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衝撃の事実
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「エミリー・スタインズ・・・。ここで何をしているんだ?」
黒い騎士服を着て腰に帯剣をしているクライブ様は、私の左腕を握りしめたまま質問をした。彼の背後には二名の騎士が立っており、彼らは私たちを見て会釈をする。
腕の痛みに思わず私が顔をしかめると、すぐさま察してくれたようでクライブ様は無言でその手を離した。少しは私の教育的指導の効果があったらしい。ほくそ笑みながら腕をさすっていると、キャサリンが私の肩に手を置いた。
「大丈夫?エミリー!」
心配して駆け寄ってきたキャサリンを笑顔で制して大丈夫だと答えた。たとえ騎士服を着ていたとしてもクライブ様の容貌とその佇まいは、そんな系統の男性に慣れていないキャサリンにとってはまるで化け物のように見えたに違いない。
キャサリンの顔は青ざめていて、体を細かく震わせているのが肩に置かれた手を通して感じられた。私はまずクライブ様に挨拶をし、キャサリンとクライブ様の間に立って二人を紹介し合う。
クライブ様が王国の騎士隊長だと紹介されても、キャサリンは彼の様な武骨な男性は苦手なようで怖がって目を極力合わさないようにしている。
「あの、エミリー・スタインズ。・・・フリオの事は・・・すまなかった。俺の責任だ」
そういって大きな図体をしたクライブ様は、肩を丸めて目を下方に逸らせた。自分の部下が他国のスパイだったと知って、彼はかなり責任を感じている様だった。恐らく彼の立場上、昨日の私の誘拐事件の事を詳細に知っているに違いない。
「ノーグローブ様。これは全てダニエル様の計画だったのですから、お気になさらないでください。それに私は怪我も全くしていませんわ。それよりどうして王都にいらっしゃるの?」
「・・・仕事だ。あいつらの根城がこの町にもあって、捜索を終えたところだ。あんたこそ昨日の今日で王都で買い物なのか?呑気なものだな」
言い方はきついがこれでも心配しているのだろう。相変わらずの鋭い眼力で私を睨んでいるが、私は意にも介さずに彼を見て笑って答えた。
「この先のお店に用事がありまして、友人のキャサリンとお伺いする途中ですの」
「・・じゃあ俺が護衛をしてやろう。また誘拐されたら敵わないからな」
王都の町のど真ん中で誘拐なんてする者などいないだろうに、ぶっきらぼうに吐き捨てるようにそういうと、彼は私たちの返事も待たずにすぐ前を歩き始めた。その私たちの後ろを他の二名の騎士が続いて歩く。
「エミリー・・・」
キャサリンが初めて見る乱暴なタイプの男性に恐れを抱いて、泣き顔をして私を見る。私は落ち着かせるようにゆっくりとキャサリンを見て、大丈夫だからと手と目で合図を送った。
「遅いぞ!!」
「ひっ!!」
なかなか足が進まないキャサリンに業を煮やしたのか、クライブ様が大きな声を出して振り返った。その獰猛な熊がいきなり咆哮したような様子に、キャサリンはその場で硬直したまま固まった。彼女は女性としても小柄な方なのでクライブ様と並んで立つと、本当に彼の半分くらいの背しかない。しかもあの安定の目つきの悪さではキャサリンのそういった反応も当然だと言える。
こりゃ駄目だ・・・。
でも護衛の申し出を部下の目の前で断ってしまうと、クライブ様の騎士隊長としてのメンツが潰れてしまうだろう。かといってこのままクライブ様と一緒に歩くことは、キャサリンにとっては地獄の修行の様なものだ。
「キャサリンはここで他の騎士様達と待っててくれるかしら?私がノーフォーク様とお店に行ってくるわ。行って少し話を聞いてくるだけですもの、すぐに終わって帰ってくるわ」
そういって彼女を道の端にあるベンチの所まで誘導した。そうしてキャサリンを他の騎士の方にお願いをして、私はクライブ様の隣に立った。
「ここから二キロほど先にあるボナシューレというお店ですの。それとできれば歩幅を半分にして、石畳の隙間を踏まないようにして歩いていただけませんか?」
「・・・どうしてだ?理由がわからん」
