メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第22話 同級生とスポーツ観戦

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 蝉の鳴く声、たちこもる熱気、詰め寄せた観衆、試合会場の体育館は、その全てが暑苦しさで溢れていた。

 スタンド席を確保すると、遥香が真っ先に口を開く。

「マジ暑すぎなんだけど……あたし飲み物買ってくる。奏向もジュース飲むでしょ?   夜空は何がいい?」

「じゃ、じゃあ私も一緒に行きます……!」

 早速、1人になってしまった。

 特にすることもないのでフロアを見つめていると、試合前の練習が始まり選手がコートへ続々と入っていく。

 ダムダムとボールの弾む音が小気味好い。

 黄色いユニフォームに身を包むウチの高校の選手の中には、持田の姿もあった。

 キョロキョロと観客席を見渡し俺を見つけると、高々と親指を掲げている。

 本当になんというか、ブレない男だ。こんな大舞台に先輩達と並び立っても、きっと微塵も緊張などしていないのだろう。羨ましくも、妬ましくも思ってしまう。

 俺もやむ無く同じポーズで激励する。

 ニッコリと笑った持田はそのままゴールまで一直線にレイアップシュートを決めた。


 ジュースを買って戻ってきた遥香は、口を尖らせながら尋ねる。

「ねね、バスケってどうやったら勝ちなの?」

「お前そこからかよ」

「だって試合なんて見たことないし」

「時間内に多く点とった方の勝ちだよ」

「なんだ簡単じゃん!」

「簡単ってお前……」

「私も詳しいことは今まで知らなかったので、昨夜猛勉強してルールを全部覚えてきました……!」

 俺の左隣で小さく両手でガッポーズをする白峰さん。

 ――この人も、相変わらずだ。

「おい遥香、ここに俺より断然詳しい人がいるから、『今のどーなったの?』とか聞くのは白峰さんに聞けば間違いないぞ」

「任せてください遥香ちゃん……!」

 珍しく自信ありげな白峰さんはフンっと鼻息荒く、遥香に視線を送っていた。

「あ、ありがと夜空……」

 気圧された遥香は愛想笑いを浮かべる。

 もしも遥香が白峰さんに突っかかって2人が険悪ムードになりでもしたらどうしよう……なんて一抹の不安を抱えていた俺にとってはホッとする瞬間でもあった。

 遥香は昔から空気は読める奴だったし、友達も大切にしている。やっぱり俺の考え過ぎか。

「そういえば遥香、俺のジュースは?」

「ん?   これだよ?」

 俺との間に置かれた飲みかけのジュースを手に取る遥香。

「それ、お前がさっき飲んでたやつだろ?」

「うん、だからこれ一緒に飲めばいいじゃん」

 なるほど……これがこいつのやり方か。

 遥香の策略を看破した俺は、白峰さんには聞こえない声量で返す。

「そんな銭湯の下駄箱をシェアするみたいな気軽さで言うなよ。それに今日はすぐ隣に白峰さんだっているし……!」

「だから何?   あたしと一緒じゃ嫌ってこと?   それとも、口移しで飲ませて欲しいの?」

 じっとりとした目つきが空間を切り裂いた。

「分かった。ごめん、俺が悪かった……」

「ざぁこ♡」


 試合が始まると、息もつかせぬ攻防が繰り広げられた。

 目まぐるしくコートの左右を行き来する選手たちの体力は凄まじい。俺なら3分でバテバテ間違いなしだ。

 点を取っては取られを繰り返し、第1クォーター終了時には21対17でこちらがやや優勢だった。

「持田くんってバスケ上手なんだね。2年生なのにレギュラーで、さっきも何本かシュート決めてたし」

「そうだな、やっぱあいつすげーわ。ところで解説の白峰さん、今の試合展開を見てどう思われますか?」

「は、はい……!   す、すっごくかっこいいと思います……こここのまま、頑張って勝って欲しいです……!」

