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恋と仕事と
第19話
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晩餐の夜、ビルスはタウンハウスに戻るというカーラ一行を引き留めて、客間に泊まるよう強く勧めたのだが、それは翌朝、改めてカーラとノアランの様子を見たかったからだ。
ノーラン・ローリスとの婚約が解消されてから、自ら傷物と宣い、結婚はしなくともよい、仕事で身を立てると走りだした娘をいたましく思っていたビルスは、善き相手が見つかれば次は身分には拘らず、人柄とカーラへの愛情を重視しようと考えていた。
ノアランと話すと、その誠実さが伝わってくる。
まだ甘さは残るが、仕事も一生懸命で好感が持てたのも、ビルスにはポイントが高い。
唯一残念なのは、次男の彼にはどうやら継ぐ爵位がないこと。
「もしそうなれば、それはうちの保有爵位を譲ればいいな」
ビルスの母であり、先代公爵夫人の生家の伯爵家は、子がないままにビルスの従兄弟でもあった今代当主が亡くなった。
直系の血筋は既にビルスの子どもたちのみ。
伯爵を継承する権利を持っているが、公爵家を継ぐ息子と、嫁ぐ娘だったため、シーズン公爵家預かりの保
ビルスは将来長男に男子が複数生まれたら継がせるつもりでいたが、ノアランにそれを与えてもいいと思う。
自分にとって望ましいストーリーを考えて、ひとり悦に入るビルスであった。
翌朝。
目覚めを促すため、ビルスが日課の素振りをしていると、早くもノアランが庭に出てきた。
「おはようございます」
銀髪がキラキラと朝日を乱反射させ、とんでもなく美しい笑顔に、ビルスは思わず目を瞬き、慌てて「おはよう」と返す。
ふと、疑問が湧いた。
(こんな容姿で侯爵家出身で、性格もいいようなのに何故婚約者がいないんだ?)
それはビルスの口からストレートに発せられた。
「シルベスでは貴族といえ、政略的結婚はあまり望まれません。勿論貴族同士ではありますが、恋愛結婚が主流です。
学生時代に相手を決めるなど、早すぎる決断は離婚率も高いとわかり、今はデビュタントを終えてから想いあえる相手を探すのがよいと言われているんです。
だからシルベスは貴族の婚姻も23歳から25歳くらいが多いですね」
「えっ?そ、そうなのか!それは知らなかった」
「カーラ様もそうおっしゃってましたね。コーテズ王国では学院卒業してすぐ政略結婚するのが普通だと」
「そうだ。・・・だからノアラン様も婚約者がいないと」
「はい。ちなみに兄もまだ婚約者はおりません」
シルベスはなんとのんびりした国なのかと、口から出そうになって、ビルスはそれを飲み込んだ。
「そ、そうか。つかぬことを訊ねるがノアラン様」
「はい?」
何故か急に緊張感に襲われ、ビルスの喉がごくりと鳴った。
「うちのカーラのことは、ど、どう思うかね?」
美しい男はポカンと口を開けた。
(こんな間抜け面をしてもなお美しいとは!)
ビルスは口惜しくなったが、カーラとノアランの子どもはどれほど可愛らしいだろうとも頭に浮かんで口元がニヤついてしまう。
「あ、あの」
「うん。正直な気持ちを聞かせてくれたまえ」
暫く固まったノアランは、すぅっと息を吸って吐き出したあと、ビルスに向き直った。
その瞳には決意が籠もっている。
「私は」
ノーラン・ローリスとの婚約が解消されてから、自ら傷物と宣い、結婚はしなくともよい、仕事で身を立てると走りだした娘をいたましく思っていたビルスは、善き相手が見つかれば次は身分には拘らず、人柄とカーラへの愛情を重視しようと考えていた。
ノアランと話すと、その誠実さが伝わってくる。
まだ甘さは残るが、仕事も一生懸命で好感が持てたのも、ビルスにはポイントが高い。
唯一残念なのは、次男の彼にはどうやら継ぐ爵位がないこと。
「もしそうなれば、それはうちの保有爵位を譲ればいいな」
ビルスの母であり、先代公爵夫人の生家の伯爵家は、子がないままにビルスの従兄弟でもあった今代当主が亡くなった。
直系の血筋は既にビルスの子どもたちのみ。
伯爵を継承する権利を持っているが、公爵家を継ぐ息子と、嫁ぐ娘だったため、シーズン公爵家預かりの保
ビルスは将来長男に男子が複数生まれたら継がせるつもりでいたが、ノアランにそれを与えてもいいと思う。
自分にとって望ましいストーリーを考えて、ひとり悦に入るビルスであった。
翌朝。
目覚めを促すため、ビルスが日課の素振りをしていると、早くもノアランが庭に出てきた。
「おはようございます」
銀髪がキラキラと朝日を乱反射させ、とんでもなく美しい笑顔に、ビルスは思わず目を瞬き、慌てて「おはよう」と返す。
ふと、疑問が湧いた。
(こんな容姿で侯爵家出身で、性格もいいようなのに何故婚約者がいないんだ?)
それはビルスの口からストレートに発せられた。
「シルベスでは貴族といえ、政略的結婚はあまり望まれません。勿論貴族同士ではありますが、恋愛結婚が主流です。
学生時代に相手を決めるなど、早すぎる決断は離婚率も高いとわかり、今はデビュタントを終えてから想いあえる相手を探すのがよいと言われているんです。
だからシルベスは貴族の婚姻も23歳から25歳くらいが多いですね」
「えっ?そ、そうなのか!それは知らなかった」
「カーラ様もそうおっしゃってましたね。コーテズ王国では学院卒業してすぐ政略結婚するのが普通だと」
「そうだ。・・・だからノアラン様も婚約者がいないと」
「はい。ちなみに兄もまだ婚約者はおりません」
シルベスはなんとのんびりした国なのかと、口から出そうになって、ビルスはそれを飲み込んだ。
「そ、そうか。つかぬことを訊ねるがノアラン様」
「はい?」
何故か急に緊張感に襲われ、ビルスの喉がごくりと鳴った。
「うちのカーラのことは、ど、どう思うかね?」
美しい男はポカンと口を開けた。
(こんな間抜け面をしてもなお美しいとは!)
ビルスは口惜しくなったが、カーラとノアランの子どもはどれほど可愛らしいだろうとも頭に浮かんで口元がニヤついてしまう。
「あ、あの」
「うん。正直な気持ちを聞かせてくれたまえ」
暫く固まったノアランは、すぅっと息を吸って吐き出したあと、ビルスに向き直った。
その瞳には決意が籠もっている。
「私は」
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