「ノーグローブ様の足が速いので、そのスピードだと私は思い切り走らなければいけませんわ。そうしたらヒールが石畳の隙間に挟まって転んでしまいますの。それでは護衛してくださる意味が全く無くなってしまいますもの。石畳の隙間を意識していただければ、その分歩調もゆっくりになるでしょう?」
そういって微笑んで、遥か上方にあるクライブ様の顔を見上げた。太陽が真上にあるので彼がどんな表情をしているのかはうかがい知れなかったが、返事の代わりに急速に足の歩みを緩めてくれた。なのでようやく落ち着いてクライブ様の隣を歩く事ができる。
「・・・・・・・・・・・」
クライブ様がいま何を考えているのか分からないが、互いに無言のまま淡々と歩いて行く。彼と並んで歩くと前から歩いてくる歩行者が避けて歩いてくれる事に気が付いた。意外に快適だ。良かった、この分だと思ったよりも早く到着できそうだ。私はにんまりと微笑んで歩き続けた。
「・・・・お前、あの時の女か・・・」
「もしかして騎士団でお会いしたことをもうお忘れですか?」
少し風がきつくなってきたので、髪が風で巻き上がってクライブ様に当たったりしないように押さえつけながら会話をする。顔を上げて彼の方を見ると、ほんの少し頬を赤く染めていた。
「違う・・そうじゃない・・・」
再び沈黙が訪れて、界隈を歩く人たちのざわめきだけが耳に入ってくる。そうしてまた突然クライブ様がその重い口を開いた。
「・・・・オルグレンと結婚するのか?」
相変わらず唐突な男だ。何を考えているのか全く分からない。
「どうでしょうか?まだプロポーズはされていませんわ。あ、次の通りを右です」
「あいつを愛しているのか・・・」
かなり個人的なことに言及した質問だが、クライブ様の事だ。他意なんてものはそこには存在しないのだろう。ため息をつきながら、構えず普段通りに言葉を返す。
「最近その恐ろしい事実に気が付いて、自己嫌悪に陥っているところですわ。人生って思い通りにはいかないものですわね」
「・・・そうか・・・確かにそうだな・・・」
何だか寂しそうな調子がその声に混ざっていたような気がして、思わず顔を上げてクライブ様をみた。ほんの少し憂いが混ざったような目をして私を見た後、クライブ様が顔を逸らす。
「あ・・・つきましたわ。ボナシューレ・・・ここですわ。ではノーグローブ様、送って頂いてありがとうございます」
そういってお暇しようと礼をしたら、そのまま私の頭を両手で掴んでクライブ様が無理やり持ち上げた。相変わらず獣の様な男だ。
「用事が終わるまでここで待っている。だからさっさと用事を済ませてこい。帰りも送ってやるから心配するな」
これは私が嫌だといっても頑固にここで居座るつもりに違いない。私はそのままクライブ様を見上げてからお礼を述べ、店の中に足を進めた。
ボナシューレというジュエリーショップはいま王都で一番人気のお店だ。少し薄暗い店内に入ると、すぐに店員の男性に声をかけられた。高級ジュエリーショップに小娘が一人で現れたというのに、その顔にはいっさい嘲りの表情は見えない。さすがはプロフェッショナルだ。
「いらっしゃいませ、お嬢様。ボナシューレにようこそ。本日は何かお探しですか」
ポマードで張り付けられた髪に首に巻かれた蝶ネクタイ。顔に浮かんだ愛想のいい笑顔は嫌味がなく上品だ。私は店員と軽く挨拶を交わして、店内の様子を見る。
入り口から進んだ中の部屋は窓もなく、シックで格調高い雰囲気が漂っている。その奥に見える天井がガラス張りの一角は、モダンな感じで内装をまとめてあった。
そうしてその脇にある部屋では、丸く組まれたショーケースの周りを囲むようにカーテンで仕切られた個室があり、そこで客に様々な宝石を見せているようだ。その部屋のカーテンをくぐって、ある一人の女性がガラス天井の部屋にやってきた。
ショーケースの中の宝石を台の上に乗せ換えている。その女性はモダンな紫のシックな色のドレスを着て、顔は完璧に化粧が施されていた。ブルネットの髪を頭の上で巻いて、ほんの少しだけ髪の束を顔の前に垂らせている。印象的な彼女の緑の瞳が、一瞬私を捉えた。
あの女性・・・ダニエルに暴言を吐かれてそれでも喜んで涙を流していた女性・・・彼女だわ!!