 俺の無茶振りにしどろもどろで答えた白峰さん。

「ハハハ……夜空慌て過ぎだって!」

「す、すみません……いきなりだったのでビックリしちゃいました……」

「ごめんごめん、ついこういうのやってみたくてさ」

「今日の夜木君、イジワルです……」

 しゅんとした様子の白峰さんは、俺の庇護欲を大いに掻き立てた。

「も、もうしないから!」

「い、いえ、次の機会までに立派な解説者さんになってみせます……!」

 またあのガッポーズを見せる転校生。

「一体、何を目指してるんだ……?」

「アハハ……やっぱ夜空超天然だ……可愛い過ぎなんだけど……」

 腹を抱えてゲラゲラ笑う幼馴染。

「な、なんで笑うんですか遥香ちゃん……!?」

「だってさぁ……アハハ……」

 俺を挟んだ2人が楽しそうにしているのは、なんだか見ていてホッコリする。こんな光景がずっと続けばいいと思った。しゃあなし、ここに持田も加えて。

 試合が再開すると選手達の放つ熱気は更にヒートアップし、白熱した試合展開を見せた。

 そして迎えた最終クォーターでは97対99と相手チームにとうとうリードを許してしまい、大接戦となる。

 ――残り時間は1分30秒。

 緊張の瞬間を固唾を呑んで見守っていた俺たちは、自然と祈るように両の手を握りギュッと力を込めていた。

 ――ここでチャンスが到来する。

 持田が相手選手からファールを受け、2本のフリースローを獲得したのだ。

 どう考えても2年生には荷が重いこの状況でも落ち着いていた持田は、そのフリースローをさも当然かのように決め、その後の試合終了20秒前には3Pシュートまでもを奪いとった。

 持田のこの活躍により、我が校のチームは108対105で接戦を制し逆転優勝を果たす。

 抱き合って喜びを露わにする選手達を見ていると、こっちまでつい感極まって涙腺が疼いてしまった。

「え、これ勝ったんだよね?」

 遥香の素っ頓狂な問いに、白峰さんは透き通った瞳から溢れた涙を指で拭いながら答える。

「はい、逆転勝利です……!   私、感動しちゃいました……」

「すご!   持田くんおめでとーう!」

 遥香の上げた大声に気付いたらしく、持田はこちらへ試合前と同じポーズを向けた。

 まったく……無駄にかっこいいなホント。


 表彰式が終わり、俺たちはスタンド席を降りて持田に会いに行った。

「見てたか親友、俺の華麗なるスーパー3Pシュートを?」

 ダッサいポーズとキメ顔を向ける持田。

 試合中は男の俺でも惚れそうになるくらいかっこよく見えていたのに、やっぱ喋るとダメだなコイツ。

「あぁ、おめでとう。まさか本当に優勝しちまうとはな」

「おめでとう持田くん!」
「お、おめでとうございます……!」

「サンキュー!   2人の応援マジで元気出たわ!」

「おい、ってことは俺の応援は無力か?」

 そりゃこんな美少女2人から応援されたら本来以上の力だって出せるのかもしれない。

「うそうそ!   3人だったな!」

「それでこの後やっぱバスケ部で打ち上げとかあるのか?   もし空いてるんだったら今日くらい優勝祝いで俺が飯奢るぞ?   2人も来るだろ?」

「モチ!」
「は、はい……!」

「お、マジ?   部活の打ち上げは日を改めてすることになってっから、お言葉に甘えて肉食わせて貰うわ!」

「なんで肉って勝手に決めてんだお前……まぁいいけどよ……」

 すると持田は、珍しく改まった様子で言う。

「なぁ奏向、飯行く前にちょっと話あんだけどいいか……?」

「べ、別にいいけど」

 まるで告白でもされるかのような雰囲気に、なぜか緊張を隠せない俺だった。


 



 
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