メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

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第2章

第38話 幼馴染と夏祭り3

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 金魚すくいの屋台には、小さな子供たちがこぞって挑戦していた。

 あの頃の俺も、あんな感じだったのだろうか。

 屋台のおっちゃんは少し強面だったけど、1匹もとれなかった子供にもオマケで金魚を渡していた様子から、見かけによらず良い人なのが伝わってくる。

「あたしやったことないから、奏向が先に挑戦していーよ?   でも1回きりの勝負だからね?」

「よし、やってやる……!」

 昔は何度も挑戦してたった1匹しかとれなかったけど、あれから俺は、少しくらいは成長しているのだろうか。

 それほど待たずして、俺たちの順番が回ってきた。

「おじさん、ポイひとつ下さい!」

「はいよ兄ちゃん」

 簡易プール内の四方八方を泳いでまわる金魚を眺めながら、ターゲットを絞り込む。あまり大きいのは重みでポイが破れてしまう危険があるから避けたいところ。

 すると不意に、プール内に数匹しかいない黒い金魚に目が留まった。

 スイスイと泳ぐソイツが隅へ向かってきたところに、狙いを定めてポイを着水させる。

「ここだっ!」

 なんとかその金魚をとることに成功するも、力を入れ過ぎたのかポイは破れてしまい、これ以上の続行は不可能となってしまった。

 隣にしゃがんでその様子を眺めていた幼馴染は、ニヤニヤとしたり顔を浮かべていた。

「奏向の記録は1匹だね?」

「くそぉ……」

「でも前に比べたら成長したんじゃない?」

「まぁ言われてみればそうか。じゃあ次は遥香の番だな」

 選手交代すると、遥香は初めてだと言っていたのにも関わらず、1匹目の金魚をサラリとすくいあげて得意げに言う。

「なーんだ、思ったより簡単じゃん!」

「で、でも大きさは俺の方がデカいぞ?」

「じゃあ次はそれより大っきいのとるから!」

 恐らくプールの中で1番大きな金魚に目をつけた遥香は、そーっと近付きポイの上に乗せるところまではいったものの重みで破れてしまい、勝負の結果はドローで幕を閉じる。

 決して勝った訳ではないのに、引き分けがこれほど嬉しいとは知らなかった。喜びが抑えきれなかった俺は普段の恨みを晴らすように、ついついメスガキを挑発してしまう。

「数では引き分けだけど、大きさでは俺の勝ちだな?」

 これには幼馴染も、華麗にメスガキモードへと変身して応対する。

「そんなルール最初に言ってないからただの引き分けでしょ?   奏向いっつもあたしに負けてるからって、そーやって無理やり理由つけてでも勝ちたいの~?   男のくせにみっともなぁ~い」

 もっとも過ぎる反論に、俺はぐうの音も出せなかった。


 金魚すくいの屋台を後にした俺たちは、互いに気になる屋台が見つかるまでブラブラと適当に歩いていた。

 手に持った袋の中で赤と黒の金魚が共に泳いでいる姿を眺めながら、遥香は問う。
 
「てかさ、どうして奏向は黒い子を狙ったの?   金魚といえば普通は赤でしょ?」

「うーん、なんだか人気なさそうだったのが、可哀想だと思ったからかな……」

「それってさ……奏向の思い過ごしかもしれないよ?   もしかしてこの金魚からしたら、誰にも捕まりたくないって思ってたかもしんないし」

 ――遥香の意見に、俺はハッとする。

 動物園に向かっていた時の白峰さんと、真逆のことを言っていたから。

 どちらも彼女たちの優しさであることには変わりない。その根本的に違った2種類の優しさに、俺自身深く考えさせられてしまう。

 そして同時に、今までの己の怠惰を呪った。

 俺はこれまで、自分の中で勝手に想像して創り上げた白峰さんしか、見ようとしていなかったのかもしれない。本当の意味で彼女を知ろうとは、していなかったんだ。

 そしてそれは、ずっと一緒に過ごしてきた遥香にも、一部では当てはまるのだろう。

 長い間抱えていた気持ちを押し殺し、自分の中で自己完結していたせいで、俺は大切な幼馴染を傷つけてしまったんだ。

 もっとちゃんと、知ろうとしていれば。

 もっとちゃんと、理解わかろうとしていれば。

「遥香……お前やっぱすげぇよ」

「なんで?   あたしは普通に思ったこと言っただけだけど……」

「そうなんだよな……俺が勝手に思ってただけなんだ。これに気が付かないままだったら、ずっと悩み続けてたかもしれない。結局誰が何を考えているかなんて、本人にしか分からないんだよな……」

「どしたの奏向、なんか嬉しそう」

「お前のおかげで俺も、やっと少しは前に進めそうな気がする。だから、ありがとう遥香!」

「え、なんかやっぱ、素直な奏向ってちょっとキモい……」
 

 その後も数軒の屋台を食べ歩き腹が膨れてきた頃、片付けを始めていたくじ引き屋の真ん前で、遥香は突然歩みを止めた。

「ん、どした?」

「ねぇ奏向……ありがと。マジ楽しすぎた!」

 満面の笑みでそう言った幼馴染に、俺は戸惑いを隠せない。純粋に嬉しい気持ちと、どこかうしろめたさが同居している不思議な感情。

「お前の方こそ素直だと、なんか怖えーよ」

「また来年もこられるといーなぁ……」

 幼馴染の口からポツリと流れたその言葉が、心に刺さる。俺も内心では同じことを思っていたからこそ余計に。

 同時に2人の人を好きになってしまった愚かな俺には、今はまだそんな先の約束は出来ない。

 でもせめて、いま目の前にいる遥香には笑っていて欲しい。そしてその笑顔を、なるべく多く目に焼き付けておきたい……心からそう思った。

「帰りに公園で、花火でもするか……?」

「どしたの奏向……いつの間にそんなロマンチックな提案出来るようになったの……!?」

 俺が狙っていたのとは正反対な、幽霊でも見たような顔が返ってくる。

「嫌ならいいけど……」

「す、する!   したいっ!   絶対するっ!」

「じゃあ、そろそろいくか……」

「うん……!」

 遥香の語彙の少なさと嬉しそうな表情にあてられて、こっちまで恥ずかしくなってしまったけれど、喜んでくれたようでなによりだ。

 前言撤回――素直な遥香も、やっぱり可愛い。
 
 

 
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