そのまま導かれるように、私は足を進めて彼女の傍までやってきた。すると始めは妙な顔をして私を見ていたが、私の首元に光るチョーカーを見てその女性は顔色を変えた。
彼女はやっぱりダニエルの何かを知っているのだわ!
そう直感した私は、すぐに彼女に詰め寄った。
「あの、私エミリー・スタインズと申します。ダニエルの事についてお話が聞きたいのですが、よろしいでしょうか」
彼女は緑の印象的な瞳を大きく見開くと、怯えたような顔になって・・・次第に諦めたような表情に変わると、大きくため息をついて私の手を取ってこういった。
「私はマダム・ボニータです。このジュエリーショップのオーナーですわ。お話なら奥のお部屋でお聞きします。そこに座って待っていてくださる?」
そういって彼女は店員に合図をし、私を個室の一つに案内させた。少し狭い部屋の中の椅子に腰を掛けて、マダムがやってくるのを緊張した面持ちで待つ。
彼女は自身をマダムといった。という事は結婚しているってことなのかしら?なのにダニエルとだなんて・・・一体二人はどういった関係なの?!
頭の中を色々な悪い想像が占めて段々と憂鬱になってきた。一番最悪の可能性を考えて衝撃の事実に備える。こういう場合そうしておけば大抵のことは耐えられるものだ。最悪の可能性よりも、他のことなら少しはましだろうからだ。
そこに彼女が戻ってきた。椅子に腰かけた私の前に立つと、彼女は突然私の手を両手で握って頭を下げた。その手は尋常では無いほどに震えていて、彼女のそんな様子に思わず血の気が引いて背中に悪寒が走る。
やはり最悪の予想が的中してしまったのだろうか・・・。
「ごめんなさい!伯爵様に言われて貴女には酷い事をしてしまったわ。許してちょうだい!」
私は目の前が真っ暗になるといった表現は、比喩ではなくて本当の事だったのだわと、冷静に考えながら・・・目の前で涙を流しながら謝り続ける美しい女性の顔をぼんやりと眺めていた。
黒い騎士服を着て腰に帯剣をしているクライブ様は、私の左腕を握りしめたまま質問をした。彼の背後には二名の騎士が立っており、彼らは私たちを見て会釈をする。
腕の痛みに思わず私が顔をしかめると、すぐさま察してくれたようでクライブ様は無言でその手を離した。少しは私の教育的指導の効果があったらしい。ほくそ笑みながら腕をさすっていると、キャサリンが私の肩に手を置いた。
「大丈夫?エミリー!」
心配して駆け寄ってきたキャサリンを笑顔で制して大丈夫だと答えた。たとえ騎士服を着ていたとしてもクライブ様の容貌とその佇まいは、そんな系統の男性に慣れていないキャサリンにとってはまるで化け物のように見えたに違いない。
キャサリンの顔は青ざめていて、体を細かく震わせているのが肩に置かれた手を通して感じられた。私はまずクライブ様に挨拶をし、キャサリンとクライブ様の間に立って二人を紹介し合う。
クライブ様が王国の騎士隊長だと紹介されても、キャサリンは彼の様な武骨な男性は苦手なようで怖がって目を極力合わさないようにしている。
「あの、エミリー・スタインズ。・・・フリオの事は・・・すまなかった。俺の責任だ」
そういって大きな図体をしたクライブ様は、肩を丸めて目を下方に逸らせた。自分の部下が他国のスパイだったと知って、彼はかなり責任を感じている様だった。恐らく彼の立場上、昨日の私の誘拐事件の事を詳細に知っているに違いない。
「ノーグローブ様。これは全てダニエル様の計画だったのですから、お気になさらないでください。それに私は怪我も全くしていませんわ。それよりどうして王都にいらっしゃるの?」
「・・・仕事だ。あいつらの根城がこの町にもあって、捜索を終えたところだ。あんたこそ昨日の今日で王都で買い物なのか?呑気なものだな」
言い方はきついがこれでも心配しているのだろう。相変わらずの鋭い眼力で私を睨んでいるが、私は意にも介さずに彼を見て笑って答えた。
「この先のお店に用事がありまして、友人のキャサリンとお伺いする途中ですの」
「・・じゃあ俺が護衛をしてやろう。また誘拐されたら敵わないからな」
