ドS年下エリート騎士の執着愛

南 玲子

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初めての出会い

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今夜はハイレイス侯爵家で催されている夜会だ。煌びやかな屋敷のダンスホールで色とりどりの豪華な衣装を身に着けた紳士淑女たちが、楽団の演奏に合わせてダンスを楽しんでいる。高価なワインに、一流の料理人の手によって手間をかけて飾られた一口大の繊細な料理の数々。

その夜会に参加している私といえばもう二十二歳の誕生日を終えて、もう時期に更に一つ歳を重ねようとしている。なのに未だに婚約者やデートを重ねる男性すらいない状況だ。

さすがにお父様も焦りを見せて王国の片田舎にあるスタインズ子爵領ではなく、王都の近くの叔父様の屋敷に私を住まわせて結婚相手を見つけさせることを思いついたらしい。というわけで、一か月前から私は近郊で開かれる社交界のパーティーに強制参加させられている。

そんな私にも以前二人ほど交際した男性がいたが、彼らはすぐに他の令嬢に乗り換えて私の元から去っていった。男の人なんて、他にいい女性がいればすぐに心変わりする動物のような存在だとその時学習した。

そうして今この瞬間もその判断は間違いなかったと再確認させられている。

「酷いですわダニエル様。私の事はただ利用しただけなのですね。散々利用したくせに必要ががなくなったから捨てるだなんて・・・・。お願い、このままじゃ私何をするかわからないわ。辛すぎてあなたの大切なあの方にもつい本当の事を言ってしまうかもしれないわ」

化粧室に行った後あまりの屋敷の広さに戻る道が分からなくなっていると、人気のない廊下で一組の男女がいて、女性が泣きながら男性に懇願している最中だった。咄嗟に大きな柱の陰に隠れて様子を伺う。

そっと覗いてみると、男性の後姿と涙で泣きはらした女性の顔が目に入ってきた。二人とも正装しているので夜会の招待客なのだろうと推察される。女性の方はかなりの美人でしかも高そうな宝石を身に着けていた。

うわーーこれが俗にいう修羅場なのね。この男性が浮気でもしたのかしら。こんな美人の恋人はいるのに他の女性にも手を出すだなんて最低の男だわね。ええい、後姿だと顔が見えないわ。

「本当の事を知ったらあの方だって貴方を憎むはずですわ。人生を滅茶苦茶にされたんだもの。お願い、何でもするから私を捨てないでください。ほかに何人女性がいてもいいんです・・・だからもういらないだなんて言わないでください」

確かに二股は駄目よね・・・この言い方だともっと女性がいそうね。他の女性たちがどこの誰かは知らないけれども、この男を手錠で縛って鞭で打って蝋燭を垂らすくらいには怒るでしょうね・・私ならそうするわ、うんうん。でもこの女性二番目でいいだなんて、こんな節操無しな男のどこがいいのかしら?でもこんなところで盗み聞きは淑女としてはしたないわね。

もう少し聞いていたい誘惑にかられたが、他人の修羅場をのぞくのは趣味が悪いと思いなおしてその場を離れようとした瞬間、大きな音が聞こえてきてその場に立ちすくむ。男性が壁を殴ったらしい。

ドンッ!!!

「きゃっ!」

「お前・・・何様だと思っているんだ?僕にそんな口がきける立場だと思っているの?」

「も・・・申し訳ありません・・・ダニエル様・・」

「僕が本気になれば、伯爵家の一つや二つ取り潰しに追い込むことなんて簡単なんだ。つくづく頭の弱い女だな、自分の立場をわきまえろ」

ひ・・・ひぃぃぃぃーーーー!!

突然男性が女性をいわゆる壁ドンで壁際に追い詰めて、低いどすの効いた声で女性を脅し始めた。男性の後頭部の金色のカールした髪からちらりと覗く女性の顔は引きつっていて、男性の剣幕に流れていた涙さえ止まったようで、顔全体を青ざめさせながら震えている。

「ご・・・ご・・・ごめんなさい・・・ダニエル様・・・許して・・・お・・怒らないで」

「そうやって泣けば許されると思っているのか?おめでたいな。僕をこれ以上怒らせたくなかったら、もうその醜悪な顔を二度と僕の前に見せるな。次に会ったらお前の家を全力で潰してやる、お前は娼館で働くしか道がなくなるぞ。分かったな」

こ・・これは助けに入った方がいいのかしら・・・。か弱い女性に向かってここまで言うだなんて、さすがにこれ以上は無視できないわ!

心を決めて間に割って入ろうと足を一歩進めた途端、先程まで震えるか細い声で話していた女性が一転してうっとりとした様子で話し始めたので思いとどまった。

「・・・あぁ・・・冷たいダニエル様も素敵ですわ。もっと私をいじめてください。その為ならわたくし何でもしますわ」

もしかしてこの女性・・・罵られて馬鹿にされて喜んでいるのかしら???本の中だけだと思っていたけど、現実にそういう趣味のカップルって存在するのね。新鮮で興味深いわ。

「本当に馬鹿な女だな。もういい、僕の目の前から消えろ。目障りだ」

「ありがとうございます、ダニエル様。また何かわたくしに出来ることがあればお声をかけてください。わたくし何でもしますわ」

今まで号泣していた女性が、一転して目に涙を浮かべながら至福の笑みを浮かべて男性に一礼した。

この二人はこういった趣味嗜好なわけね。勉強になるわ。恋愛っていろんな形があるって本当ね。私には無理だけれど・・・あんな風に言われたら殴り掛かっているかもしれないわ。でもどうしましょう、この廊下を通らないとキャサリンの待っているホールには戻れないのだけれど・・。

柱の陰で息を殺してきた道を戻るべきかどうか思案しているうちに、いつの間にか二人ともどこかに行ってしまったようだ。ホッと安堵して息を整えると、先程まで男女がいた廊下を通り抜けて目的の場所へ進んだ。

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