卵黄は室温に戻しておいたのがあったから……」
「粉も振るって、型にはバターを塗っておきました!」
「ありがとう。フィリングの方が先に作りたいんだけど、まだ終わりそうにないものね」
殻割りがですよね。
バキバキってBGMよろしくずーっとクルミ割り器で割るのが繰り返されていますが、皆様終始無言。
とにかく、早いことファルミアさんのお手をわずらわせてはいけないと必死のご様子だ。
僕は心の中で頑張ってとしか言えませぬ。
「じゃあ、タルト生地作っちゃいましょうか」
「はい!」
僕はタルト生地だと以前は市販の生地を使うことが多かったけど、一から作れるってそうそうないからわくわくしていた。
「室温に戻したバターをホイップ状になるまでよーく混ぜて」
今回作るのはエンガディナー二つのようです。
というのも、一つは僕たちの分だけどもう一つはここの上層調理場への差し入れらしい。使わせてもらうからには、何かしらお返しはしないとねとのファルミアさんがおっしゃったもので。
たしかに、僕も使わせていただく時はほとんど調理場の皆さんに差し入れしてるしね。
なので、ファルミアさんと僕とで一つずつ仕込むことになりました。あと、覚えるためにもいいからって。なんといい方なんでしょう!
「いい具合になってきたら、計った粉糖と塩ひとつまみを入れてこれもよく混ぜて……次に卵黄加えてホイップしたらホイッパーはもう使わないわ」
「はーい」
うんしょうんしょと生クリームホイップ以外そんなにホイッパーを使わない僕は、根気よく混ぜます。
もったりドバッという感じになってきたら、卵黄を加えてホイップ!
綺麗な黄色になってきたらこれはお終い。
「うん、いいわ。次にメリケ粉をターナーで粉気がなくなるまで切るように混ぜてね」
と言って渡された木ベラもといターナーで薄力粉じゃなくてメリケ粉を入れたボウルの中身をさっくりと混ぜていく。
粉っぽさがなくなれば、これを6対4の割合で分けて冷蔵庫よろしく氷室に保管。実はここでファルミアさんが自分で開発したと言う僕とファルミアさんには馴染みのあるラップがご登場なすった。
なんで作ったのかの説明は割愛。
と言うのも、マリウスさん達こっちの国のコックさんに見つかったら問い詰められる上に用途を事細やかに指導してくれとか言われかねないからだとか。
まあ、たしかに。
ラップなんて科学の賜物を大っぴらにしたら大変なことになりかねんものね。
生地をラップで包んで寝かせてる間に、今度はフィリング作りに移ります。
ボウルの片付けやらしてたらよーやく殻割りが全部終わったらしいのです!
「お疲れ様、皆期待してお菓子を待っててちょうだいな」
「ありがとうございます。ファルミア様のお菓子はいつも大変美味しゅうございますから、私など脱帽ですよ」
「あら、マリウスのメロモパイには私勝てないわよ?」
「そ、それは、ありがたいお言葉です……」
メロモはリンゴのことだよ。つまり、アップルパイのことです。僕がここに来た初日の夕飯後のデザートがまさしくそれでした。あれはたしかに絶品だったよ!
とまあ、しゃべってても作業が進まないので、フィリング作りの下準備に移ります!
「まずは、ジャグラン全部をローストするの」
「これ全部ですか……」
大っきいボウルにたっぷりのクルミの実の中身。
僕だったらトースターかオーブンでやるけどここにはないからなぁ。
「まあ、見てて。これには魔術を使うわ」
「おお」
ここは魔法が充実している世界だものね。
電子機器なくてもなんとかなるのだろう。
ボウルに入ったクルミをバットに移し、ボウルからなくなるまで均等にバットに入れていく。全部を入れ終わったら、ファルミアさんがバットの上から手をかざす。
「行き渡れ、散れ、速やかに……燦蜋!」
呪文を唱えられると、ぼっとクルミを敷き詰めたバットの上に炎の綱が出現したよ。
上から炙られたクルミからじんわりと油分が滲み出していき、皮がほんのりと色を変える。
砂時計も使って5分ぐらいそのままにしたら、ファルミアさんはパンパンと手を叩いて火を消してしまわれた。
フィーさんの指パッチンもだけど、ああ言った合図で魔術を消去させれるなんて凄いなぁ。僕もいつか出来るだろうか?
