【R-18】男聖ビーストテイマーは5回目の異世界で恋をする【完結】

あいう

文字の大きさ
4 / 15

4話

しおりを挟む
 期限付きで男聖——トモが傍にいてくれることになった。
理由がどうであれ、トモに好意を寄せているリゼとしては嬉しい。神獣であるアリステルをあそこまでしたくらいだ。彼は強いし、絶対に子どもが欲しい。
「トモ様! おはようございます! って……、何してらっしゃるんですか?」
 朝起きるとリゼが暮らしている森の中の小屋にトモはいなかった。アリステルは神狼として過去人間に呪いをかけられ封印されたとかで——あの洞窟から出られないので、リゼの寝床である森の深い場所にある小屋にふたりで寝泊まりすることになった。リゼにとっては子づくりの一世一代のチャンスだが、リゼとて無理矢理事に及ぶつもりはない。嫌われたくないのもあるし、成功確率が低い策を実行するバカでもないからだ。そんなわけで健全に床を共にしたわけだが、朝起きると隣にはトモがいない。どこに行ったんだろうと外を探すと、彼は家の目の前で野イチゴを採取していたのだった。
「……周りの動物たちに食べられる果物を教えてもらっていた。特にこれがおいしいと」
「おなかすいてたんですか⁉ え、そういえば昨日なんだかんだで何も食べてないような……それなら起こしてくれれば……すみません! 僕の落ち度です!」
「謝らなくていい」
 トモが召喚されたのは深夜。そのまま寝てしまったからおなかがすいていたのだろう。とても悪いことをしてしまった。恩人にお腹をすかさせてしまうなんて……。それにしても、食卓には買ったパンやフルーツがあったはずだ。勝手に食べてくれればよかったのに。そう言うと、彼は当たり前のようにきょとんとした顔をして言った。
「人の家のものを勝手に取ったらダメだろう」
 その言葉に今度はこっちがびっくりしてしまった。なんて。
「なんて人間ができてるんでしょう……っ!」
 今まで接してきた人間が大体問題があったのも理由のひとつにはあるが、リゼの脳内のリストの中にはこんなまともなことを言う人間はいない。Ωで発情期があるリゼはアリステルから必要がない限りは人間に近寄らないように言われており、接する人間と言ったら町から物を横流ししてくれるΩの商人や「あの人」のようなまともではない人間だけだ。自分が生きていくためなら他の人間などゴミと同等、利用価値があるかないかで関わるか決めろとアリステルの教えからは「人のものを取ったらいけない」なんてこと考えもしなかった。本の中の人間しかそんなこと言わないと思っていたが、実際口に出して解決案を考えて実行できる人がいるなんて。
「トモ様は素晴らしい考えを持ったお方ですね!」
「異世界あるあるだがお前らがおかしいだけだと思う」
「トモ様がいた世界……聞いてみたいです! すぐにご飯を用意いたしますので食卓で聞かせていただけませんか?」
「……わかった。別に面白くもなんともないと思うがな」
 一緒に家のドアをくぐり、トモは食卓に、リゼは調理場に向かい、野菜スープとパンとフルーツを並べ一緒に卓に付く。その時にトモが話してくれた体験はリゼには想像もつかないものだった。食が飽和しているニホン。そこでは争いも比較的少なく、オメガバース性もない。男女恋愛が基本で、みな平等に勉強の機会が設けられる。子育てもトモが渡ってきた異世界と比べればしやすい方であり、じゅうとうほういはん? というもので武器が持てないルールで戦いもないらしい。まるで天国じゃないか。
「そういう環境で土台ができたなら、トモ様が素晴らしいお方なのも頷けます」
「俺の場合は十代の後半は異世界にいたから他の奴らよりひねくれてる。リゼくんが気に入りそうな性格が良いやつは日本にはたくさんいると思う。父親に呼ぶよう頼んだらどうだ?」
「……その話、まだしてませんでしたね」
「ああ、解呪条件除いても珍しいαじゃなきゃいけないんだったか」
「はい」
「でも、こっちにもいなくはないんじゃないか? ありがちなパターンだと上級貴族ばっかで会いもできないとか? リゼくんほどの可愛さなら拾われることもあると思うけど」
「…………それで揉めて呪いをかけられたんです」
「……は?」
 そう、リゼが異世界人に頼る以外選択肢がなかったほど厄介な呪いをかけられた理由。それは自分のバース性が関係したトラブルが原因だった。
