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第2章
第24話 親友と恋愛相談
しおりを挟む「で、話ってなんだよ珍しい」
「まぁとりあえずそこら辺座ろうぜ」
体育館の外、日陰になっていた地べたにドカッと腰を下ろした持田は、すぐ隣の地面をペシペシと叩いた。
「熱くねーのか?」
「んまぁ、ウェルダンくらいかな」
「随分こんがりだな、っておい」
いつもとなんら変わらぬくだらない会話。
だけどその表情は、やはり先ほどまでの試合中のように真剣そのものだった。
俺が隣に座ると、持田は満を持して話し出す。
「実は俺……お前のこと……」
「冗談はもういいから早く本題を言え」
「なんだよ。少しくらいフロントトークさせてくれたっていーだろ?」
「お前のそれはフロントトークどころか、そのずっと奥の新しい扉開いてんだよ」
「相変わらず上手いこと言うじゃん」
ハハハと笑う持田は、やっと本題に入った。
「前に言ったろ? 何人かに告られてるけど断ろうと思ってるって」
「ああ……なんだよまた自慢か?」
「ちげーって。あの時は部活に集中したいからって言ったけどさ、本当は俺、好きな人いるんだよな」
「マジか……じゃあなんであの時はわざわざそんな嘘ついたんだ?」
「そりゃお前、その人には俺の他に好きな奴がいるって、なんとなく気付いてたからだよ」
「で、誰だよそれ?」
持田は呆れたように深い息を吐いた。
「奏向ってホント鈍いよなぁ……黒川さんだよ」
「なんだ遥香か……って、え゛!?!?」
眼球がすっぽ抜けるかと思った。
「驚きたいのは俺の方だっての。お前ら、なんでまだ付き合ってないわけ?」
「そ、それは……」
俺は持田に、ここ最近に起こった2人との出来事を包み隠さずに話した。
途中までは黙って話を聞いていた持田だったが、もう限界と言わんばかりに声を大にする。
「ってことは奏向お前、俺のこと言えねー状況だぞ!? クラスの、いや下手したら学校の2大美女を独り占めしてやがんじゃねーか!」
「偶然に偶然が重なったんだよ……俺だってまさかこんな事になるとは思ってなかった……」
「んで、奏向はどっちが好きなの?」
「白峰さん……だと思う」
「じゃあ俺が黒川さん狙ってもいいってことか?」
「……嫌……かもしれない……」
「この浮気者め! でもホント正直だなお前。相手が俺じゃなかったら絶対ぶん殴られてるぞ」
「すまん……本当にどっちなのか分かんなくなる瞬間があるんだよ……特に昨日、お前が電話かけてこなかったら、正直危なかった」
「ってことは、俺的にはナイスタイミングだった訳だ。やっぱ俺持ってるな」
「俺の部屋は今、遥香の写真で埋め尽くされてる……」
「黒川さんってやっぱ、やる事えげつねーのな。そーゆーとこも好きだけど」
「お前は遥香のどんなとこに惚れたんだ?」
「1年の時、クラスは違ったけど一目惚れだった。でも幼馴染の奏向といるとこ見てると、きっとそうなんだろうなぁって思ってさ。んで2年に上がって同じクラスになったお前に真っ先に声をかけたってわけだ!」
「俺は遥香のついでだったってことか……」
「まぁ最初はな。でも今は違う。親友だと思ってるから、言ったんだ……」
持田は本当に、いい奴だ。できることならコイツの恋を応援してやりたいのに、自分の性格の悪さと、器の小ささが嫌になる。
だから俺は、精一杯の嘘を吐く。
「そんなに遥香が好きなら、俺に遠慮なんてする必要ねえよ……」
「お前はバカか? 今俺が告ったってフラれるに決まってんだろ」
呆れたような苦い顔を向ける持田。
「ならなんで俺にそんなこと話したんだよ!」
「俺は勝てる見込みのない勝負なんてしたくねーからな。お前らの行く末を見届けてからでも遅くねーよ」
「意外と計画的だなお前……」
「ま、一番は黒川さんが幸せになることだからな。だからもし、お前が黒川さんを泣かせようもんなら、そん時は俺はお前の敵になる。今日はその宣戦布告をしようと思ったんだよ」
やっぱり持田は凄い。俺は今まで自分のことだけを考えるだけでいっぱいいっぱいだった。それなのにコイツは、自分のことよりも先ず、好きな相手の幸せを考えている。
――男として、完敗だった。
負けたのに、こんなにも清々しいものだろうか。今までの俺に足りなかった部分を、教えられた気がした。
「お前、やっぱすげーよ……勝てる気がしない」
「ばーか。お前は俺よりずっと、黒川さんと一緒に過ごしてきた実績があんだよ。幼馴染ってのは、俺がどれだけ努力したって手に入れられないステータスなんだからよ」
幼馴染がステータスか。今まではそんなこと、考えたことすらなかった。常に隣にいるのが当たり前だったから。でも、それが当然じゃないってこと、そろそろ理解しないといけない頃合いなのかもな。
俺は遥香が好きだった。
いや、もしかしたらまだ好きなのかもしれない。
どちらにせよ、大切な存在であることに変わりはない。
これからは捻じ曲がった先入観は捨てて、真っ直ぐ2人と向き合っていこう。
「ありがとう持田……」
「なんのお礼だよ。最後に勝つのは俺だからな?」
「お前のそういうとこ、好きだわ」
「は……!? おい奏向、さっきのは冗談だぞ? 新しい扉とか開こうとすんなよ!?」
「健斗くんひど~い。あたしとは遊びだったってこと~?」
「うわ……俺いっつもこんなキモいことやってたのか?」
「そうだよ。分かったらもう2度とすんな。吐き気がするから」
「じゃ、2人を待たせてることだし、高級焼肉に向かうとするか!」
立ち上がった持田は、尻をパンパンとはたき砂利を払った。
「おい、誰が高級焼肉なんかに連れて行くか。食べ放題だ食べ放題」
「奏向くんのケチ~。もう知らないっ!」
「てめぇ、全然懲りてねぇな」
俺は今まで、親友なんて呼び合う奴らを心の中で少し馬鹿にしていた節がある。わざわざ友達にランク付けをして何が楽しいのか、疑問だったからだ。
でも、認めざるを得ない。
持田健斗は、間違いなく俺の親友だった。
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