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51話 閑話:ジメンクス伯爵家1

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■□■

 ミヒアが選んだソルズとメニーナは夫婦ではないのだが、夫婦を装い潜入するときにはペアを組んでいる。
ソルズは庭師か侍従、メニーナはメイドでも
侍女でも。

 今回ジメンクス伯爵家には、侍従とメイドとしてやって来た。

「夫婦なのか」

 ジロリと経歴書と紹介状に目をやったのは、ジメンクス伯爵グルプ本人だ。

 通常伯爵が一使用人の面接を行うことはないが、この数日で数名の使用人が一気に辞めてしまった。引き継ぎもせずにだ!
当然紹介状も無しだと言い捨てたが、それでも辞めたということは引き抜きがあったのだろう。
残った使用人たちの負担が大きく、急いで探すも良い使用人が簡単に見つかるものではない。

 そんなとき、隠居予定の侯爵が、隠居先の小さな別邸には連れていけない使用人を紹介したいと言ってきたのだ。
付き合いの深い侯爵ではなかったが、身許も確かと紹介され、自身が会ってみることにした。

「はい、この年になりますと夫婦揃って働かせて頂けるお屋敷はそう多くございませんので、感謝しております」

 ふたりは深々と伯爵に頭を下げて礼を言う。
所作も使用人としては上々、落ち着いた物腰と豊富な経験、断る理由はない。

「恩だと思うならしっかり働いて返してくれ」

 不遜な態度でそう述べた伯爵は、話は終わったと立ち上がり、スタスタと行ってしまった。

グルプの気配が消えたのを確認し、そっと囁く。

「うまくいったな」
「いかないわけがないわよ、ミヒア様の計画だもの」
「ああ、じゃあメニーナは予定通り探しものを頼む」
「任せて!」




 翌日からメニーナは人手が足りない家事メイドになった。
重労働だが、どの部屋にも自由に出入りでき、最高なのだ。

「いいのかい?侯爵様のお側にいたのに、家事メイドなんて」

 しわだらけのメニーナを気遣い、行き場がなく残るしかなかった老メイドが声をかける。

「大丈夫!こう見えて力はあるのよ」

 メニーナは笑って答えたが、しわだらけのメニーナは実は演劇用の化粧品でしわを作っている若者なのだ。

 折りに触れ気にかけてくれる老婆が、まるで祖母のように思えたメニーナは、ジメンクス伯爵家が取り潰しになるとき、老婆を助けてやってくれるようミヒアに頼もうと決めた。




 ソルズは侍従として伯爵について歩き、やれハンカチだの冷たい茶だのと、なんならメイドが遣りそうな仕事をやらされていた。

 しかしこれも得難いのだ。
そばについていれば、普段どれほどガードのかたくても、独り言がすべてきこえてくるのだから。
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