くすぐりセラピー

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あまいくすぐり、きもちいい

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淡いオレンジの間接照明が照らすセラピールームに、かすかな衣擦れと、柔らかな吐息が混ざり合う。茜の身体は、ベッドにゆったりと預けられ、その細い手足は緩やかに固定されていた。

「まだ、大丈夫よね……?」
佐伯の声は、まるで風が頬を撫でるように優しい。茜は小さくうなずき、潤んだ瞳を閉じた。くすぐったさがじんわりと心に沁みて、笑いの衝動を胸の奥で温めている。

池尾の指先が、静かに茜の右足首に触れた。
シルクの修練着の上からでも、その指の移動ははっきりと感じ取れた。足首の内側――心臓と繋がる経絡の一点を、ゆっくり、らせんを描くように撫でられると、茜の口元がかすかに緩む。

「ふふっ……くすぐったい……」
笑い声はまだ控えめだった。それは、彼女が意識を手放すことにまだ少しだけ抗っていたから。

佐伯の手が同時に左足の甲に触れる。足の指の間へと忍び込む細い指が、茜の繊細な神経を優しくつつき、甘く掻き立てていく。
「ひっ……あはっ、やぁ……それ、ダメぇ……」

指の根元、指の間、そして足の甲と足の裏――二人のセラピストは、まるで茜の“心そのもの”を扱うように、丹念にくすぐっていく。

笑いがこみ上げるたび、茜は一度意識を浮上させかけるが、すぐにくすぐったさの波に引き戻されていく。
その笑いは、もう恥じるものではなかった。
むしろ、笑いの中に安心を見出していた。

「全部、委ねていいの。私たちに、あなたの“今”を任せて……」
佐伯の囁きが、耳元で響いた瞬間。
池尾の指が、足の土踏まずの最も敏感な窪みを、すっとなぞる。

「ひぁああっ……ふふ、くすぐったい……ダメ、もう……!」
けれど、その「ダメ」は拒絶ではなかった。
むしろ、さらなる“解放”を望むような、心の奥底からの訴えだった。

二人のセラピストは、くすぐったさを巧みにコントロールしながら、茜の身体の反応を見逃さずに変化を与えていく。
指と指の間を、ゆっくりと、まるで草花を分けるように撫でては、指の付け根を甘く押すようにくすぐる。足の甲は、シルク越しに爪先でなぞることで、独特のゾワリとした感覚を生み出す。
そして足の裏は、左右交互に、ふいに強弱をつけながら。

「もう……わたし、笑うしか……何も考えられない……ふふっ、あはは……!」

茜の声は震え、体は小刻みに揺れるが、くすぐったさを受け入れたその心には、柔らかな明かりが灯っていた。
日常のすべてが、今はもう遠い。
ただ、この感覚だけが真実のように、全身を支配していた。

――これは癒し。
――これは祈り。
――これは、人間であることの喜びそのもの。

池尾と佐伯は、茜のその境地を静かに見守りながら、今夜、最高のくすぐりを完成させようとしていた。
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