その花びらが光るとき

もちごめ

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 (あの時飲まされたお茶に絶対何か入ってたんだ!!)
頭のてっぺんから爪の先まで燃えるように体が熱い。
少しでも身体の熱を冷まそうと、はっ、はっ、と浅く呼吸を繰り返している。

「もう、止めて!! どうしてこんなことするの!!」

『お茶会をしよう』と言った男は、用意されていたカップにお茶を注ぎ、そして片方のカップに小さな小瓶の液体を数滴たらした。そのカップを私のところまで持ってきて「どうぞ」と渡してきたのだが、手は鎖でつながれているのだから受け取れるわけがない。

「いらない」とつげると、「ふむ、それならば」と、カップのお茶を口に含み、そのまま私の顎を乱暴に掴み、直接流し込んできた。熱くはなかったのだが、お茶に何か入れられていることは分かっているので生理的に受け付けず、胃からこみ上げてくるものがあったのだが、それすらも流し込む様に口を塞いで押し込まれた。
得体のしれない液体をゴクリと飲み込んでしまった気持ち悪さよりも、しつこく口内を舐めまわしてくる舌の方がもっと気持ち悪い。
グチュグチュとわざと音を立て聞こえるようにしているのも、この男の性格の悪さなのだろう。
開いてる方の手はさっきから胸から腰、太ももをさわさわと撫でるように触れていて、嫌悪感から鳥肌が立っている。

どうやらあの液体には即効性があるらしく、じわじわと身体に熱が灯り始めてきた。
少しずつ息が荒くなってきた様子に満足げで「くくくっ、ものすごく感度がよくてとっても淫乱な女神だなんて。どれくらいもつかな~。びちゃびちゃに濡れて寂し気にひくついている場所に、熱くて固いものが欲しかったらいつでも言って? 上手におねだり出来たらたっぷりと可愛がってあげるよ?」
と私を見下ろしながらニヤリと笑みを浮かべ、入り口近くの椅子に腰を下ろした。
私の様子をずっと眺め、私が我慢できなくなる時を楽し気に待っている様子。

絶対に言うもんか。
あんな奴にいいようにされるなんて悔しい。

しかし、どんどん身体は熱くなり、服が擦れるだけで変に快感を拾ってしまい、声を漏らさないように必死に歯を食いしばっている状況になっている。今では制御する意識がフラフラと飛びそうにな程。
未だつながれたままの鎖を外そうと必死に腕を引っ張って入るのだが、鎖よりも先に腕が外れてしまうのではないかと思うほど、腕が痛む。きっと鎖が擦れて手首から血が出ていることだろう。でも、痛みのお陰で何とか正常な意識を保つことが出来ている。

「ねえ!どうしてこんなことするの!!」
「どうして? あはは、面白いことを言うね。そんなの決まってるじゃん。女神をめちゃくちゃにしたいからだよ」

相手の滅茶苦茶な考えの気持ち悪さに鳥肌がたち、自然と涙が溢れる。
こんな頭のおかしな奴とここにいたら本当に危ない。
何とかここから逃げないと、一刻も早く、と思っていたところに、希望の音が聞こえた。
その希望の音は激しくドンドンと鳴り、自然と視線が扉に向く。

レネット王子は一気に不機嫌な表情になり、指でテーブルをトントントントンと叩き始めた。

 尚も止まることなく叩かれる扉を憎々し気に眺め、不機嫌さを露わに「何の用だ、リンド。この部屋には近づくなと言っておいただろ」 と扉の外に向けて言葉を投げつける。


(リンドさんという人がいるんだ。助けてくれないかな……)

 助けを求めるために大声を出そうかと考えていると、そのリンドさんとかいう人とは明らかに違う声が返ってきて、大きく目を見開いた。

「リンドではありませんよ。お楽しみ中なところ悪いんですが、こちらも急用なんで、今すぐここを開けて出てきて下さい」

「!? ローランスさん?! そこにいるんですか?! お願いです、助けて下さい!!」
 必死に大きな声を出し、助けを求める。
 今逃したら、一生ここから出られない気がする。

レネット王子は「ちっ!」 と舌打ちをして苦虫を潰したような顔になり、扉を睨む。

「やっぱりそこにいるんですね、今すぐ助けにいきます!」

 (エルストさんも来てくれたんだ!)

 ガチャガチャガチャガチャとドアを開けようと必死になってくれている。
 
「レネット、すぐにあけなさい」

「……くそっ、リンドの奴、役に立たねえな。せっかくこれからがお楽しみの時間だったのに」

 私を見て「あんただって期待してただろ? 気持ちよくなって早くその熱を冷ましたいはずなのに、残念だったな」と告げ、指をパチンと鳴らすと、さっきまで繋がれていた鎖が一瞬で消え去った。

 何が起こったのか分からず呆然としていたが、「ここを開けろ!」 と激しく叩く音に我に返り、急いでベッドから降り、逃げられる態勢を作る。

 それと同時にレネットがドアを開け、外にいた二人が部屋に勢いよく入って来た。

「無事ですか!?」

  慌てて駆け寄ってきたエルストはその顔に悲痛な表情を浮かべている。
 些か髪がみだれ、額に薄っすらと汗が浮かんでいる。


 (助けに来てくれた)


 自分のことを心配してくれている。
 必死な姿で助けにきてくれたその姿を見たら、抑えてた気持ちが溢れ、思わず抱きついて泣き出した。

 一瞬ぴくっ、といていたが優しく抱き締めてくれ、エルストの胸に顔をうずめる。
 ほのかに香るエルストの香りを胸いっぱいに吸い込む。
 あれだけ火照っていたからだからスーッとほてりが取れ、恐怖心も何もかも身体から抜け落ち、安心感に包まれた。
 ホッとして安心したら、くたっと力が抜けてそのまま眠ってしまった。


 「一体これはどういうことか説明していただきましょうか」
 ローランスがきつい眼差しで問いかける。

「どうしたもこうしたも、俺はただ女神を保護しただけだ」

「保護?」

「ああ、そうさ。たまたま図書室に寄ったら、倒れてる女神を見つけたんだ。だから俺が保護して、ベッドで休ませていただけさ」

「……そんな嘘、通用するとでも?」

「はっ、嘘かどうかなんて、なんか証拠でもあるのか?」

 お互い、目に殺気をちらつかせ睨みあう。

 しばらく目を逸らさずお互いにらみ合っていたのだが、先にローランスが目を逸らす。

「証拠は今のところないですね。今日のところは一旦帰ります。ですが、女神は私の庇護下にあるのをお忘れなく。二度目はないですよ」

 ローランスの体から静かな怒りが溢れ出し、それが渦巻いて空気を揺らす。

 その様子に特に慌てるでもなく、エルストの腕の中で眠る女神を一度だけ見つめ、すぐに興味をなくしたように扉を見つめた。

「勝手にしろ。早くこの部屋から出てけ」

 ローランスはレネットの様子を一瞥し、体から発しているものを収め、エルスト達を連れて部屋から出た。
 部屋の外で控えていたジークは、エルストの腕の中で眠るユナを見つけると、心底ほっとしたように、泣きそうに顔を歪めていた。

 ひとまず女神の無事は確認できたので二人に女神を託し、自分の執務室へと戻った。

    
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