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第三章 交わる記憶
089.押しかけ問答
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それから式典まで僕は文字の勉強に加えて、この黑の世界の基本常識を更にフィーさんやセヴィルさん達から学びました。
式典はいくら上客扱いにしてても出るわけにはいかないので、その日は中層か下層の調理場で簡単な雑用をさせてもらえることになったよ。目には自分で変装出来るように念入りに練習しています。
二日前の今日もその練習に明け暮れてたんだけど……。
「カティア、すまん!」
「え、えーっと……」
僕軽くピンチなう。
どう言うことかと言うと、ことは少しだけ数分程さかのぼります。
◆◇◆
10分程前。
僕は勉強もひと段落して目の変装魔術を練習していました。
「よーし! 併され、広がれ、彼の者の今にーー【変幻】‼︎」
手を目の当たりにかざしたまま呪文を唱えたら、パァって光ってからシュッと消えてしまい、閉じてた目を開けば鏡の前にはあら不思議。虹色の瞳はいずこになって、真っ青のキラキラブルーアイが完成。
色変えは他にも出来なくないけど、この魔法って術者の集中力とかが問われるらしいから慣れてからの方がいいとか。
なんで、今日も今日とて疲れないように練習。
魔法をかけてから慣らすのに一時間以上はこのままにして勉強再開。
コンコン。
「んー?」
コロネさんがお茶でも持ってきてくれたかな?
皆さんへの差し入れとかは式典の準備でとっても忙しいから出来ないし、厨房も気軽に借りれないのです。
フィーさんはどっかに行ったり気まぐれに来てくれたりはするんだけど。
コンコンコン。
再度ノック。
この様子からコロネさんじゃないのは明白。
だって、彼女ならすぐに声かけてくれるもの。
それになんか忙しない雰囲気。
くるっとベッドを見ても、クラウが相変わらず寝ているだけ。寝る子は育ちます。
「…………はーい?」
けども、無視するわけにはいかないので返事します。
「……悪い、カティア。俺だ」
「サイノスさん?」
……サイノスさんは将軍さんでも色々お忙しいはずじゃ?
慌てて扉を開けようとしたら何故か3分の1のとこでサイノスさんに止められた。
「全部開けんじゃねぇ……クラウは?」
「え、と……お昼寝してます」
「それは良かった。が……」
と区切ったとこで、両手で拝むようにしてきた。
「すまねぇ! イシャールにピッツァのこと事細かに喋っちまった!」
「よ、カティア?」
「えぇえ⁉︎」
声でしか聞こえなかったけど、間違いなく上機嫌のイシャールさんまでやってきていたのだった。
◆◇◆
「カッツクリームとかなんで教えてくんなかったんだ?」
「え、えーっと……一応、口外するの止められてたんで」
「マリウス料理長らは知ってんだろ?」
「き、聞かなかったんですか?」
「式典準備でろくに話してねぇよ」
ただいま、僕の部屋でイシャールさんに質問攻めされてます。サイノスさんは部屋の隅で待機してクラウが起きないよう見てくれてるよ。
「と、ところで、どうしてサイノスさんとご一緒に?」
「ん、あー……言うか?」
「言わねぇとカティアは納得しねぇぞ」
「だよな」
「……もしかして、サイノスさんに無理やり聞き出したんですか?」
「う"」
言葉を詰めたあたり正解のようだ。
まだ会って二回目のイシャールさんだけど、だいたいどう言う人かはわかっていた。決めては副料理長のシャルロッタさんの応対があったからだけど。
「よくわかったな、カティア?」
「先日シャルロッタさんにもお会いしたので、だいたいは」
「あー……それならわかんだろ」
「ちっくしょぉ……会わせんじゃなかったぜ」
「お前直属の部下なんだから無理だろ」
弱みを握ったね!