王都の町のど真ん中で誘拐なんてする者などいないだろうに、ぶっきらぼうに吐き捨てるようにそういうと、彼は私たちの返事も待たずにすぐ前を歩き始めた。その私たちの後ろを他の二名の騎士が続いて歩く。
「エミリー・・・」
キャサリンが初めて見る乱暴なタイプの男性に恐れを抱いて、泣き顔をして私を見る。私は落ち着かせるようにゆっくりとキャサリンを見て、大丈夫だからと手と目で合図を送った。
「遅いぞ!!」
「ひっ!!」
なかなか足が進まないキャサリンに業を煮やしたのか、クライブ様が大きな声を出して振り返った。その獰猛な熊がいきなり咆哮したような様子に、キャサリンはその場で硬直したまま固まった。彼女は女性としても小柄な方なのでクライブ様と並んで立つと、本当に彼の半分くらいの背しかない。しかもあの安定の目つきの悪さではキャサリンのそういった反応も当然だと言える。
こりゃ駄目だ・・・。
でも護衛の申し出を部下の目の前で断ってしまうと、クライブ様の騎士隊長としてのメンツが潰れてしまうだろう。かといってこのままクライブ様と一緒に歩くことは、キャサリンにとっては地獄の修行の様なものだ。
「キャサリンはここで他の騎士様達と待っててくれるかしら?私がノーフォーク様とお店に行ってくるわ。行って少し話を聞いてくるだけですもの、すぐに終わって帰ってくるわ」
そういって彼女を道の端にあるベンチの所まで誘導した。そうしてキャサリンを他の騎士の方にお願いをして、私はクライブ様の隣に立った。
「ここから二キロほど先にあるボナシューレというお店ですの。それとできれば歩幅を半分にして、石畳の隙間を踏まないようにして歩いていただけませんか?」
「・・・どうしてだ?理由がわからん」
「ノーグローブ様の足が速いので、そのスピードだと私は思い切り走らなければいけませんわ。そうしたらヒールが石畳の隙間に挟まって転んでしまいますの。それでは護衛してくださる意味が全く無くなってしまいますもの。石畳の隙間を意識していただければ、その分歩調もゆっくりになるでしょう?」
そういって微笑んで、遥か上方にあるクライブ様の顔を見上げた。太陽が真上にあるので彼がどんな表情をしているのかはうかがい知れなかったが、返事の代わりに急速に足の歩みを緩めてくれた。なのでようやく落ち着いてクライブ様の隣を歩く事ができる。
「・・・・・・・・・・・」
クライブ様がいま何を考えているのか分からないが、互いに無言のまま淡々と歩いて行く。彼と並んで歩くと前から歩いてくる歩行者が避けて歩いてくれる事に気が付いた。意外に快適だ。良かった、この分だと思ったよりも早く到着できそうだ。私はにんまりと微笑んで歩き続けた。
「・・・・お前、あの時の女か・・・」
「もしかして騎士団でお会いしたことをもうお忘れですか?」
少し風がきつくなってきたので、髪が風で巻き上がってクライブ様に当たったりしないように押さえつけながら会話をする。顔を上げて彼の方を見ると、ほんの少し頬を赤く染めていた。
「違う・・そうじゃない・・・」
再び沈黙が訪れて、界隈を歩く人たちのざわめきだけが耳に入ってくる。そうしてまた突然クライブ様がその重い口を開いた。
「・・・・オルグレンと結婚するのか?」
相変わらず唐突な男だ。何を考えているのか全く分からない。
「どうでしょうか?まだプロポーズはされていませんわ。あ、次の通りを右です」
「あいつを愛しているのか・・・」
かなり個人的なことに言及した質問だが、クライブ様の事だ。他意なんてものはそこには存在しないのだろう。ため息をつきながら、構えず普段通りに言葉を返す。
「最近その恐ろしい事実に気が付いて、自己嫌悪に陥っているところですわ。人生って思い通りにはいかないものですわね」
「・・・そうか・・・確かにそうだな・・・」
何だか寂しそうな調子がその声に混ざっていたような気がして、思わず顔を上げてクライブ様をみた。ほんの少し憂いが混ざったような目をして私を見た後、クライブ様が顔を逸らす。
「あ・・・つきましたわ。ボナシューレ・・・ここですわ。ではノーグローブ様、送って頂いてありがとうございます」