「α性の方は確かに上級貴族が多いです。それに森に住む僕と関わりもありません。ですので、将来僕はお父様が適当に攫ってきた相手と子づくりをするのだと思っていましたが……」
「初手から相手の人権がないな」
「……すみません、こっちでは結構常識で……。まあとにかく年頃になれば、と思っていたんです。そんな時にある男が森にやってきました。魔術師のαです。どうやら獣に怪我を負わされていたようだったので、お父様に隠れてその、かわいそうで手当をしてしまいました……」
「別にいいんじゃないか? 人助けはいいことだ」
「ありがとうございます。でも、お父様の言う通り人間を信じたのがいけなかったんですけど……。その、それが原因で気に入られてしまって、こ、告白を、されたんです」
「おお、よかったな」
「よくないです! だってその人、僕がΩだって知ったらいきなり発情期の周期聞いてきたんですよ⁉ そんなのを子どもの父親にするとか無理です! それで迫られて拒否したら呪いをかけられて……」
 その話をするとトモは首を傾げた。
「でもリゼくんも同じようなもんだろ。初手でセックスしてくれって言うくらいなんだから」
「ウッ」
 痛いところを突かれてしまった。確かに、やってることはあの男と変わりなかったなと昨日の自分の発言に後悔する。
「……確かに僕も同じかもしれません……。考えを改めさせてください……。でも、誰にでもこうってわけじゃないんです。トモ様にだけで……」
「呪いを解いたから?」
「いえ、普通に見た目が好みだったのと」
「お前ら親子はオブラートって言葉知ってる?」
「あと普通にお父様が選んだ相手だったからです。この人なら幸せになれるんだろうと……」
 アリステルとはずっと一緒にいる。洞窟で拾われて、育てられ、年頃になればこの家をあてがわれて。生き方も何もかもを彼から教わった。彼は人間に詳しく、損得勘定なしで一緒にいられる家族を持つのが一番幸せになれるとリゼに言い聞かせていた。一度、自分がΩ、搾取される側だと知ってから反抗期になって「家族を作れ」とうるさいアリステルに問いただしたことがある。
『なんだよ! 子どもを作れば幸せになれるってばっかり! 本当は僕が邪魔になっただけなんだろ⁉』
 今振り返れば、恩人になんてことは思うが、反抗期のリゼにとってはとても大切なことだった。だって、リゼには子どもや家族を作る重要性がわからない。考えられるとしたら、アリステルが自分を育てるのが嫌になって、どこぞの誰かに押し付けようとしているに違いない。そんなリゼをアリステルはもふもふの腕で撫でて諭した。
『リゼ、私はね、お前が来てとても幸せなんだ。家族ができる事の幸せを教えてくれたのはお前だ。だから私はお前にもその幸せを味わってほしいんだよ』
 その言葉に子どもだったころのリゼは泣いてしまった。それから「ごめんね」と「ありがとう」を。そのあたりからだと思う。自分にも家族を作る必要がある、父がそれを望み、それで自分が幸せになれるなら番を作るのが最善だと。相手は、自分を大切にしてくれる人。その大切は……何かわからないけれど、魔術師の男のような身体目的の人間ではないはずだ。
 そこまで説明すると、トモは首を傾げた。
「リゼくんがその考えなら、きみは幸せになれないよ」
「えっ」
「だってリゼくんは自分の幸せの定義すら、他人に押し付けてるだろ」
「ていぎ」
「父親から言われた『番を作る』ということだけが幸せだと思ってる。少しは自分で考えた方がいい。誰かを選べるようになったら出直してこい」
「自分で……」
 自分で考える。考える事を放棄したのはいつ頃だっただろう。それこそ、初めて自分で考えて感情を吐露したのが反抗期のあの頃だったからそれまでもそれ以降も……。と思い返して頭が真っ白になる。あれ、もしかして、自分は何も。
「僕、何も考えてない……!」
「気づけて良かったな」
「ぼ、僕はどうすればいいんでしょうか……」
 なんせ今までの人生、全て人任せだったものだから何もわからない。そんなリゼの頭をトモは撫でて言った。
「やり方がわからなければ手伝ってやる。この一週間で探していこう。それが俺がここに呼ばれた理由だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...