使う機会あんまりないことを祈るけども。
「で、お忙しいお二人がわざわざゲストルームまで来たのはなんでですか?」
サイノスさんは将軍さんだし、イシャールさんは中層料理長。それぞれ役職を持ち、エディオスさんの即位記念の式典が間近に迫ってるのに僕なんかにピッツァを聞きに来る意味がよくわからない。
「あー……さっき、こいつにピッツァのこと詳しく話したっつっただろ?」
「ええ」
「俺も居た時に出したメニューをイシャールだけに話したら……問答無用で連れてけと詰め寄って来たっつーわけ」
「はぁ?」
中層と下層じゃパンで代用したハニーチーズのピザ風しか出してないし、結局場内案内優先でほとんどピッツァのこと話してないもんね。
「マトゥラーやオーラルだけじゃなくて、ヘルネでもソースがあんだろ? お前のレパートリーどんなけあんのか気になったんだっつーの!」
「俺は自分の食わせてもらったもん言っただけだろ。わざわざカティアに押しかけんな!」
「いいのかー? あいつに言うぞ?」
「やめろ!」
なんのこと?と僕にはわかんない話が出てきたよ。
それはひとまず。
「ふゅぅ?」
クラウが起きちゃったんだよ!
「……ふゅ?」
「……なんだそいつ。聖獣か?」
「僕の守護獣のクラウです!」
いくらイシャールさんでも、マリウスさん達にも言ってない事は言えないよ!
「ふゅ、ふゅ!」
本人はのんきに寝起きすっきりで翼をピコピコさせてるけどね。
「ちんまいなぁ? まだガキか?」
「そう見えて、かなり食うぜ?」
「ほぉ?」
「ふゅふゅ!」
人見知りしない子だからか、イシャールさんのことも特に怖がってないみたい。
「で、僕からピッツァの情報を聞いてどうするんですか?」
エディオスさんからは特に言われてないけど、中層や下層に広めるのがいいかわからない。
下層はメイドさんや下級騎士さんが多いらしいけども、中層じゃ大臣クラスの人も行くことがあるってセヴィルさんから聞いてる。
お偉いさん達は、普段上層でもエディオスさん達が使うのとは別の食堂がご利用らしいんで、僕が会ってないのは仕方ないそうです。
じーっと、クラウを抱き上げてたイシャールさんを見つめたら、一瞬呆けた顔をされたけどすぐに破顔してきた。
「中層のメニューに加えよーかと」
「おい!」
「やっぱりそうでしたか!」
興味範囲で聞き出しに来るなんて、イシャールさんよく時間が作れたね。帰ったら、シャルロッタさんに絶対どやされるだろう。
「でも、仮にエディオスさん達から許可いただけても不利な点がいくつかあります」
「なんだそれ?」
「あー……けど、ピッツァを中層には不向きかもな」
サイノスさんは中層の常連さんだからわかってくれたみたい。
僕は手を広げてイシャールさんの前に突き出した。
「ひとつ、生地は保存の魔法で発酵具合を維持できても、焼いた時の膨らみが予想出来ない」
「ふむ」
「ふたつ、生地は麺棒で伸ばせますが均一に広げるのは最低でも一週間必要」
「聞いた限りじゃ、カティアは素手で伸ばしてんだろ?」
「それこそ、一週間どころか年単位の修行です!」
僕の会得したピッツァ回しは、今の外見からずっと頑張ってきたんだもの。
「みっつ、ヘルネのソースを受け入れれるかはわかりません」
「それはこっちが試食してから決めるわ」
「わかりました。よっつ、中層のああ言った配膳形式ではピッツァの表面が乾いて食感が良くないからです」
保温の魔法は、ホットウォーマーの要領だから常に火を通してる状態と同じ原理らしいのはファルミアさん談。
実際残ったピッツァを保温し続けてたのを食べてみたら、チーズはまだしも生地がカピカピになってしまったのです。
その旨をイシャールさんに伝えれば、自信ありげな表情がいくらか変わっていった。
「つまり、焼き立てなのと自分の食う分くらいしか提供しにくいってことか?」
「お客様に美味しいものを食べていただくには、そこを妥協しなきゃいけないですけど」
蒼の世界のバイキングじゃ気にせずにホットウォーマーの下とか、木皿にカッティングしてから置くとかでもう妥協してるけどね?
ここはお城だからそうはいかないもの。
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