「さて、これを冷ましてる間にタルト生地を型に入れておかないとね」
「え、ついさっき寝かしたばっかりじゃ?」
「ああ、あれには時間操作を施してあるの。だから、ものの10分くらいで一時間……半刻は経過しているわ。今日はそこまで時間がないもの」
「左様ですか……」
何気に時間操作使われるのちょいちょいあるなぁ。
フィーさんもピッツア生地の発酵工程を省くのに使われたし……でも、あんまり操作し過ぎると味落ちがあるらしいから、極力使わない方がいいらしいようです。
氷室でラップを剥がして生地をボウルに入れて厨房に戻り、ラップの残骸はファルミアさんが無詠唱で焼却処分されました。
「で、大きい方を麺棒で丸く広げて24cmくらいにして、厚さは4mmくらいね」
「はーい」
「ふゅぅ」
ここでお忘れでしょうがクラウはずーっと僕の頭の上に乗っかってるか宙に浮いて僕らの様子を見ていますよ。
邪魔せずにとっても良い子で見学してくれている。つまみ食いはさせないけどね。
麺棒でぎゅっぎゅと丸ーく広げて良い厚みになったら型に入れてまずは下を隙間が出来ないように押し込む。溢れた生地達は側面に貼り付けてこっちも隙間ないようにバターを接着剤にして型にくっつける。
余分な生地は後で切り落すからこれは放っといていいようです。
「こっちの小さい生地は蓋用ね。同じ厚さにして型の幅くらいに広げればいいわ」
「はい」
これも同様に広げてからバットに移しておく。
いつもだと氷室で冷やすらしいけど、フィリング作りに冷却魔術を使うようなのでこのまま乾燥防止の魔術と緩く冷却魔術を施されました。
「さぁ、フィリングよ!」
フィリング材料はさっきローストしたクルミを除くと砂糖、蜜飴(水飴とも言う)、生クリーム、蜂蜜、牛乳に無塩のバター。
バター以外の材料を鍋に入れ火にかけて、沸騰するまでしばし待つ。
「甘い良い匂いですねぇ……」
「ゼルもこれは以前気に入ってくれたから食べてくれると思うけど」
「え、キャラメル平気なんですか?」
これでもかって糖分豊富だけども、好きなお菓子なんだ?
「まあ、普通のエンガディナーよりは幾分か食べやすいように私がアレンジしたからかもね。けれど、今日はカティも手伝ってくれたから喜んで食べるんじゃないかしら?」
「……その話題はここではあまりしないでください」
恥ずかしいもあるが、僕とセヴィルさんが婚約者同士で御名手である事は極秘である。
ファルミアさんやユティリウスさん達には四凶の皆さん伝で一発でバレちゃったんだよね。
僕が赤面している間に沸騰が始まったが、急にファルミアさんのお顔から笑顔が消えて厳しいものになった。
「これからが勝負よ……前の世界では温度計があったけどここではないから、煮立ち具合からしかわからない。これはカティでもまだ難しいと思うわ」
「そうですね……」
ぶくぶくふつふつ泡ぶくを立ててる鍋を見てるだけじゃ温度なんてわかりもしない。
もう充分じゃないかなと思っていたが、二分くらい経ってからファルミアさんは粗みじん切りしてボウルに戻しておいていたクルミを取りに行った。
「カティ、ちょっと離れてて」
「はい」
僕が離れてからファルミアさんはボウルを鍋近くまで持って行き、だばーっと勢いよくクルミを投入された。全部入れ終えてから火を止めて、無塩のバターも入れるとターナーでクルミにキャラメルを絡めていく。
「これでフィリングの完成ね」
全体にキャラメルを行き渡せられたら、ここで冷却魔術のご活躍。
粗熱があっという間に取れるので僕も重宝しております。
「カティ、私がフィリング入れるから型を1個ずつ持ってきてくれないかしら?」
「はーい」
加熱しても大丈夫なバットに型を置いて、竃脇の調理台に置いていく。
そしたら、ファルミアさんが鍋のフィリングをターナーでゆっくり入れたり均一になるようならしたりするのを繰り返すこと2個分。
2個とも変わりない量になれば大丈夫なようです。鍋はすぐにシンクに入れて水を張るのをお忘れなく。
「これの余分な生地を包丁で取り除いて、縁に接着用の卵黄を塗って蓋部分を乗せたらまた余分な生地を取るの」
という事でペティナイフのご登場。
ファルミアさんの説明どおりに二人で1台ずつ担当して作業に入ります。
ただ、ファルミアさんは慣れてるからシュパッ、スルスルーっとあっという間に終わり、僕はちまちまとナイフを動かしていた。
うぅ、歴然の差を感じるじぇ。
ともかく、二人とも全行程を終えたらこれでツヤ出しの卵黄塗れば終わりかと思いきや。
「……何故ここにコフィーが?」
しかも、エスプレッソ並みに濃いような気がしなくもないよね?
飲む分にもあまりにも少量だけども。
僕が成形に手間取ってる間にファルミアさんがどうも淹れてきたようだ。
「ああ、これはツヤ出し用に使うのよ」
「え、コフィーを?」
じゃあ水代わりに珈琲を入れるんだ?
ファルミアさんはええと頷いて、溶いておいた卵黄にちょび、ちょびとコフィーを入れて軽く混ぜられました。
「これを刷毛で均一に上に塗ってー」
さらっさらとベタつかないように塗ります。
とここで、ファルミアさんがミニフォークを取り出しました。
「仕上げにこれで模様を描くの」
と言って、菱形格子のお洒落な模様が出来ました。
僕もフォークをお借りして、葉っぱの模様を書き込んでいった。未熟ながらもパティシエのなせる業です!
「あら素敵。綺麗ね」
「お恥ずかしながらも、一応は仕事してたので……」
そしてこれをいつもの石釜ではなくてオーブンのような場所で焼きに入れますよ!
ああ、楽しみでしょうがない。
応援ありがとうございます!
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