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第2章
第19.5話 幼馴染と女子会(遥香Side)
しおりを挟む奏向が夜空とのデートに行っちゃうのを見送ったあたしは、リビングに駆け込んで奏向ママに泣きついた。
「うぇーん、奏向ママぁ……奏向があたしを置いて別の女に会いにいっちゃったよぉ……」
ソファに座っていた奏向ママは、それを聞いて飛び上がると電話を握って狼狽え始めた。
「なんですって……!? 自衛隊か? SATか? それともゴルゴか? 私は誰に出動要請を出せばいいんだ!? 遥香ちゃんを泣かせるとはあのドラ息子、帰ってきたら去勢してやる」
「それはダメぇ~……あたしが困るぅ……」
「そうだ遥香ちゃん、ケーキ食べる?」
「うん、食べる!」
「それじゃ、今から女子会しましょ?」
ケーキとあま~いコーヒーを用意してくれた奏向ママは、あたしのなが~い話を「うんうん」と相槌を挟みながら聞いてくれた。すっごく聞き上手で、同級生の友達と恋バナするよりも話しやすくて、大人の余裕を感じた。
「ねぇ酷くない? あたしが寝てる隙に黙って他の女に会いに行ってたんだよ!? これは今のうちに矯正しとかないと絶対将来浮気とか不倫に走っちゃう兆候だよ!」
「そっかそっか……そりゃおもしろ……いや大変な状況になってるねえ」
「奏向パパは浮気とかしたことある?」
「バレたら私に殺されるのが分かってるから、あの人は多分したことないんじゃないかな」
「じゃあ奏向も大丈夫かな……? そういうのって遺伝とかって関係あるのかな?」
「遥香ちゃんがしっかり手綱を握ってれば、奏向もしないと思うわよ? ウチは代々女性が強い家系らしいから」
「奏向パパもドMなの?」
「それは秘密……」
奏向ママは優しい表情で片目を閉じて、口元に人差し指を添えた。ちょっとえっちだ。
「そだね……奏向パパは、奏向ママのだもんね。そんなこと他の人には知られたくないか」
「そうじゃないよ? いくら結婚してるとは言え、人は誰かの所有物になんてならない。1人の人として尊敬し合って、尊重し合う、その気持ちがないと夫婦なんてやってらんないと思うわ。だって元は他人だしね?」
「そっか……じゃあもし奏向ママがあたしとおんなじ状況だったら、こんな時どうするの?」
「ダメだったら私が拾ってやるから、気合い入れて行ってこい! って背中押すかも。若い頃の恋って、他人からどうこう言われようが、止めらんないものでしょ?」
「奏向ママ、かっこいい……あたしはまだ無理だなぁ。そんなこと言えない……」
「私には私のやり方があって、遥香ちゃんには遥香ちゃんなりのやり方があっていいんだよ。誰も正解なんて分かんないんだから。これがベストだと思う方法を、全力で頑張るしかない。それを続けてると、いつの間にか大人になってるから」
「わかった。頑張る」
「早くウチの嫁にきて、孫の顔見せてね?」
「うん。あたしの予定では子供は3人って決めてるんだぁ」
「私より気が早いな!」
「てか奏向ママ、そろそろお仕事行く時間じゃない?」
「あ、本当だ。じゃあ遥香ちゃん、お留守番お願いね? もしインターフォン鳴っても出なくていいから」
「うん、わかった」
バタバタと急いで仕事の支度をして出掛ける直前に、奏向ママはあたしにもうひと言だけ投げかける。
「あ、そうだ。奏向の初恋は、間違いなく遥香ちゃんだから」
「なんでわかるの?」
「母親だからね」
「初恋相手よりも、最後の方がいいな……」
「じゃあ初恋で且つ、最後の女になっちゃいな? 女は欲張ってナンボだよ?」
その言葉を聞いた瞬間、勇気が溢れてくる気がした。
「ありがと! ならやっぱ4人にする!」
「そっちかーい! じゃあ行ってくるね」
「行ってらっしゃい!」
あたしはその後、奏向の部屋で幼稚園から中学校までの卒業アルバムを順番に開いていた。
懐かしい思い出を振り返りながら、どの写真にもやっぱり奏向の隣に写っているのは、あたしだった。
これがあたしの自慢で、ステータスで、そして誇りだ。
もしもこの世界がゲームの中だったなら、どんなにいいんだろう。
だって一度手に入れた経験値は、無くなったりなんかしないから。
頑張ったら頑張っただけ、成果が出る。
でも現実はそうじゃないってこと、高校生のあたしにだって、少しは理解できてるつもり。
みんなこんなこと乗り越えて恋してるとか、やっぱすごいなあ人間って。
なんでこんな面倒くさい感情いっぱい抱えて生まれてくるんだろ。もっと気楽に恋できる構造にすればよかったのに。
それは違うか。
面倒くさいから、尊いのか。
ゲームも難しい方が燃えるもんね。
勝てないから勝とうとするし、持ってないから、いつか持てるように努力する。
きっと、それの繰り返しなんだよね。
奏向ママがあたしに言いたかった事は、きっとそういうことなんだ。
大人になるって、何かを諦めることじゃない。諦めない為にはどうするかを考えるってことなのかもしれない。
だったら、自分に言い訳なんて出来ないくらい、やるしかないんだよね。
なんかちょっと大人になった気分。
奏向が帰ってきたら、愛想よくしよう。
無愛想なあたしじゃなくて、可愛いあたしを、もっと見て欲しいから。
「よし、じゃあ早速作戦開始といきますか!」
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