そういってお暇しようと礼をしたら、そのまま私の頭を両手で掴んでクライブ様が無理やり持ち上げた。相変わらず獣の様な男だ。
「用事が終わるまでここで待っている。だからさっさと用事を済ませてこい。帰りも送ってやるから心配するな」
これは私が嫌だといっても頑固にここで居座るつもりに違いない。私はそのままクライブ様を見上げてからお礼を述べ、店の中に足を進めた。
ボナシューレというジュエリーショップはいま王都で一番人気のお店だ。少し薄暗い店内に入ると、すぐに店員の男性に声をかけられた。高級ジュエリーショップに小娘が一人で現れたというのに、その顔にはいっさい嘲りの表情は見えない。さすがはプロフェッショナルだ。
「いらっしゃいませ、お嬢様。ボナシューレにようこそ。本日は何かお探しですか」
ポマードで張り付けられた髪に首に巻かれた蝶ネクタイ。顔に浮かんだ愛想のいい笑顔は嫌味がなく上品だ。私は店員と軽く挨拶を交わして、店内の様子を見る。
入り口から進んだ中の部屋は窓もなく、シックで格調高い雰囲気が漂っている。その奥に見える天井がガラス張りの一角は、モダンな感じで内装をまとめてあった。
そうしてその脇にある部屋では、丸く組まれたショーケースの周りを囲むようにカーテンで仕切られた個室があり、そこで客に様々な宝石を見せているようだ。その部屋のカーテンをくぐって、ある一人の女性がガラス天井の部屋にやってきた。
ショーケースの中の宝石を台の上に乗せ換えている。その女性はモダンな紫のシックな色のドレスを着て、顔は完璧に化粧が施されていた。ブルネットの髪を頭の上で巻いて、ほんの少しだけ髪の束を顔の前に垂らせている。印象的な彼女の緑の瞳が、一瞬私を捉えた。
あの女性・・・ダニエルに暴言を吐かれてそれでも喜んで涙を流していた女性・・・彼女だわ!!
そのまま導かれるように、私は足を進めて彼女の傍までやってきた。すると始めは妙な顔をして私を見ていたが、私の首元に光るチョーカーを見てその女性は顔色を変えた。
彼女はやっぱりダニエルの何かを知っているのだわ!
そう直感した私は、すぐに彼女に詰め寄った。
「あの、私エミリー・スタインズと申します。ダニエルの事についてお話が聞きたいのですが、よろしいでしょうか」
彼女は緑の印象的な瞳を大きく見開くと、怯えたような顔になって・・・次第に諦めたような表情に変わると、大きくため息をついて私の手を取ってこういった。
「私はマダム・ボニータです。このジュエリーショップのオーナーですわ。お話なら奥のお部屋でお聞きします。そこに座って待っていてくださる?」
そういって彼女は店員に合図をし、私を個室の一つに案内させた。少し狭い部屋の中の椅子に腰を掛けて、マダムがやってくるのを緊張した面持ちで待つ。
彼女は自身をマダムといった。という事は結婚しているってことなのかしら?なのにダニエルとだなんて・・・一体二人はどういった関係なの?!
頭の中を色々な悪い想像が占めて段々と憂鬱になってきた。一番最悪の可能性を考えて衝撃の事実に備える。こういう場合そうしておけば大抵のことは耐えられるものだ。最悪の可能性よりも、他のことなら少しはましだろうからだ。
そこに彼女が戻ってきた。椅子に腰かけた私の前に立つと、彼女は突然私の手を両手で握って頭を下げた。その手は尋常では無いほどに震えていて、彼女のそんな様子に思わず血の気が引いて背中に悪寒が走る。
やはり最悪の予想が的中してしまったのだろうか・・・。
「ごめんなさい!伯爵様に言われて貴女には酷い事をしてしまったわ。許してちょうだい!」
私は目の前が真っ暗になるといった表現は、比喩ではなくて本当の事だったのだわと、冷静に考えながら・・・目の前で涙を流しながら謝り続ける美しい女性の顔をぼんやりと眺めていた。
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・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
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