メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

文字の大きさ
19 / 54
第2章

第19話 転校生とデートすぎる

しおりを挟む


 
 今朝は、珍しく髪の毛をセットしてみた。

 ワックスが手になじむ際の不快感は、いつまでたっても慣れることはないだろう。

 後ろ髪はおかしくないか、横から見ても自然かどうかなどを確かめていると興が乗り、意図せず鏡の前でポーズをとってみたり。そのとき、背後から聞こえる棒読みの「へぇ~」という声に驚き振り返る。

「なっ……なんでお前がいるんだ……俺、昨日ちゃんと言ったよな……?」

 洗面所の入口から、顔の上半分だけ出してこちらを覗き込んでいる、妖怪みたいな幼馴染。
 
「聞いたよ~。ちょっとでも会いたいなあって思ったから来てみたけど、やっぱこなきゃよかった。奏向、あたしといる時は髪型なんて気にしたことないじゃん……」

「そ、それは……お前には昔から俺の顔なんて飽きる程見られてるから、今さら着飾る必要なんてないかと思ってただけで……」

「なん言いよーとよ、嘘つき……」

 嘘つき、うそつき、ウソツキ……まるでエコーがかかったように、俺の頭の中で遥香の声がこだました。

「ごめん……」

「なーんて、うっそー! 落ち込んだフリでしたー。やーい、騙されてやんのー!」

 ケロッとメスガキモードにチェンジした遥香は、下瞼を引き下げてペロッと舌を覗かせた。

「お前……マジで心臓に悪いからやめてくれ」

「ざぁこ♡」

 朝っぱらから恒例の決め台詞を頂戴した俺は、玄関まで遥香に見送られて家を出る。
 
 ――なぜあいつはまだ俺ん家に残っているんだ? という疑問はこの際考えない事にした。

 
 待ち合わせの駅に到着すると人が大勢いたけれど、モデル体型の白峰さんは目立つから迷わず合流できた。
 
 ノースリーブのブラウスにロングスカートというイメージにそぐわぬ清楚な私服姿は、目の保養を越えて目のエナジードリンクと言って差し支えない。心なしか視力が3くらい上がった気さえする。

「ごめん、待たせちゃったか?」

「い、いえ、私が勝手に早く着いてしまっただけなので……」

「昨日はホントごめん!」

「そ、そんな……こちらこそ先に帰ってしまってすみませんでした。手紙が風に飛ばされちゃったらどうしようって思っていたので、ちゃんと届いて良かったです……」

「わざわざ紙で残さなくてもメールくれればよかったのに。でもアレ、読んでから美味しく頂いたよ」

 俺の冗談に、ぷっ……と吹きだす白峰さん。

「ははは……それだと夜木君じゃなくて、ヤギさんになっちゃいますよ?   ふふ……」

 良かった、またあの無邪気な顔で笑ってくれた。白峰さんはやっぱり、この笑顔が一番素敵だ。

「伝わってよかった……」
 
「でも……もしそうだとしたら夜木くんは、白ヤギさんなのでしょうか、それともやっぱり、黒ヤギさんでしょうか……」

 彼女は表情を戻すと、考え込むように手を顎に当てた。
 
「ど、どういう意味……?」

「な、なんでもありません、今のは忘れてください……!」

 両手を俺に向けてバタバタと振った際にチラリと見えた美しい腋は、今すぐ天然記念物に認定して保護されるべきだと思った。

「それで今日はどこか行きたいとことかある?」

「わ、私、動物園に、行きたいです……! いいでしょうか……?」

 いじらしく向けられた上目遣いを、直視できない。

「も、もちろん、俺も動物園とか久々だし楽しみだ……!」

「あ、ありがとうございます……!」


 電車に乗り込むと、白峰さんは乗り合わせた男性諸君から一斉に注目を浴びる。

 やはり学校の外でも彼女の魅力は人を惹きつけるみたいだ。というより、制服を脱いだことによって、より一層あか抜けて見えるのかもしれない。

「白峰さん、あの席空いてるから座ったら?」

「え……でも1席分しか空いていませんし、夜木君が座って下さい……」

「今日は昨日のお詫びなんだから、俺にかっこつけさせてくれよ」

「わ、わかりました……でも疲れたらすぐ言ってくださいね。交代するので……」

 もしこれが遥香だったら、遠慮などせず、わーいと言って座っているだろう。別に比べている訳じゃない。2人にはそれぞれいいところがあって、タイプも全然違う。だからこそ、俺はこんなにも悩まされているのだから。

「夜木君は、動物園でなんの動物がみたいですか……?」

 吊革に掴まる俺を見上げ、彼女は尋ねた。

「えっと……やっぱライオンとかトラかな。かっこいいし」

「やっぱり男の子は、強い動物が好きなんですか?」

「うーん、一概には言えないけど人気だとは思うよ。白峰さんは?」

「今日のお目当ては、シマウマさんです」

「どうして?」

「以前、ネットでどこかの動物園の人気ランキングを見たことがあるんですけど、そのアンケートではシマウマさんが0票だったんです。私たち人間のためにせっかく動物園で暮らしてくれているのに、そんなのあんまりだって思いました。だから私は今日、シマウマさんに1票を入れにいくんです」

「白峰さんらしいな……じゃあ俺も、ライオンには悪いけど今日はシマウマに浮気するよ」
 
「ふふ……浮気はいけませんけど、これで2票も集まりましたね」

 声を抑え、控えめに笑う白峰さん。

 ――彼女の微笑みには、不思議な力がある。

 きっとこれは、彼女の底知れぬ優しさと、裏表のない素直さからくる安心感なのだろう。心が洗われて、優しい光で照らされ、綺麗に畳まれるような、そんな感覚。

 もしも更生不可能とされるような凶悪犯でも、彼女の微笑みを受ければ、あるいは……

 ふと、そんなことすら考えさせられてしまう。


 電車を降りて複雑に入り組む駅の構内を抜けて行くと、動物園はすぐ目の前だった。

 

 

 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

処理中です...