メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第25話 同級生と焼肉パーティ

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 焼肉――それは網の上で繰り広げられる、小さな戦争。

 自分の領土を守りつつ、肉という名の兵士を一人前になるまで育てていく。

 俺が手塩にかけて育成した一等兵の牛タンが、そろそろいい頃合いだ。

 さて、先にタレ皿へレモンを絞り、早速……

「あれ……?   俺の育てた牛タンは!?」

あーしのふちのははあたしの口の中

 ハフハフと美味そうに咀嚼する遥香。

「おい表出ろ、今日という今日は許さん」

 ゴクンと飲み込んだ遥香は気怠そうに返す。

「食べ放題なんだからまた頼めばいいじゃん。そんな怒ってたらご飯マズくなるよ?」

「誰のせいだ誰の……牛タンは食べ放題メニューに入ってないから別料金で頼んだんだよ!」

「や、夜木君、豚さんのタンならメニューにありますよ?   注文しますか……?」

 優しい白峰さんは毎度こうして折衷案を提示してくれる。でも違うんだ。焼肉の始まりは牛タンだと、恐竜の時代から決まっているのだ。

「ありがとう白峰さん……でもまた追加で牛タンを注文するよ……」

「ねね、それならあたしの分もヨロ~!」

「おい遥香……お前は俺を破産させるつもりか?」

「もし破産したら奏向ん家にあるゲーム売ってきてあげるからモーマンタイ」

 凛々しい顔でグッと親指を立てる幼馴染。

「それも俺の資産なんだよ!   少しくらい遠慮しろよ!」

「じゃあこの後みんなで奏向ん家行く?」

 面の皮一枚から送られる含みのある笑みに、現在の部屋の惨状がフラッシュバックした。

 戦意を喪失し、小声で助けを求める。

「……ごめん、許して……」

「聞こえな~い」

 このメスガキめっ!

「すいませんでした!!」

「ざぁこ♡」


「そういや白峰さんって家どの辺なの?」

 持田はこんな時でも白峰さんに会話を回すジェントルマンだった。

「こ、ここから2駅先です……」

「夜空の家、猫が10匹もいるんだよ!」

 なぜかそれに遥香が乗っかる。

「え!?   俺マジ超猫大大大好き!」

「ほ、本当ですか……!?   ぜひ今度ウチの猫ちゃんに会いにきてあげて下さい……」

「やったぜー!   白峰さんの家にお呼ばれするなんて総理大臣の家より貴重だよな、奏向?」

「そ、そうだな……」

 前々から思っていたが、持田のコミュ力は一体どうなっているんだ。きっと何かしらの特殊訓練を受けたに違いない。俺が焼肉に集中して一切喋らずとも、満遍なく会話を回している。

「はい白峰さん、肉焼けたよ」

 白峰さんの取皿へと焼けた肉を載せる持田。

「あ、ありがとうございます……」

 こ、コイツはコミュ力だけに飽き足らず、気配りまで出来るのか……?

 俺なんてさっきから自分の分しか焼いていないぞ。これか、これがモテ男との差か……?

 挙げ句の果てにスポーツ万能ときたもんだ。

 いかん。奴が遥香を好きだと聞いてからというもの、やけに持田を意識して自分と比べるようになってしまった。

 勝ち目などない、住む世界が違う。俺なんて焼肉で言えばホルモンだ。ホルモンの語源は関西弁で捨てる物を意味する「放るもん」だと聞いたことがある。

 俺なんてゴミだ……俺なんて……

「このハラミすっごく美味しいです……私、ハラミが大好きで……そういえば、この前初めて知ったんですけど、ハラミもホルモンの一種らしいんです!」

 白峰さんのこの言葉に、救われた気がした。捨てる神あれば拾う神ありとはこの事だ。

「白峰さん、ありがとう……全ホルモンを代表してお礼を言わせてくれ……」

「えっ……!?   夜木君もホルモンだったんですか……!?」

 白峰さんの隣に座っていた遥香は、正面の俺を小馬鹿にしたように言う。

「奏向がホルモンなら、持田君はカルビって感じだよねぇ~」

「黒川さんは、どっちが好き……?」

 突如寄せられた持田のこの質問が予想外だったのか、遥香は戸惑いながらも答える。

「や、焼肉なら……カルビ、かな……?」

「焼肉なら……ね……」

 ――憂いを含んだ、持田の表情。

 なんだよこの恋愛ドラマのワンシーンみたいな駆け引きは……こいつマジで容赦ねぇな。


 食事を終えた俺たちは、店を出て余韻に浸るように少し会話を挟み、解散となる。

「じゃあ俺は方向一緒だし白峰さん送ってくわ」

「頼むぞ持田」

「任せとけって。お前も黒川さんを無事に家まで送り届けろよ?」

「こいつは俺なんか居なくても平気だよ」

「ちょい奏向それどういう意味?」

 怪訝な瞳を向けてくる幼馴染を両手で牽制しながら、俺たちは帰路についた。

 街灯の灯りに照らされた帰り道で、遥香は道路に引かれた白線の上だけを器用に沿って歩く。

「お前、小さい頃からよくそうやって歩いてるよな」

「うん、癖になっちゃってるのかも。奏向にはないの?   自分ルール的な」

「そうだな……中学の時、給食とかは好きな食べ物を最後に残してたりしたかな」

「あ、そういえばそだったね。あたしがそれつまみ食いしたら、奏向めっちゃ怒ってた」

「それは今でも変わってねーけどな。牛タンの恨みは忘れてないぞ」

「しつこい男は嫌われるよ~?」

「お前が言うな。あ、あともう一個あったわ」

「なぁに?」

「中学からの帰り道、わざとちょっと遠回りして、お前ん家の前を通って帰ってた」

「え……?」

 バッと振り返った遥香は、今夜の月みたいにまん丸な瞳を俺に向けて、呆けていた。

「あの時はお前のこと、好きだったからな……」

「奏向……」

 薄暗くてもよく視える、猫みたいにキラリと閃く2つの光。

「いつもやられっ放しじゃなんだから、たまには反撃したっていいだろ?」

 意を決したように、口を開く遥香。

「あたし決めた……」

「何を?」

「今日……奏向ん家にお泊まりする!」

「は……?   いやいやいや無理無理無理!   絶対来んな!」

「なんで?   昔は夏休みによくお互いの家で泊まり合ってたじゃん!」

「それはガキの頃の話だろ!?」

「いいもん。奏向の許可なんかなくたって奏向ママに直接電話で聞くから」

 プイッとそっぽを向くと、遥香は早速スマホを取り出して俺の母へ電話を掛け始めた。

 どうやらこの幼馴染は本気のようだ。

 なぜあんなことを、言ってしまったんだろう。

 俺は、もしかして焦っていたのか?

 このままだと遥香を持田に奪われかねないなんて、そんなことを心のどこかで考えていたのだろうか。

 電話を終えた遥香は、嬉しそうに笑った。

「奏向ママのOK、いただきました♪」

「あんのクソババア……」

「帰りにアイス買ってきてって言ってたよ?」

「誰が買うかっ!」


 ――もしも遥香に昨日みたいに迫られたら、俺は耐えることが出来るのであろうか。

 

 
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