ドS年下エリート騎士の執着愛

南 玲子

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エミリー陥落する

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しばらくたって気がついたら白い天井が見えて丸い黒い影が見えた。その輪郭が次第にくっきりしてくるとダニエルが私の頭を繰り返し撫でながら愛おしそうに見つめていた。

自分はソファーに腰かけて私に膝枕をしてくれているようで、頭の下がほんのりと暖かい。ゆっくりと起き上がって体を確かめると、あちこちに飛び散っていたであろう液体はきれいに拭きとられていて、ダニエルもすでにズボンを上げてきちんと制服を着こなしていた。

「ダニエル、私の下着はどこ?」

「悪いけどあれはお仕置きだから下着を返す気はないよ。それに僕はキスをしたら返すだなんて一言も言っていないしね。それにこれからエミリーは騎士団に来るのは禁止だよ。君がノーグローブ隊長に会っているのを見ると、うっかり彼を陰謀に巻き込んで苦痛と屈辱を与えてから殺してしまいそうになるからね。もし来たら罰として何度でも君の下着を没収するよ」

そういってダニエルは隣に座っている私の体を引き寄せて自分の膝の上に抱き上げてから、まるで子供にするように優しい手つきで再び私の頭を撫で始めた。

うわぁぁぁ!!やられた!確かにダニエルは下着を返すとは言っていない。だからといってあそこまでやらせておいて、下半身剥き身のまま屋敷に帰らせるというのか・・・なんて最低の男だ!

「ダニエルったら!この悪魔っ!!」

私は目に力を込めてダニエルを睨みつけながら叫んだ。

「しっ、あまり大きな声を出すと騎士団中に聞こえてしまうよ。そこの窓が開いているのが見えるよね。そういえばこのすぐ下のノーグローブの部屋の窓も開いていたような気がするよ。多分さっきのエミリーの鼠みたいな可愛らしいイき声が聞こえたんじゃないかな?」

な・・・な・・・なんですってぇ?!!!

始めの頃は床に寝かされていたのでソファーの陰になって窓は見なかったが、ソファーの上でダニエルの膝に腰を掛けている今は簡単に確認できる。

少し頭を動かせると見える部屋の南側にある大きな窓は、全開に開け放たれていて白いレースのカーテンがゆらりと夕方のかすかな光を透して柔らかな影を床に落としていた。

一瞬で血の気が引く。そういえばクライブ様の部屋の窓も大きく開いていた。もしダニエルのいうとおりにこの部屋の真下だとすれば、さっきの私達の声が聞こえていたとしても不思議ではない。クライブ様が私を好きだという事はダニエルの嫌がらせの上の狂言だとしても、さすがにこれは恥ずかしすぎる。他の騎士様にも聞こえたのではないかと、羞恥心で口を開けたまま声が出なくなる。

そういえば何度も私の名前と一緒に可愛いとか愛しているとか言っていたのも、もしかして騎士団じゅうに私の存在を知らせるのが目的だったのではないのだろうか?!!

不特定多数の騎士様にあの喘ぎ声とかを聞かれてしまったとでもいうの?!騎士様のほとんどが爵位を持った貴族だ。・・・という事はもう恥ずかしすぎて社交界に顔を出せない!!!

「し・・・死んでしまいたい・・・いや、もうスタインズ領に帰る!そうだわ!そうするのよ!そうして二度と王都には戻ってこない!!」

「君が死んだら僕も死ぬよ。君がスタインズ領に帰るのなら騎士もやめて何もかも捨てて僕もついていく。もう君を逃がすつもりはないんだ、僕の大事なエミリー」

「や・・・やだぁ・・・」

いまだにとても嬉しそうに微笑みながら私の体を撫でまわすダニエルの顔を、じっくりと見つめた。たっぷりの金色の睫毛に彩られたエメラルドグリーンの二つの双眸が、私だけを映している。

ヤンデレ宣言なのか?そうなのか?!ヤンデレだって個人的にはそんなに嫌いではない。どちらかといえば、それ程までに愛されれば女冥利に尽きるというものだ。だけどドSは・・・それだけは相容れない。

気付かないうちに出てきていた涙が頬を伝って流れ始めた。複雑な感情が私を支配して目頭を温めて、次々に涙が分泌されては流れ落ちていく。するとダニエルが私を膝の上に乗せたまま優しく腕の中に抱きしめ、何度も・・・何度も頬に口づけを落とした。そうして流れ出す水分が頬を伝うよりも先に舌先で舐めとっては啜りあげていく。

「虫みたいで凄く可愛い。首にある僕の噛み痕も君にとても似合っているよ。エミリー、君と出会えて本当に良かった。愛してるよ」

「ダ・・・ダニエル・・・貴方・・最てぃ・・・うぅ」

もう私は覚悟をした。もうこうなったら運命を受け入れるしかない。真性ドSの変態に魅入られた女性は、一生彼から逃れられない運命なのだ。あの夜会の時から私の運命は既に決まっていたのだ。

鞭で打たれる前にしっかり服を着込んで、蝋燭を垂らされる前に火を消そう。縄で縛られそうになったらナイフで切ればいい。縛られる前に縛ってしまうのもいいかもしれない。今度、縛り方教本でしっかりと予習しておこう。先に縛った者勝ちだ。

体の力を抜いて無気力になった私は、ダニエルの思うがままに身を任せていた。すると突然ダニエルが顔を上げたかと思うと静かに声をだした。

「なに?ルーク、入っていいよ」

するとしばらくすると音もなく扉を開けてルーク様が部屋の中に入ってきた。いつの間に扉の前にいたのだろう。全然気が付かなかった。

私がダニエルの膝の上にぐったりと体を横たえたまま、あちこち撫でまわされ・・・その上、何度も音を立ててキスをされているというのに顔色も変えない。相変わらずの冷静な表情で淡々と話し始めた。

「騎士団長が話があるとダニエル様をお呼びですが、いかがいたしますか?」

ダニエルもダニエルで、私の頬に何度も何度もキスを落としながらルーク様を見ないままで会話をする。

「んーー、面倒くさいな。せっかくエミリーが盛りの付いた鼠みたいに僕に甘えてくれているのに離れたくない。忙しいからといって断っておいてくれない?」

「それは難しいかと・・・本当に大事なお話らしいです。時間はいつまでも待つとおっしゃっておりました」

「そうか、じゃあエミリーも連れて一緒に行こうかな」

するとダニエルが頬から唇を離して、ご機嫌な表情で私の顔色を伺うように見る。

そ・・・それだけは勘弁して欲しい・・・。

私は唇を軽く噛んで頬を赤らめ、涙目で返事の代わりにふるふると顔を横に振った。特に団長室の位置なんて一生知りたくもない。ましてやその部屋の窓が開いていたかどうかもだ・・・。

するとダニエルは私の体を腰が折れそうになるくらいに深く抱きしめると、くすりと笑いを零して耳元で囁いた。

「エミリー、すぐに君の元に戻ってくるから、それまでルークに監視してもらっていてね」

そうよね・・・護衛でも付き添いでも無くて『監視』・・・ね。相変わらず、ぶれない男だわ。

ダニエルは私を大事そうに抱き上げてソファーの上に座らせ、ルーク様には斜め前の一人掛けのソファーに座るように申し付けた。そうして自分は少し皺のついた制服を正すと、名残惜しそうに私を見て部屋から去っていった。


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