メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第1章

第4話 席替えって命懸け

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 席替え――それは、気になる異性と合法的且つ物理的にお近付きになれるかもしれない、世の学生にとっての一大イベントなのである。

 とは言ってみたものの、俺の場合はある程度距離が離れていた方が、不要な争いが避けられて身を削らずに済むのかもしれない。

「じゃあ女子から先にクジ引いてくれー」

 谷内先生が教台の上で、席番号の書かれたクジの入った箱をワサワサと掻き回す。

 すると、昨日転校してきたばかりの白峰さんが手を挙げたことで、一斉に皆の注目が窓際一番後ろの席へと集中した。

「どうした白峰?」

 突如寄せられた好奇の視線にビクつき、萎縮しながら恐る恐る返す白峰さん。

「せ、先生……す、すみません……わ、私、このままが、いいです……あ、あの、席……」

 この通り、白峰さんはコミュニケーションに若干の難があった。昨日も転校生の宿命とも言える休み時間に訪れた机を囲まれての質問責めに対して、疾風の如く逃亡を図り、ろくに話せた生徒はいなかったと聞く。

「そ、そうだな……白峰は転校してきたばかりだし、皆はそれでもいいか?」

 一部の男子からは、抗議の声が聞こえた。恐らくその理由は、白峰さんと隣の席もしくはその周辺になる確率が極めて低くなってしまうからだろう。全く愚かだ、男子ってやつは。

 少数派である男子生徒の意見は人権派の女子生徒によって虚しく打ち砕かれ、白峰さんだけは特別にこれまで通りの席に決まった。軽く後ろを振り返ると、彼女は文字通りホッと胸を撫で下ろしている様子だった。


 先に女子がクジを引き終えると、黒板の座席表に名前が刻まれていく。男子は各々、ターゲットがこれから座る席を食い入るように睨みつけ、自らの脳に焼き付けていた。そんなことしても、結果は運なのに。

 クルッと振り返ってきた持田は「また近くの席になれるかな……私たち?」と、寂しがりやな兎のようにつぶらな瞳を向けながらほざく。

「気持ち悪いこと言うなよ。お前と顔合わせるのなんて昼休みだけで十分だっての」

「奏向くんひど~い。もう知らないっ!」

 3流ラブコメのヒロインばりのぶりっ子でプイッと顔を背け、持田はクジを引きに席を立つ。

 すぐに俺の番が回ってくると、正直どこでも良かったから、その場で開かずに席へ戻った。

「じゃあ次男子、前に来て名前記入してくれ」

 先生の掛け声で、俺はようやっとクジを開いて驚愕する。その番号は、30番――このクラスの合計は36人。つまり、多くの男子生徒が狙っていた唯一の特等席とも言える白峰さんの隣の席を、引き当ててしまったのだ。

 俺がその席に名前を記入すると、キリキリ刺さるような視線が、四方八方から向けられる。

 その様子を案じた持田は、席に戻った俺にコソコソと耳打ちした。

「お前って奴は、運がいいのか悪いのか……刺されたりすんなよ?」

「こんなことで刺されてたら命がいくつあっても足りんわ……!」

「いやいや、アイツらの目見てみろよ?   あれきっと近い内に何かしらの瞳術開眼させちまうよ。あっちの奴はこめかみに力入り過ぎて、第三の目とか開きそうだぞ」

 周りを見渡すと、確かに学校の教室とは思えないほど殺伐とした雰囲気が漂っていた。

「な、なぁ持田……席変わってく――」
「嫌だ。俺、まだ死にたくないし」

 掌を突き出しながら、俺の言葉を遮る持田。

「お、俺たち、友達だろ……?」

「俺と会うのは昼休みだけで十分なんだろ?」

「それは照れ隠しだって。なぁ健斗頼むよ」

「あ、お前それずるいぞ。けどダメー!」

 交渉は決裂だと言わんばかりに手をクロスさせると、持田は前を向いてしまった。全員が名前を記入したところで、一斉に机を移動させての引っ越し作業が始まる。

 白峰さんの隣へとやって来た俺は、挨拶をするべきか否か悩んだが、結局声はかけられなかった。なんかこう……見えない壁のような、喋りかけないで下さいオーラ的な何かを、本能的に感じ取っていたから。

 ちなみに遥香の席は廊下際の一番後ろで、持田は教室中央付近に移っていた。

 やはりまだ方々から痛い視線は送られてきていたけれど、俺より後ろの席はない為、背後から刺される心配は要らぬことに、少しばかりの心の余裕を感じていた。
 

 ――この日の放課後、突然に事件は起こる。

 俺は一度は帰路についたが、その道中に課題で必要なノートを忘れたことに気がつき、急いで教室へと引き返していた。

 太陽も沈みかけるこの時間帯の校舎は、すれ違う人も音もほとんどなく、まるでパラレルワールドへ迷い込んだかのように思えて、幼心を彷彿とさせる。

 教室のすぐ傍まで到達すると、バタントタンと、床に何かを叩きつけるような音が聞こえてきた。まさか、どこぞのカップルが放課後の教室で欲望のままにイチャついているのではなかろうか。

 真相を確かめる為にも、開いていた教室後方の扉からそーっと息を殺して覗いてみると、俺の想像を遥かに超えてくる、信じられない光景を目撃してしまう。

 教室の後ろ……授業参観などでは保護者がずらっと並ぶ、あのスペース……そこが今まさに――ライブ会場と化していた。だが、ドラムもベースも、ボーカルの姿すら見当たらない。

 ――そこにいるのは、麗しのギタリスト……ただ1人。

 何を見たのか詳しく状況を説明すると、あの大人しくてコミュ障の転校生、白峰さんが……軽快なステップを刻みながら、掃除道具のホウキをギターのように脇で抱え、激しい演奏の真っ最中だったのだ。

 もちろん、ホウキだから音はない。

 あまりの衝撃に、俺はその場で動けなくなる。

 そしてその迫力に、思わずゴクリと息を呑む。

 音楽経験がこれっぽっちもない俺でも、そのパフォーマンスには圧倒される何かを感じた。

 目を凝らすと、彼女の耳にはワイヤレスイヤホンが装着されている。一体、どんな音楽を聴いているのだろうか。それが気になって仕方がない。でも彼女のイメージとは異なり、中々にロックな曲調であることは、間違いなかった。

 恐らく、間もなくクライマックス……白峰さんの動きがより一層激しくなると、スラリと長い脚をバネのように力を溜めて、高く、高く、飛んだ。

 跳ね上がって、時が静止したかの如く緩やかに地上へ降り立つと、彼女の指が見えない弦から遠のき、身体の動きがピタリと止まる。

 まさにその時、バサリと空気抵抗を受けてひらめくスカートに、重力が追っ付くよりも先に俺の視界へ飛び込んでくる――チラリどころか、モロリのパンモロ。

 偏見かもしれないけれど、もっと大人の女性が穿いていそうな黒いレースの、極端に布面積の狭いランジェリー。

 その奥で控えているであろう見えてはいけないものが見えそうで……いや、パンツ自体も見てはいけないんだろうけど……俺は脳を焼かれて腰が抜け、その場でバタンと音を立てて尻餅をついた。

 ヤッバ……どうか白峰さんには聞こえていませんように……ノイズキャンセリング機能、仕事しててくれよ……?

 この無言の祈りも儚く、白峰さんは、ギギギ……と、ぎこちなくこちらを向いた。

「えっ……」

 ――消え入りそうな、声だった。
 
 
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