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第2章
第23話 幼馴染と転校生(夜空Side)
しおりを挟むバスケットボールの大会も終わり、夜木君と持田君はお話しがあるとどこかへ行ってしまったので、私と遥香ちゃんはその場に取り残されてしまいました。
遥香ちゃんと2人きりになるのはこれが初めてだったので、ここは私から会話をと思い勇気を出して話題を振ります。
「は、遥香ちゃんはお肉だとどこの部位が好きですか……? わ、私はあまり脂っこいのは苦手なのでハラミとかが好きです……」
「ねえ夜空……あたしも話あるんだけど、ちょっといいかな……?」
何やら深刻そうな表情でした。
「えっ、は、はい……」
体育館の外へと場所を移すと、遥香ちゃんは言い辛そうに「あのさ……」と、切り出します。
「夜空って、奏向のことどう思ってる……?」
「え……ど、どうって、どういう事ですか?」
「だから……好きなの……? 奏向のこと?」
――ビックリしちゃいました。
そんなこと、考えたこともなかったからです。お恥ずかしながら私は、誰かを好きになった経験が、まだありません。
前に通っていた女子校でも、クラスメイトから聞こえてくる会話は恋だなんだというものばかりでした。
それを耳にする度に、初恋もまだの私には程遠い大人の世界に見えてしまって、会話に交ざることなんて出来ませんでした。
でも遥香ちゃんは、そんな私に今、憧れの恋バナをしてくれています。
嬉しくって、恥ずかしくって、でもせっかくの機会を大切にしたくて、私は答えを慎重に選びました。
「ま、まだ……分かりません……」
「そっか……」
「は、遥香ちゃんは、どうなんですか……?」
「好きだよ、めっっちゃ好き」
その表情には自信が満ち満ちていました。
純粋に、かっこいい……と思わされてしまいます。
「夜木君の、ど、どこが好きですか……?」
「全部かな……あ、でもたまに嘘つくとこは嫌いかも……」
「わ、分かります……! 私も夜木君のそういうところは良くないと思います……!」
「やっぱ夜空もそう思う? アイツほんとくだらないとこで嘘つくよね~」
「はい……! お友達に嘘をつくのはよくありません……!」
「じゃあさ……あたしにも夜空の気持ち、正直に教えてよ……」
遥香ちゃんは、益々悲しげに微笑みます。
「う、嘘じゃないんです……! 私、誰かを好きになった事がまだなくって、この気持ちが恋なのかどうか、本当にわからないんです……」
「それマジ!? 初恋もまだってこと?」
「は、はい……すみません……」
「で、でもじゃあ、あのリップは!? 奏向と抱き合った時についたんじゃないの!?」
なぜ遥香ちゃんがそれを知っているのか驚きましたが、私はあの時のことを説明しました。
「あ、あれは……夜木君が眠ってしまってお顔を観察していた時に、つい魔が差してしまって、本当にするつもりなんてなかったんですけど、つまづいちゃって、唇が服に触れてしまったんです……私、それで恥ずかしくなって、咄嗟にその場から逃げ出してしまいました……」
「えっと……経緯は分かったけど、魔が差したって、それやっぱ好きじゃん」
遥香ちゃんは呆れている様子でした。
「そ、そうなのでしょうか……?」
「じゃ逆に夜空は誰にでもチューするの?」
見事に核心を突かれてしまいます。
「し、しません……」
「でもそっか……てっきり夜空と奏向はそこそこ進んじゃってるんじゃないかと思って焦ってたんだけど、あたしの考え過ぎだったか……」
「そこそこってどういうことですか……?」
「だからさ、その……大人の関係的な……」
恥ずかしそうに顔を赤くする遥香ちゃん。
「えっ……わ、私……まだ新品どころか、み、未開封ですよ……?」
私のこの返答に、遥香ちゃんは声を上げて笑ってくれました。
「夜空ってそんな冗談言うんだ……アハハ、意外だね……」
「は、遥香ちゃんはどうなんですか……?」
「あたしも同じだよ。まさか夜空とこんなハナシするとは思わなかったなぁ……」
「わ、私、恋バナって初めてで、上手にできていましたか……?」
「うん……もしかしたら夜空との空気悪くなっちゃうかもって覚悟してたけど、これならまだ大丈夫そう。でもあたし、奏向のことマジだから、夜空にだって絶対負けないからね?」
「は、はい……わかりました……」
「わかっちゃったよ。ねぇ夜空、それってあたしなんて相手にならないって意味?」
少し怒ったような、揶揄うような、そんなお顔でした。
「ち、違います! なんてお返事していいのか分からなかっただけで……」
「分かってるって、冗談だから!」
すぐにいつもの笑顔を取り戻す遥香ちゃん。
「遥香ちゃんも今日はイジワルです……」
「あたしさ、奏向のこと好きだけど、夜空のことも友達として好きだから。できればこれからもどっちとも仲良くしてたいけど、同じ人好きになっちゃったら、たぶんぶつかっちゃうこともあると思う。もしそれであたしのこと嫌いになったら、遠慮せずに言ってね? そうじゃないとなんて言うか、フェアじゃないしさ……?」
もしかして遥香ちゃんは、人生3周目とかなのでしょうか……それくらい、私とは経験値の差があるように思えました。
「もしも私が、夜木君とそういう関係になったとしたら……遥香ちゃんは、私が嫌いになりますか……?」
私の問いかけに、遥香ちゃんは下を向いてしまいました。
「うん……なるかも……」
「そうですか……」
「ごめん……でも綺麗事言ったって、この問題は解決しないからさ……」
「じゃあ私……遥香ちゃんを応援したいです……」
遥香ちゃんは頭を抱えながら大きなため息を吐き出しました。
「全然嬉しくないの、なんでなんだろ。ごめん、この話はもう終わり、一旦忘れて?」
「え……いいんですか……?」
「あたしもとりあえずは今のままがいいって思ったし。また拗れそうになったら話すってことで。だから今日は美味しいお肉食べに行こ? もちろん奏向のおごりで」
「で、でも私たちは優勝してませんよ……?」
「こうなったのも全部奏向のせいだから、あたしらにだって奢って貰わないと」
「なんだか夜木君が可哀想です……」
「大丈夫、奏向はドMだから!」
「そ、そうでした……!」
――これが、私の人生初の恋バナでした。
身体だけは大きくなっても、心は未熟なままなのだと痛感させられました。やっぱり私には、恋をするのはまだ早いのかもしれません。
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