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第137話 かつての故郷
しおりを挟む『ど……こ、ここ……?』
声が、反響する。
と言うことは、これは夢なのだろうか?
夢にしては……やけに、周りの光景が鮮明過ぎる気がするが。
「進めぇえええええ!!」
「ひとり残さず殺せぇえええ!!」
物騒な吠え声が聞こえてきた。
私は逃げなくては……と思ったが、私はもう人間ではないことを思い出した。
簡易体か、精獣化すれば……人間の目に映ることはない。
とも考えたが……これが夢であれば、今の身体も……と見てみると、きちんと透けていた。なら、このままでもいいのだろう。
とにかく、ここはどこなのか……吠え声を頼りに、浮かんで移動してみると。
あちこちに、火が放たれ……何もかもが燃えてしまっていた。
『……なんと、酷い』
あの王族もなかなかに酷いことなどを私にしてきたが……今火を放ち、逃げ惑う人々を惨殺するなど。これは、もしや戦争か?
何故、私はこのような酷い光景の夢を見ているのだろうか?
『……あ、れは……』
人間達の進む方向が変わったのを見てみると……そこにあったのは。
かつて、私が過ごした……モーディアス城が煙を上げて、燃え上がっているのだった。
追放される時に、荷馬車から見たのだ。数日前のことだから……間違いない。
『……な、ぜ……?』
私は……生まれ育った場所が、崩壊しているのを夢に見ているのか?
これは……まさか、私の持つ願望なのだろうか?
【そうではない。鏡羅よ】
神だ。
相変わらず、お美しい姿で……私の前に降りられた。
『……何が』
【お前から得た財が……ただの元の姿に戻ったのだ。それを怒りに変えた他国の軍勢が攻めてきたのだ】
『ですと……これは』
【現実ではあるが、時間で言えば昨日のことだ。この国は既に崩壊し終えた】
神がさっと手を振っただけで、風景が変わり。
あったのは、何もかもが崩壊し切った風景でしかなかった。城も、街も。
『……ああ』
両親を殺した王族の国とは言え。
それでも、この国は。
やはり、私の育った場所なのだ。……涙があふれて仕方がない。
【……戻れ。愛しい者のところへ】
神がそう仰ると……私の意識は遠のき。
気がついたら、泣いていらっしゃるハク様の腕の中で……私は泣いていたのだった。
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