上 下
223 / 738
国王のまかない⑥

第3話『冷えたエール』②

しおりを挟む
 豆、エール……豆、エールと交互に繰り返しただけなのに……俺は満たされてきた。

 ただ、豆が無くなった時になると……腹はいくらか満たされたのだが、どうにも口寂しく感じた。

 まだ……まだ俺は、このエールの美味さもだがつまみの美味さを味わいたかった!!


「……イツキ、他にはないのか?!」

「他……ですか?」

「この組み合わせも素晴らしかったが……まだ、足りん!!」

「そうですね……少しだけお待ちいただければ」

「なにが出来る!?」

「お芋の素揚げです」

「…………芋の素揚げ??」

「これが熱々だと、塩味だけでもエールのお供には最高ですよ!」

「……頼む!」


 冷やした次は熱々。

 しかも、出来立てを出してくれるのであれば、多少は……と我慢出来んので、上着を脱いで手伝いをすると言った。

 ワルシュ達の婚約パーティー以来だが、調理をするのも悪くないと感じるようになったからだ。


「じゃがいもの土汚れを水で洗い流し、小さい包丁で芽を取ります」

「芽を?」

「じゃがいもの芽は、中毒症状を起こす原因にもなるからです。食べ過ぎるとお腹を壊してしまいますので」

「……それは、臣下以外にも伝えた方がいいな?」

「そうですね、お願いします」


 包丁の先などで、ちまちまと俺が芽を取っている間……イツキはじゃがいもを切り、何故かボウルに水を入れて……その中にじゃがいもを入れてしまった。


「そのまま揚げるのでは?」

「ダメではないですが、灰汁などの雑味を取り除くためです。特に皮付きだと念のために」

「ふむ」


 悪友がワルシュでも、その調理に関わることがそれほど多くなかったため、あまり詳しくはない。

 ワルシュの養女になったイツキは、もともと調理に深く関わっていたらしいが……誇示することもなく、ただただ他人を労わってくれている。婚約者となったアーネストもそこに惚れたのだろうな?

 イツキは、白く濁った水から芋を取り出し……水場で魔法を使って水気を弾き飛ばした。生活魔法の応用だろうが……そう言う使い方もあるのかと、少し感心出来た。その後に、完全にではないが少し茹でる。


「これを油でしっかり揚げれば……」


 既に熱していた油鍋の中に、少しずつ切った芋を入れて……じゅわっと音を立てて芋が揚げられていく。

 ただそれだけの工程なのに、俺はまだかまだかと待ちきれそうになかった!!


(……これほどまでに、辛抱ならんとは……)


 エールの美味さもだが、イージアス城にいる人間の大半はイツキの料理の虜になってしまっている。

 ほぼすべて……イツキの料理はなんだって美味いからだ!!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

なんで元婚約者が私に執着してくるの?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:11,473pt お気に入り:1,875

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14,144pt お気に入り:7,587

偽りの恋人達

恋愛 / 完結 24h.ポイント:745pt お気に入り:39

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:121

街角のパン屋さん

SF / 完結 24h.ポイント:2,172pt お気に入り:2

ある国の王の後悔

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,834pt お気に入り:101

今度こそ穏やかに暮らしたいのに!どうして執着してくるのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,849pt お気に入り:3,441

悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:13,859pt お気に入り:5,993

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。